第14話 魔女の気がかり
窓のそばの机で本を読んでいると、カランと音がして本の世界から帰ってきた。
机の上のグラスを見ると、氷が小さくなっていることに気がついた。
薄くなった紅茶を一口飲み、外を見た。
庭の赤い薔薇が今日も美しく咲いている。
薔薇を見ると、一人の王子と美しい城を思い出す。
10年前、私はとある城に魔法を掛けた。
若く美しい王子と、召使いたち全員の姿を変える魔法だ。
その城の王子は人を見かけで判断し、真実を見ることが出来なかった。
周りには沢山の大人たちが居たのに、誰も王子の問題を正そうとはしなかった。
王子に魔法など掛けず、そのまま見過ごすことも出来た。
しかし、この王子の城は本当に美しかった。
この城が王子と運命を共にするのが惜しかった。
城を乗っ取ってしまおうか?とも考えたが、王子に最後のチャンスを与えることにした。
ただの気まぐれだった。
「あの王子には無理だったのかしらね。」
独り言が空へ消えてゆく。
あの日から10年経った。
私の魔法が解けた気配は無い。
薔薇の花びらが全て落ちる日もそう遠くないだろう。
家を見渡し、家具家財を見て考える。
この机はあの城には必要ないかしら?
お気に入りのティーポットとグラス、カップは持って行きたいわね。
ベッドは大きい物に変えて、天蓋なんかをつけてもお城なら違和感はないわね。
王子の魔法が解けなければあの城を自分の物にするつもりだ。
「さて、引きこもり王子の様子は、、、。あら?あら!あら!」
王子に渡した魔法の鏡と同じ物で、城の様子を見ていると変化があった。
城に女の子がいるのだ。
読みかけの本を本棚に戻し、グラスに氷を入れ、ティーポットから紅茶を注ぐ。
本を読むよりもこちらを見る方が面白そうね。
魔女はまだ知らない。
この日から王子と女の子の恋を見守り、応援し、二人が結ばれた際には駆けつけるほどに夢中になることを。
魔法のおかげで結ばれたと二人に感謝されることを。
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