第二話

 その日はいつもより遅い登校だった。


 特になにかあったわけではなかったが、どうにも体調が悪く、準備するのに手間取ってしまったのだ。


 本当のところ学校など休んでしまいたかったが、授業の進みが早いこの学校は、一日休んだだけで一苦労だ。


 行けない程の体調ではないはず。


 そう自分に言い聞かせ、だるい体をいそいそと動かしながら、ゆっくりと制服に着替え、準備を済ませ、家を出た。


 きっと休んだら紅葉も心配するし。

 どうしても無理だったら早退してこよう、そう軽く考えた。



「汐音、大丈夫?今日遅れてきたでしょ?体調悪い?」


 あー、休まなくても心配させていたようだった。遅刻しただけでこれか。まぁでも、心配してくれるっていうのはなかなか嬉しい。


「ん、まあちょっとだけね。そんな無理しなきゃ大丈夫だって。」


「そう?汐音すぐ無理するんだから。具合悪かったら言うんだよ?」


「ん、ありがと。」


 本当は紅葉に心配させたくはなかった。せっかく幸せに日々を送っているところなのに、それを私が邪魔する権利はない。


「あ、そういや次の授業、先生に早く来るよう言われてたんだった!ごめん汐音、先行ってるね!次移動教室だから!歩くの辛かったらゆっくりでいいから!先生に言っとく!」


「わかった、ありがとね。気をつけて!」


 紅葉がニコっと笑いながら手を振って返事し、急いで駆けていく。


 まったく、どこまでも心配症なんだから。


 とは言っても結構辛くなってきた。


 やっぱり学校という人の沢山いるところというのは疲れるもので、体調の悪い時なら尚更だ。


 次一時間だけは受けることに決め、その後は様子をみることにした。


 もうすぐ授業は始まるため、荷物をまとめて移動することにする。



 私達の教室から次の授業の教室までは大分遠く、次の授業の教室は私達がいる棟の隣の棟だった。


 きちんと校舎の中を通れば5分程かかる道だ。


 本当はしてはいけないことになっているが、急いで歩くのも辛く、なるべく授業には遅れたくなかったので、中庭を通って行くことにした。


 中庭を通れば3、4分で行けるだろう。


 時計を見ると、もう休み時間が3分程過ぎていた。

 そろそろ出なければ、と思い、教室の扉を開けて授業へ向かう。


 中庭へ出ると、 外の空気が私を包む。

 今日はとても天気が良い。


 本当なら空を見上げて気持ちよくなりたいものだが、生憎今はそんなことをしようと思える気分ではなかった。


 中庭に出た辺りから体調が酷くなってきていた。


 頭がガンガンと痛い。体がふらついてきて、立っているのすら辛くなっている。


 これはまずいかもしれない。


 取り敢えず少しでいいから休みたい。


 私は周りを見渡し、中庭の端の、少し入り組んで陰になっているところまでフラフラと歩き、壁に凭れて座った。


 きっと少し休めば大丈夫だろう。特別疲れるようなこともなかったし、うん、大丈夫。


 紅葉も先生に言っておいてくれるって言ってたし、少しぐらいなら遅れても叱られないだろうし。


 少しだけ、あと少しだけ…


 でもなんだかさっきより頭の痛さが酷い気がする。


 こんな所で寝るわけにはいかないのに、意識が遠のいていく気がした。


 それでも寝るわけにはいかないと、体を立たせようとする。


 すると急に、目の前がフッと暗くなり、体が横へと倒れていくのを感じた。


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