未来の俺から「幼馴染の彼女を完全攻略する方法」を教えてもらったんだけど
久野真一
第1話 未来の俺から「幼馴染の彼女を完全攻略する方法」教えてもらったんだけど怪しい
未来の自分が目の前に現れる。
あるいは、未来の自分からのメッセージが届く。
時間ものSFではありきたりのシチュエーションだ。
しかし、それが目の前に現れた今、俺はどうすればいいのか。
【おっす。久しぶりと言えばいいのか初めましてと言えばいいのか。俺は
スマホに届いたメールを見て、俺は自然と険しい表情をしていた。
(スパムか?)
しかし、俺の本名を見事に言い当ててるし、スパムには無理な芸当だろう。
なら、俺を知る誰かが俺を騙っている?
しかし、Fromは確かに俺自身のメールアドレスだ。
送信時刻も2031年8月25日となっている。
メールヘッダで
それを知った時、背筋が震える思いがした。
(まさか、本当に未来の俺?)
落ち着け。他人を騙ったメールである可能性は残されている。
【あの。いきなり未来の自分を名乗られても困るんですが。もし、未来の俺だと言うのなら、何か証拠を示していただけませんか?】
頼むから、偽装メールであってくれ。
どこの誰だよとはなるけど、意味不明なSF染みた現象ではない。
【そうだな。
マジか。謎の人物の語る情報は全て当たっている。
いやまて。どこかから個人情報を収集した可能性もまだある。
クラスメートでも、多少調べれば俺の生い立ちもわかるだろう。
もっと何か。非常に個人的な出来事を。そうだ。
【今の情報だけならクラスメイトでも言えますよね。俺がここに引き取られたときに、
言えるはずがない。お義母さんだってお義父さんだって知らない情報だ。
【「これからは私の事を本当のお姉ちゃんだと思っていいからね」だったか?】
今度こそ本当に背筋が凍る思いだ。
俺の他には智姉しか知るはずがない情報。
かといって、智姉がこんな意味不明な真似をする理由もない。
(マジで未来人っていうのかよ)
勘弁して欲しい。SFはSFだから楽しいのだ。
現実がSFになったらたまったものじゃない。
ともあれ、この誰かさんは未来の俺として話を進めよう。
【わかった。あんたが未来の俺だというのは受け入れよう】
【ほう?妙に受け入れるのが早いな】
【現実逃避をしても仕方がないからな。で、未来の俺さんは何をしに来たので?】
どんなびっくり技術を使ったのかわからないが。
わざわざ過去にメールを送るくらいだ。相当な理由だろう。
【お前と智子に恋人になってもらう】
確かに、SFラブコメのお約束ではある。
たとえば、未来の俺が智姉と結ばれなくて後悔しているとか。
あるいは、未来の俺は何かの理由で智姉と結ばれなければいけないとか。
しかし、これは現実なのだ。いまいち釈然としない。
【そもそもなんで俺と智姉が?何かの事情でもあるのか?】
何故か、しばらく返信が返って来なかった。
これまではすぐに返信が返って来ていたのに。
【答えられない】
【なんでだよ】
【これを話すと歴史が致命的に変わってしまうということだ】
【メール出した時点で歴史変わってるだろ】
納得が行かない。
【聞き分けが悪いな。とにかく俺は未来のお前だ。俺は俺の事情でお前と智子にくっついてもらう必要がある。お前は智子と恋人になりたくないのか?】
く。そこを突かれると弱い。
現在、高校三年生で、この若さで天才プログラマーとして名を馳せている。
TVの「熱情大陸」でも取り上げられたくらいだ。
しかも十人が十人振り向くような容姿で、才色兼備というのにふさわしい。
もちろん性格的にも色々美点があるのだが以下略。
【さすが俺。よくわかってる。で、あんたは何かしてくれるのか?】
何かしら策はあるのだろう。
【もちろん。お前の好きな智子の完全攻略法を教えてやる】
完全攻略法ねえ。
【あんたは未来で智姉と恋人になってるのか?】
【ああ。そうだ】
攻略法を知っているのも納得だ。しかし。
【なら放置しとけば勝手に智姉とくっつくだろ】
やはり解せない。
【それには深い事情があってだな。とにかく。智子と恋人になりたいんだろう?】
YESかNOか問われればYESだ。
【そりゃなりたいけどさ。智姉は俺の事は弟扱いだぞ?】
