ここからは動けない

第一話

・・・


あの日のチーズケーキは紅葉にも好評で、我ながら上手く行ったと少し嬉しかった。


今日は休日だ。

私立の高校に通う私は、休日は日曜のみ。


貴重な休日は、勉強しているか、料理をしているか、近所を散歩しているか。


あとは、、、

図書館で本を読んでいるか。


だが今日は天気もいいので、家のいつもの散歩コースを歩いている。


……そういえば、最近この道しか歩いてないな。

よし、久しぶりに少し遠くまで歩いてみるか。


幸いまだ涼しい時間帯だ。

お昼まで戻ってこられればいいから、片道1時間くらいはいけるかな。


今の時代、「スマホ」という最強の文明の利器があるので、道に迷う心配はほとんどない。


なので私はこういう時、気の赴くままに好きな道を歩くことにしている。


さてさてさて。今日は…………

まず始めにこの道を行くことにしよう。



もう40分程歩いた気がする。


少し前までは知った道を歩いていたが、ここまで来ると私も初めて通る道のようだった。


知らない形をした道路、知らない家、店、看板、建物、橋、、、


知らない物ばかりの所を通るのは、不安感と恐怖感、それにワクワクが混じったような気持ちで溢れていて、胸の妙なざわめきが止まらなくなる。


私はこの気持ちになるのが大好きで、よく散歩で冒険に出かける。


そのまましばらく歩いていると、小さな公園が見えてきた。

町の小さな公園なのに、何か惹かれるものを感じて、私はここで休憩することにした。


持ってきたトートバッグに文庫本が入っていたはずだ。

外で読む本はさぞいいものだろう。


私はそんなことを想像しながら、公園の門をくぐった。


入るとそこは緑の綺麗な芝生に覆われていて、いくつかのベンチと常緑樹、それに少し高い丘が造ってあるのがわかった。


小さな公園とは思えないほど綺麗に手入れがされていて、きっとこの町の誰かが、この公園の維持に努めているのだろう。


入って気づいたが、隣から何かトントンという音が聞こえてきている。


まるでいつも聴いているかのような心地の良いリズムで、あまりに私の中に馴染みすぎていて気づかなかったのだと思う。


音につられて隣を見るとそこには緑のフェンスが張られていて、向こうにはしっかりとしたゴム床の屋外バスケの練習場があった。


そこには一人、必死に、でも楽しそうにボールをつく、やけに見覚えのある影があった。


あれ、もしや富谷君ではないか?


何か見覚えがあると思ったら富谷君だったのか。


邪魔するのもいけないのでそのままベンチへ向かうことにした。


一歩を踏み出したつもりが、クッ、っと何かに引っ張られる感覚がした途端、


ガシャン!!


バランスを崩して、フェンスに背中をぶつけたのが分かった。


どうやら、トートバッグのヒモがフェンスの扉に引っかかってしまっていたようだった。


いそいそと立ち上がった後、ボールをつく音が止んでいることに気づいた。


まずい、邪魔をしてしまった。


後ろを振り返ると、

私を驚いた顔で見つめる富谷君がいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る