第九話

 ・・・


 10分としないうちに、ムスッとした顔で親友が戻ってきたのが見えた。


 手には何か抱えている。


 周りは遥樹と長谷川さんについてなんだかんだ煩いが、この際煩いので耳に通すだけで脳まで伝達させないことにした。


 遥樹はムスッとしているが、 あれは嬉しいのを悟られないようにするためだ。

 相当嬉しいに違いない。


「どうだった?」


「やばい、やばかった、もっと惚れた、優しすぎる」


 遥樹は包を抱え込むようにして机へ突っ伏して、やばい、だとか、どうする、だとか、死ぬ、だとか、とにかく色んなことをブツブツブツブツ言っている。


「で、それどうしたの?」


 遥樹が大事そうに抱えている包みを指して言う。


「なんかお礼、だってよー。生ものだから早く食べて、って言ってたんだけどさ、そんなん食えるわけないじゃん!無理!一生保存しておきたい!」


 生もの…って…


「お前それ、そんなに抱えてたら早く劣化するんじゃないか?」


「……わ、やば、ほんとだ、」


 全く、本当に惚れてんだな。


 一時期、顔見るためだけにバスケしてたし。


「俺、今の時間で食う、って長谷川に言ったんだよなぁ、食わないとなぁ」


「何テンパって口滑らせてんだ、でも、それじゃあ食わないとだな」


「んー、なあ朔、これ写真撮ってくれないか?俺のスマホで。

 お前だったら騒がれても、彼女からの、とか言って誤魔化せるだろ?」


「ああ、いいぞ。 遥樹も早く長谷川さん彼女にしろよ?」


「………頑張るからほっとけ」


 今度は本当にムスッとした顔だ。


 これは怒っているというより拗ねているに近いが。


 言いながら遥樹は、自分の膝の上で隠れるように、コソコソ包みを開けている。


「うっわぁ、チーズケーキじゃんこれ。え、何しかも手作りか?

 うっそ、、なあ朔、これ手作りだよなぁ?」


 言われて覗き込むと、確かに手作りだ。


 昨日の今日で手作りするとか、やっぱり騒がれるだけの事はあるな、長谷川さん。


「あいつ、そこまで頑張んなくていいのに、また倒れたらどうすんだよ…」


「そこまで感謝してるってことだろ?取り敢えず写真撮るぞ、食う時間も無くなるし」


 いくら誤魔化す術があるとしても、やはり面倒なことには変わらないので、ササッと手早く、いい角度で何枚か写真を撮り、遥樹に返した。


「ありがとな!それじゃ、頂きます」


 遥樹は丁寧に手を合わせて、深々とお辞儀をし、でも手早く食べ始めた。


「うっま!!なにこれおいし!」


 遥樹は幸せそうにして、チーズケーキを頬張っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る