一緒に出かけると、大体支払いは智姉が持とうとするし。
服飾店で俺を着せかえ人形にして遊んだりするし。
仲がいいと言えばいいけど、異性として認識してるかどうか。
【昔の俺もそう思っていたさ。しかし、実は智子は俺の事を意識してるぞ?】
【あんたが言うならそうかもしれないけど。具体的には?】
【そうだな。昨夜、脱衣所で智子と遭遇しただろう?様子が変じゃなかったか?】
【言われてみれば。妙に挙動不審だった気がするな……」
昨夜の事を思い返す。
とっくに智姉はお風呂から出たものと思って脱衣所に行った時の事。
智姉がお風呂場から出てきたところだった。
大昔なら「あれ?ひょっとして照れてる?」なんてからかって来たものだった。
昨日はと言えば。
「あ、ご、ごめんね。ごゆっくり」とすぐに脱衣所を立ち去ったのだった。
【言われれば納得感があるんだけど。俺にどうしろと?】
もし、智姉が俺の事を意識してくれてるなら嬉しい。
家族としてここまで来たけど、意識させてやるとは思っていたのだ。
【そうだな。今日、智子をデートに誘え】
【今日?いきなりだな。まだ朝だから行けると言えば行けるけど】
現在時刻を確認すると、午前10時。
智姉も今日は予定がないと言ってたはずだし、誘ってみることは可能だろう。
【なら誘え。ちなみに場所は遊園地をお勧めする】
【デート場所まで指定かよ。意識してるなら、他でもいいんじゃないのか?】
【俺の知っている歴史では、遊園地デートを経て恋人になっている】
【つまり、それ以外だとどういう理由で外すかわからないと】
【そういうことだ】
つまり、今から智姉を遊園地デートに誘って。と言っても午後しか使えないけど。
そうすれば、智姉と恋人になれると。
【なあ、遊園地に誘ったとしてだ。告白は俺からするのか?】
こいつの案に乗るにせよ乗らないにせよ、それが知りたかった。
ただ、俺がデートに誘うわけだから、俺から告白するのが筋か。
【心配しなくていい。デートにこぎつければ、智子から告白してくれるはずだ】
またなんとも都合のいい事だな。
智姉は俺をぐいぐい引っ張りたがるから、ありえない話でもないか。
【わかった。つまり、遊園地にデートに行って、告白されて恋人になればOKと】
未来人さんはどうでもいい事に首を突っ込みたがるもんだ。
【そういうことだ。ただ、ほんの少しの選択で未来は変わる。その事を肝に命じろ】
【あんたが既に変えてるだろ】
【必要悪という奴だ。幸運を祈る】
これを最後にメールの応酬は途切れてしまった。
はてさて、どうしたものか。
幸いというべきか。今日はお義父さんとお義母さんの両方外出中だ。
隣の部屋でプログラムでも書いているであろう智姉を誘うのは難しくない。
ただ、どう切り出すべきなんだろうか。
「一緒に遊びに行かないか?」
だけだと、いつものノリで楽しく遊んで終わりになってしまう。
きちんと、「デート」を強調すべきだろう。
しかし、気が重い。
未来人曰く必ず成功するらしいが、歴史変わってるだろうし。
(考えすぎても仕方がない)
トントン、と隣部屋の前に立ってノックをする。
「智姉。ちょっといい?」
「いいよー。ちょっと作業中だから、適当に入ってて」
「じゃ、お邪魔します、と」
八畳程はあるかといった智姉の自室。
高校生プログラマーだけあって多数の技術書。
ごつくてでかい速そうなデスクトップPC。
メッシュWi-Fiルーターや謎のサーバ。
何とも無骨な部屋である。
ノリノリでキーボードを叩いている智姉はなんとも楽しそうだ。
こういうのが智姉の世界なんだろう。
「どうしたの?何か相談?」
くるっと椅子を回転させてこちらを向いた智姉。
その優しげな目と微笑みはいつも心を癒やしてくれる。
この家に引き取られた時もこの笑顔に救われたっけ。
と、いけない、いけない。
「今から遊び……いや、デートに行かない?」
正直言って手のひらから汗がでるし、額からも脂汗。
未来の俺(仮)は成功確実のように言っていた。
だが、未来の俺(仮)がメールした時点で歴史は変わってるかもしれない。
智姉だって弟と思っている相手がいきなりなんてびっくり……あれ?
なんかやけにニヤニヤしてるぞ?
