第12話 許せない泥棒


ああ、俺は死ぬのか。

そう思うと涙が溢れた。

溢れた涙が俺と一緒に地面へと落ちていく。

もうすぐ地面にぶつかる。

死への恐怖と、悔しさで涙が止まらない。


ここ数日、俺の家に泥棒が入っていた。

金貨や、銀貨、金の卵を産む鶏が次々に盗まれていた。

泥棒は俺が寝ている隙に物を盗んでいるようだった。

犯人の匂いだけが少し残っている。


今日はお気に入りのハープの音楽を聴いて、昼寝をしていた。

俺が気持ちよく寝入った頃、ハープの声が聞こえた。

「旦那様!旦那様!泥棒ですよ!」


俺はすぐに飛び起きた。

声のする方を見ると、ハープを持った人間の子供が走り去る姿が見えた。

ここ数日の泥棒の正体が明らかになり、俺は子供を追いかけた。

捕まえて食ってやろうと思った。


子どもを追いかけて雲の上を走っていると、木が見えた。

子どもは木を降りて行った。


子どもを追いかけ、俺も木を降りた。

絶対に捕まえて、盗んだ物を取り返し、子どもを食ってやらないと気が済まなかった。


もう少しで追いつく!というところで、急に木が揺れ始めた。

揺れはどんどん、どんどん大きくなり、やがて木が傾いていくのを感じた。

気がついた時には木は倒れ、俺は地面へと落ちて行った。


怖くて、怖くて、倒れる木を掴む手に力が入る。

手が汗でじんわり濡れるのを感じる。


泥棒を追いかけなければ、もっと早く走って捕まえていれば、豆の木を降りなければと、後悔が波になって襲ってくる。


宝物を盗まれた俺が悪いのか?

なぜ盗まれた側がこんな目に合わなければならないんだ?


空から落ちている間は長く、たくさんのことが頭を駆け巡っていた。

考える時間はたくさんあるのに、地面に叩きつけられる瞬間を待つだけ。

重力に逆らうことはできない。


地面が近くなってきた。

もうすぐ俺は死ぬだろう。

あの子供が不幸になりますように。

あの子供を許さない。


後悔と、恐怖と、子供への恨みとを持ちながら、涙と、鼻水と、汗でぐちゃぐちゃになりながら、俺は地面に叩きつけられた。

自分が地面に叩きつけられる音を聞いた。

全身が酷く痛かったが、すぐに楽になった。



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