第四話
今心臓が高鳴るのは抑えられない。仕方がない。
だって同世代の異性にこんなに密着しているんだもの。
抑えられないことだ。このことは見逃すことにしよう。
でもきっと私は、このままこの人と関わっていったらこの人を好きになってしまうと思う。
まだそれは出来ない。
本当は気づいていた。
富谷君に優しさを見せられた時全部、この人が好きになってしまうということ。
きっかけはあのボールを拾った時だったと思う。
ボールを拾って返した時のあの微笑み。
あの時から、少し興味が湧いていたんだと思う。
倒れた私を運んでくれたこと。私が起きるまで側にいてくれたこと。
駆け寄ってきて、カバンの紐をサッと解いてくれたこと。
ミルクティーをさりげなく買ってくれたこと。ベンチで真っ先にチーズケーキのお礼を言ってくれたこと。
自転車で送っていくと言ってくれたこと。
その全てが私を富谷君に引き付けていた。
どんどん「好き」という気持ちに吸い込んでいった。
でも無視していた。胸が鳴るまで、と。
だけど、もう鳴ってしまった。無視はできない。
………だから私は、この人関わることを一旦辞めなければならない。
いつか、この過去に縛り付ける鎖が外れるまで。
その日は、家まで無事に送り届けて貰った。
「今日はありがとうね、気をつけて帰って」
「そっちこそ、フラフラすんじゃねぇぞ?」
「フラフラ?」
「さっきみたいにあんな事遠くまで歩いてきたりとか、こないだみたいに学校で倒れたりってことだよ」
「なんで?」
確かに倒れたのは迷惑かけたかもしれないけど、散歩は別にいいんじゃない?
「そ、その、し、心配、だから………」
「え?」
いや、そんなことあるわけ………
…………聞き間違い?
「だから、心配かけさせるなってことだよ!
じゃ、じゃあな!!俺もう帰るから!」
そう言うと富谷君は全速力でペダルを漕いで、曲がり角に消えてしまった。
嘘…でしょ…?
私のことを心配……
そのことを理解した途端、
―――ぼっ。
顔が真っ赤に火照っていくのがわかった。
心音も大きく全身に響き渡っている。
はぁ、どうすんのよ、これ………。
それから私はしばらく玄関前でしゃがみ込んでいた。
………ん?まって、ここ外じゃん!こんなことしてたら変な人だと思われる!
どうやら私は気が動転しすぎていて、ここが外だということも忘れていたようだ。
取り敢えず急いで家の中に入る。
今日は両親とも家にいない。
母は仕事で忙しくしており、元々あまり私と生活リズムが合わない。今日も出勤しているようだった。
父はいつも仕事をしていないと落ち着かない人間のようで、休日でも家にいるのは夜暗くなってから、日中は図書館にでも行って一日中仕事をしているらしい。
(私には到底考えられない神経の持ち主だ。)
お昼ご飯も作らねばならないし、掃除もしたい。
もうすぐ期末テストもあるから勉強もしなきゃだ。
作業に没頭していた方が、あまり色々なことを考えなくて済むだろう。
今日は精神への負担が大きかった。
休日で少し勿体無い気もするが、ここはやるべき事をやることにしよう。
私はまず、料理に取り掛かることにした。
その日は結局、お昼ご飯やら、夕ご飯やら、掃除やら、勉強やら、何やらやっているうちに、もう寝る時間になっていた。
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