「いいよ。行こっか。それにしても、たっくんとデートかあ」
んん?なんだこの反応?
もうちょっと意外そうにするもんじゃないのか?
「デート場所は決まってるの?」
ああ、そうだよな。伝え忘れてた。
「近場の遊園地とかどうだ?午後からになるけど」
未来の俺がなんで遊園地をチョイスしたのか謎だ。
時間がかかるのは前日までに言っておくものだろうに。
「今からだとちょっと遅くない?」くらいは言われそうだ。
そう覚悟していたのだけど。
「行こ行こ!最近出来たジェットコースターに乗りたかったの!」
「ああ。それは良かった。一時間後にリビングに集合でいいか?」
「私もちょっと身支度に時間がかかるし。デート、楽しみにしてるね♪」
「ああ。俺も楽しみにしてる」
話し合いを終えて智姉の部屋を出た俺はと言えば。
「はあ。すっごいドキドキした……」
心臓のバクバクが未だに収まらない。
それにしても智姉のあの様子。
やはり未来人の言うことは正しかったのか。
俺とのデートを明らかに楽しみにしてくれている。
今更妙な気を遣う仲じゃないから一発でわかる。
しかしなあ。このままうまく行ったとして。
何か未来人の言うレールを走っているようで釈然としない。
いっそのこと俺から告白してみようか。
雰囲気次第だけど、こう、俺なりに納得行く方法を取りたい。
(でも、こうなるなら服買っとくんだった)
今日で告白するわけだし、普段一緒に遊ぶのとは雰囲気を変えたかった。
今あるので一番良さげなのを選ぶしかないか。
未来の俺もせめて前日に言ってくれればいいのに。
なんて愚痴を言っても仕方がないか。
慌てて自室に戻ってデートの準備をしたのだった。
◇◇◇◇
待つこと約30分。
「お待たせ、たっくん」
出てきた智姉を見て一瞬、言葉を失った。
水色のブラウスに白のロングスカート。
長い髪は肩まで下ろしていて、清楚さを引き立てている。
170cm近い長身な智姉だけどよく似合っている。
「どう。似合ってる?たっくん」
思いっきり突き刺さった。
「あ、ああ。すごい似合ってる。綺麗だ、と思う」
綺麗だ。で終わらせておけばよかったのに。
「「思う」って。女としては断言して欲しいなー」
何この可愛い生き物。
いつもの年上風を吹かせる智姉はそこに居なかった。
「ごめん。智姉、すごく似合ってて綺麗だ」
多少恥ずかしいが構うものか。
好きな女性を射止めるためだ。
「ありがと。たっくんも似合ってるよ」
智姉はそう褒め返してくれる。
「あ、ああ。智姉には及ばないけど」
これ、凄くいい雰囲気って奴では?
「じゃ、行こっか」
言いながらさりげなく手を繋いでくる。
「あ、うん」
さすがに智姉も緊張してるらしい。
少し手汗をかいているのがわかる。
「なんか安心したよ」
「安心?どうして?」
「智姉、誘った時から余裕そうだったし」
こっちの方があっけなくOKされて驚いたのに。
「余裕なわけないよ。お付き合いしたこともないのに」
「え?でも、智姉、モテてるだろ。彼氏が昔居……」
途端、険しい表情で睨まれてしまった。
「たっくん。今、デート中なんだけど?」
あ、しまった。失言だった。
「いや、ごめん。過去の事掘り返すつもりはなかったんだ」
別に智姉が仮に彼氏が居たことがあっても関係はない。
「そうじゃなくて。別に彼氏居たことないんですけど?」
「ええ?確かに、家ではそれらしい様子が無かったけど」
それにしたって高校の二年間の智姉はよく知らない。
てっきり、彼氏が居たことがあるもんだとばかり。
「なんか、世間では天才プログラマとか呼ばれてるでしょ?私」
「実際、既に商用ソフト売ってるし、色々なプロジェクトに参加してるんだろ?」
「それはそうだけどね。とにかく、なんか私は「恐れ多い」らしいの」
智姉の顔は少しだけ寂しげだった。
「別に集中力が異常な以外は普通だと思うけどなあ」
実績だけで見ると、近寄りがたいと感じてしまうのだろうか。
「別に虐められたりハブられたりするわけじゃないんだけどね。でも、最初に「凄い人」っていう先入観があるみたいでちょっと寂しいかな」
なら問題は余計に難しいんだろう。悪意がないだけに厄介だ。
「俺は昔から智姉は智姉としか見てないから」
だから、それだけを言うに留めた。
「うん。私もたっくんはたっくんだと思ってるよ」
