第三話

 富谷君は伺うように目線を投げかけてくる。


「いや!い……」


 行く、と続けようとしたが思いとどまる。

 私はこの誘いを了解したらどうなるだろう。

 思いを抑えきれなくなるのではないか。

 抑えきれなくなったらもう遅い。手遅れになる。


「おい、長谷川?大丈夫か?」


 それだけは許されない。

 私は進んではいけない。

 これは断らなければならない誘いなのだ。


「ごめん、明日用事あるんだった」


 苦しい。


「そっか、、じゃあ仕方ないな」


 富谷君の悲しそうな声が耳に響く。


「ごめんね」


 エゴでしかない私の言葉。

 だからこれは心からの言葉だ。


 でもやっぱり誘われたことは嬉しい。

 このまま歩いてたらどこかへ飛んでいきそうだ。


 でも……


「急になんで私?」


「あ、いや、朔は深澤さんっていう彼女ができて誘わない方がいいだろうし、長谷川、暇かなって思って」


 ふーん、なるほどー。

 そっかぁー。


「そっかそっかぁ」


 どうしよう、勝手に頬が上がってしまう。

 暇つぶしでも、私を選んでくれたことが嬉しい。



 そう言ったところでちょうど体育館に着いた。


「長谷川さ、ここ座っとけよ」


 そう言い、富谷君は立て掛けてあったパイプ椅子をふたつ、出してくれた。

 もう一つは恐らく紅葉のものだろう。


 こういうとこだ。私はこういう優しさにいちいち、惹かれてしまう。


「ありがとう」


 ありがたく座らせていただく。


「じゃあ」


「うん」


 コートへと入っていく姿が見える。


 そういえば、放課後のバスケもいつの間にか無くなっていて、この姿を見るのは久しぶりだ。

 ああ、でもこの前、公園でもバスケしてたなぁ。


 本当にバスケが好きなんだ。


 いいなぁ、熱中できるものがあるのって。

 私には夢もないし、熱中できるものもない。


 これから、どうするべきなのだろうか、私。



 そういえば、紅葉どこにいるんだろう。


 辺りをぐるっと見渡すと、入口付近でまだ楽しそうに話している白柏君と紅葉が見えた。


 ちょうど話が終わったようで、紅葉がこちらに向かって歩いてくる。


 と同時に、富谷君達がバスケを始め出す。

 久しぶりに見かける、いつものメンバーだ。


 …あれ、そういえば、富谷君ってこのメンバーとも結構仲いいんじゃないか?


 白柏君と特に仲がいいのは承知だったけど、明日、白柏君が忙しいからってなぜ私を誘ったんだろう。

 こんなに誘う人達がいるじゃないか。


「汐音、なに考え込んでるのさ」


 紅葉が隣に座り、話しかけてくる。


「え、いや、別に。…それより、紅葉は白柏君と何話してたの?」


「…………汐音が教えてくれないなら教えない。ほら、話せ。」


「え、なにそれ」


「汐音最近おかしいもん。ほら、話せ。」


 うう、流石に最近上の空すぎたか。

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