第6話 娘のお使い



今日は朝からケーキを焼いた。

家中が美味しそうな匂いに包まれている。

籠にはワインも用意した。

どちらも母の好きな物だ。


籠にワインとケーキを入れて、娘を呼ぶ。

今日は娘にお使いを頼む日。

私は用事があって一緒には行けない。

少し心配だけど、娘なら出来ると信じて送り出すことを決めた。


寄り道をしないこと、ワインが割れないように気をつけることを何度も伝えた。

元気な返事が返ってくるけど、本当にわかってるのかしら?


「行ってきまーす!」

娘が元気に家から飛び出して行った。

私の母から貰ったお気に入りの赤い頭巾を被って、小走りで進む娘。

一人でお使いにも行けるようになったなんて、感動してしまう。


用事から帰ってきたら娘にもケーキを焼こうかしら?

母と一緒に食べてくるかもしれないけど、娘の為にも焼きたいわ!

晩御飯も好物でいっぱいにしてあげなきゃね!

大袈裟に褒めてあげることも忘れずに!

そんなことを考えながら私も家を出た。



その日の夕方。

この家から聞こえてきたのは娘を褒める声ではなく、母親の怒鳴り声と娘の謝る声だった。

母親の声は怒鳴り声から泣き声へと変わって行った。

心配するような、安心したような、そんな泣き声だった。



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