和やかに話しながらデート場所の遊園地への道を歩く俺たち。
「ところで、今日はコンピュータの話は封印?」
学校で話を聞けるレベルの生徒が居ないからか。
智姉はやたらコンピュータ関係の話を俺に振ってくる。
「さすがに今日はね。たまには頭空っぽにしたいし」
俺も智姉の話についていくためにある程度勉強はした。
思ったのは、プログラミングは恐ろしく頭を使うということ。
彼女は一晩中集中してることもざらにあるけど、凄まじいというしかない。
ともあれ、だからこそ、頭を休めたいこともあるのだろう。
◇◇◇◇
電車で数駅のところにその遊園地はあった。
幸いまだ午後1時半。時間はたっぷりある。
「智姉はジェットコースターだったっけ」
「そうそう。先月出来たばっかりなの!」
やけにはしゃいでるなあ。
逆に俺の方が落ち着いてしまいそうだ。
「何か生暖かい目で見られてる気がする」
「だって、智姉が凄いはしゃぎようだから」
「私だって年頃の女子だから、そういうこともあるの!」
「だよな。今まで、姉さんとしての智姉ばっか見てたから新鮮で」
つい口をついて出た言葉だった。
しかし、智姉はと言えば激しく動揺。
「え、えーと。それ、は。女の子として意識してくれてるってこと?」
「あ、ああ。うん。そのつもり。大体、デートだって言っただろ」
「そうだよね。私も、ちょっと意識してる」
「どういう意味で?」
「男の子として」
「あああありがとう」
遊園地に入場してからまだ数分。
俺たちは早くもクライマックスなムードだ。
しばらくして、智姉ご要望のジェットコースターに到着。
「あ、たっくん。ちょっとトイレ行ってくるね」
「ああ。行ってらっしゃい」
言葉に出来ないけど、なんか不自然なんだよなあ。
そもそも、誘われるのをまるで予想していたような振る舞いが気になる。
いくら智姉も俺を好いてくれてたとしても、少しは驚くはず。
(まさかな)
一つの嫌な考えが頭に浮かぶ。
つまり、未来の俺を名乗る誰かさん=智姉という仮説だ。
SF要素を消せば逆に一番ありえそうな仮説とも言える。
Fromだって偽装可能だし、その他の要素にしたって。
大体、うちの家庭内ネットワークは智姉が組んだものだ。
パケットを書き換えるくらいは出来るんじゃないか?
【俺の言うとおり、うまく行っただろ?】
そして、タイミングの良いメール。
露骨に怪しい。
【なあ、正直に答えて欲しいんだけど。智姉だろ?】
回りくどいやり取りは不要。
疑いを突きつけて反応をみるのだ。
【何を言っているんだ?智子は今、お前とデート中だろう?】
予想通りシラを切って来た。
【なら一つ聞くけどさ。なんでリアルタイムに俺の状況知ってるの?】
もはや智姉の仕業だと確信している。
【それは未来の技術では、リアルタイムに過去を追跡出来るからで】
智姉は往生際が悪い。
大体、最初から変だったのだ。
近未来に過去にメールを送る超技術なんて開発されるわけがない。
それに引き換え、智姉が偽装しているとしたらどうだ。
家庭内LANは智姉が掌握している。
未来からのメールぽいものを仕立て上げる事だって可能だろう。
【まだシラを切る?実は今さっき受信したメールを確認したんだけど、送信日時は現在時刻と同じだったし。ここがローカルネットワークじゃないのを忘れてたんじゃない?】
実はこれは嘘だ。そもそも、送信日時自体は他の方法でも偽装可能だ。
智姉がそんな初歩的なミスを犯すわけはない。
受信側SMTPサーバでのReceivedヘッダは明らかに妙だったけどね。
【はあ。たっくんが悪い子に育ちゃってお姉ちゃんは悲しいよ】
【これも智姉に付き合うためにつけた知識なんだけどね】
トイレに行ったはずの智姉は気づいたら、戻ってきていた。
衆人環視だと都合が悪いので、人気のない場所に移動する。
「それで?なんで智姉はこんな回りくどいことをしたの?」
未来の俺からのメールを偽装してまで一体何をやりたかったのか。
「……たっくんのことが好きだから」
「え?」
出てきた言葉は思いも寄らない事だった。
「そ、それだったら、素直に告白してくれればいいだろ」
「私はあくまでお姉さんで。女子として見られてないのかなーって」
「そんなわけないって。昨日、脱衣所で遭遇した時もドキっとしたし」
「え?凄く冷静そうに見えたのに」
