第9話 僕の眠り姫
僕の恋人はお城で働いている。
休みの日になると、街へ僕に会いに来てくれる。
城の掃除や、お妃様やお姫様の身支度、料理の配膳、お客様へのお茶入れなどをしていると話していた。
お城の仕事が本当に楽しくて、ずっと続けていたいと笑う彼女が好きだった。
街を歩いて散歩をしたり、買い物をしたり、お茶を飲んだり、友達とも同じことをするのに彼女との時間は特別に感じた。
その日は彼女と話題の紅茶を出す店に訪れていた。
彼女はお妃様とお姫様の仲睦まじいご様子が羨ましいと話していた。
「私ね、お妃様とお姫様を見ていて、私も子どもを産みたいなと思ったの!」
と、僕から目を逸らして言う。
僕からどんな反応が返ってくるかわからないから、怖いのだろう。
「僕も、子どもが居たら楽しいと思う。」
テーブルの上の彼女の手を握り、真っ直ぐ目を見て言った。
彼女も僕の目を見てくれた。
「子どもを育てるなら、君とがいいんだけど、、どうかな?」
ドキドキしながら伝えた。
「私も、あなたと一緒がいいわ!」
少し涙目になった彼女が笑顔で答えてくれた。
その日、彼氏と彼女から婚約者になった。
自分の今までの人生、これからの人生が全てが幸福に感じられた。
彼女との結婚の準備が進む中、お姫様が15歳のお誕生日を迎える日となった。
街はどこもかしこも、お祝いムードで溢れている。
来週には彼女がお城から、僕の家へと引っ越してくる予定だ。
僕は彼女との生活が楽しみで、毎日部屋を隅々まで掃除していた。
次の週になっても、次の月になっても、次の年になっても、彼女は僕の元に来てはくれなかった。
15歳の誕生日のあの日、お姫様は眠ってしまったらしい。
お城はイバラで包まれ、誰も中に入ることは出来なかった。
お城から出てきた人は誰も居ない。
もちろん彼女も。
誰も彼もがお姫様と共に眠りについた。
誰もお城へ入れない月日が経つ中で、お姫様は 眠り姫 と呼ばれるようになった。
眠り姫は何年経っても目覚めなかった。
あの日から長い長い年月が経ち、僕は顔も手もシワだらけになった。
髪も真っ白で、この姿じゃあ彼女が起きても僕のことをわかってくれないだろう。
それでも僕は彼女が起きる日を待ち続ける。
死んでも待ち続ける。
僕の眠り姫が起きるその日まで。
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