第4話 母の思い



自分の命が長くないことを知った時、死ぬことよりも娘と会えなくなることが悲しかった。

娘を残していくことが悲しかった。


可愛い可愛い私の娘が、どうか幸せになりますように。

そう思いながら眠りについた。


何年も待っていたが、娘が私の眠る場所に来てくれることはなかった。

私を忘れてくれていてもいいから、ただ幸せになっていてほしかった。


ある日私の眠る場所に大勢の人がやってきた。

誰も彼も綺麗な格好をしているし、護衛もいるので身分の高い人たちだと思った。

その人たちの中から綺麗な女性が歩いてきた。

隣を歩く男性と話す姿が本当に幸せそうで、こちらも嬉しい気持ちになる。


ああ、娘だ。

何年経ったかわからないけど、自分の娘だとわかる。

美しく、素敵な女性になっていた。


娘は自分のことを私に話してくれた。

父親の再婚相手とその娘たちに召使いのように扱われていて、ここに来られなかったこと。

魔法使いのおばあさんのおかげで舞踏会に行けたこと。

そこで出会った王子様と結婚することになったこと。

今はとても幸せなこと。


ごめんね。

私が死んだから、苦労をかけてしまった。

たくさん辛い思いをさせてしまった。

ごめんなさい。

王子様、娘を選んでくれてありがとう。

幸せにしてくれてありがとう。

これからも娘をよろしくお願いします。

どうかこれからも、娘が末長く幸せでありますように。

私の声は届かないけど、それでも娘に精一杯声をかけた。


また来るわ、お母さん。

と言った娘の優しい笑顔と、王子様と仲睦まじく話す姿が嬉しかった。


心から安心すると、今までで感じたことのないほどの眠気を感じた。

次に娘が来てくれる時まで眠ろうと思う。

次に来てくれた時には、王子様との幸せな生活について話してくれることを願って。

娘の幸せを永遠に願って、私は深い深い眠りについた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る