だんだん話が見えてきた。
「つまり、智姉は俺に自分から告白するのが怖くて。それで気持ちを確かめたと?」
「は、はい。そうです。すいません」
昔から時々子どもぽい事をすることはあった。
しかし、まさかこれほどとは。
「たっくんの気持ちを確かめるために、ズルいことしたとは思ってる」
しょげた様子で謝罪してくるけど、言いたいのはそういう事じゃなくて。
「俺の方こそ智姉に男として見られてるか気になってたんだけどな」
「ちょ、ちょっと待って。ということは」
「最初から俺は智姉の事好きだったよ。中学に上がる頃くらいには」
思えば長い恋だった。
「で、でも。二人きりで遊びに行っても緊張した様子無かったし!」
「弟分と見られてそうだから、諦めてただけ」
「私なりのアプローチのつもりだったんだけど」
「気になる男性を好きに着替えさせて楽しむのが?」
白けた目で愛する女性を見つめる。
こんなアホなことになろうとは。
「お姉ちゃん、ちょっと悪ノリしてました」
「本当だっつうの。前は女装させられたこともあったし」
以前の思い出がドンドン蘇ってくる。
智姉が俺をかわいがってくれていたのは疑いようがない。
でも、時々、俺が引くくらいやり過ぎだったのだ。
「それで。色々悪いこともしちゃったけど」
「赤の他人にやったら不正アクセス禁止法に引っかかるかもね」
「わかってる」
「じゃあ、OK。でも、これからは妙な仕掛けはやめて欲しい」
「うん。約束する」
約束か。
「どうしたの?」
「以前は俺が悪さをして、智姉に約束した事が多かったなって」
「好き嫌いしません、とか?」
「あとは食べ物を粗末にしませんとか。色々約束させられた」
姉貴分としての智姉の矜持でもあったんだろう。
「うん。それで、最初にした約束は覚えてる?」
ぱっちり瞳を見開いて真剣な表情。
「「これからは私の事を本当のお姉ちゃんだと思っていいからね」だよな」
忘れられるはずがない。
身寄りがなくて泣いていた俺にとっての最初の救いだったのだから。
「でも、これからは違う約束にしたい」
「ああ」
「私は、たっくんのお姉ちゃんじゃなくて恋人になりたい!です」
智姉の精一杯の告白。
「俺の方こそ。弟じゃなくて恋人になりたい」
俺も精一杯の気持ちを返す。
「最初からこうしてれば良かったね」
気がつけば一時間程経っていた。
「智姉が変に臆病だから」
「それは謝るけど」
「いいけど。ところで、どうやって偽装したの?」
「まず、受信側SMTPサーバを偽装してね……」
途端にウキウキし出す智姉。
しかし、朝のメールは智姉が書いたわけだよな。
「「お前は智子と恋人になりたくないのか?」とか智姉が書いてたんだよな」
想像するとウケる。
「あれは、智姉の願望だったのかー」
「それは黒歴史だから、やめてー」
「いやいや、こんなネタずっと取っておかないと。それこそ墓まで」
「お願いだから。私もあれ書いてて恥ずかしかったの!」
普段はお姉さんな智姉をいじめるのがちょっと楽しい。
結局、智姉のメールの件で弄りまくりながら、遊園地を楽しんだのだった。
ちなみに、遊園地の理由は「観覧車で告白したい」からだったとのこと。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
一見時間ものSF風味だけど、実はクラッキングだったというお話でした。
実際この手の偽装自体は、そもそも家庭内のネットワークに繋がれているという特殊な環境下に限らず、一般的に可能です(From:とかDate:とかのヘッダもですね)。
一つだけ問題があって、受信側SMTPサーバをうまく偽装しないと、いくつかのヘッダから怪しげなメールが判定出来てしまうのですが、小説のケースだと家庭内ネットワークの「入り口」をヒロインが抑えているので、原理的には好き勝手に書き換えられるわけです。
今回はあんまりラブコメラブコメしてなかったですが、応援コメントなどいただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆
未来の俺から「幼馴染の彼女を完全攻略する方法」を教えてもらったんだけど 久野真一 @kuno1234
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