第13話 屋敷の噂



僕の住んでいる街には、誰も住んでない大きなお屋敷がある。

門の隙間から見える広い庭は、雑草や枯れた木で荒れ放題。

窓は割れているし、ドアも傾いている。

白い外壁には蔦が絡まっている。


子どもたちの間では 幽霊屋敷、ゴーストハウス なんて呼ばれている。

あのお屋敷で幽霊を見た!なんて噂を学校ではよく耳にする。


そんな屋敷の塀には、子どもだけが通れるくらいの穴がある。

大人は誰も知らないが、子どもたちはよく幽霊屋敷に入って肝試しをしていた。

「ここは子どもだけの秘密の場所!ネバーランドだ!」

なんて言って盛り上がった。


僕も一度だけ友達と幽霊屋敷の中に入ったことがある。

屋敷の中は埃と蜘蛛の巣だらけで、電気は点かないから懐中電灯を持って入った。

家具や、食器はあるが、どれも埃で埋まっている。


2階の一番奥の部屋は寝室だったみたいで、ベッドとドレッサーが置いてあった。

ドレッサーの中には白黒の家族写真があって、女の人が赤ちゃんを抱いていた。

違う赤ちゃんを抱いた写真がそれぞれ一枚ずつあった。



「幽霊屋敷にはどうして人が住んでないのかな?」

ある日僕はおばあちゃんに聞いてみた。

おばあちゃんなら何か知ってるかもしれないと思ったから。


「おばあちゃんも本当のことはわからないけど、噂なら聞いたことがあるよ。」

おばあちゃんが編み物をしながら幽霊屋敷の噂を教えてくれた。




あのお屋敷にはね、夫婦が住んでいたらしい。

ある日夫婦の間に男の子が産まれて、みんなで喜んだそうだ。

しかし、男の子は産まれてすぐにお屋敷から消えてしまった。

誘拐されたのか、動物に連れ去られたのか、どうして居なくなったのかは誰もわからなかった。

男の子を失った悲しみで奥さんは毎日泣いて暮らしていたそうだ。


しばらくしてから、夫婦の間にはまた赤ちゃんが産まれた。

二人目の赤ちゃんが居なくなるのが怖くなった夫婦は、違う街で暮らすことを決めたそうだ。

こうしてあのお屋敷は無人のお屋敷になったそうだよ。



話を聞き終わると、僕はこの話は本当かもしれないと思った。

違う赤ちゃんが映った写真が2枚あったし、もし子どもが二人いたなら後から産まれた方の家族写真には上の子が映るはずだから。


「消えた赤ちゃんはどこに行ったんだろうね。誘拐されちゃったのかな?」

と僕が聞くと、おばあちゃんは空を指差した。


「空へ飛んで行ってしまったのかもしれないね。案外、遠くで楽しく暮らしているのかもしれないよ。」

おばあちゃんの指先を見ると雲が流れていた。


もしかしたら本当に赤ちゃんは空に飛んで行って、どこかで大冒険をしたり、楽しく暮らしているのかもしれない。



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