第八話

 私が鞄を取って戻ってくると、紅葉は少し落ち着いていて、普通に会話が出来るくらいには回復していた。


「紅葉~、もう大丈夫?」


 私は小走りで近づき、持ってきた鞄を渡した。


「ごめんねぇ、心配かけちゃって…」


「ううん、それよりさ…」


 私は紅葉の耳に口を近づけ、聞こえるくらいの小さな声で話す。


「よかったね、紅葉。」


「………っ………うんっ、ありがとうねぇ、汐音ぇ……」


 少し涙声の紅葉の声が返ってくる。


 どうやらまた泣き出してしまったようだった。


「うん、うん、わかったから!泣くなって言ったでしょ?」


 言いながら頭をぽんぽんと優しくたたく。

 全くもう泣き虫なんだから、紅葉は。


「じゃあ紅葉、今日は一緒に帰りなよ、白柏君と」


「えっ、待ってそれは早すぎじゃあ……!?」


 紅葉が私の胸を押しのけ、元の体制に戻りながら、びっくりした顔で言う。


「何言ってんの!折角付き合ってるんだから!少しでも一緒にいないと勿体無いでしょ?分かったらさっさと行く!」


「わ、分かったから!もう汐音はお節介なんだから…」


 うんうん、紅葉はこうでなくっちゃね。


「あ、白柏君、これ鞄。」


 そう言い、白柏君に鞄を渡す。


「あぁ、ありがとう。」


「紅葉のこと、よろしくね。」


「うん、もちろん。」


「何かあったら私が許さないから。」


 そう言うけど、紅葉が選んだ人なんだから、きっと何も心配要らないだろう。

 半分冗談めいて言う。


「大丈夫、保証するよ。」


 なんだ、頼りげある顔しちゃって。


「じゃあ紅葉、私は先帰ってるね。白柏君もまたね。」


「うん、ばいばい汐音!」


「うん、ばいばい!」


 手を振って歩き始める。



 まあ、まさかこんなハイスピードで紅葉が付き合うことになるとはねぇ。

 そこまでは私も予想してなかった。


 これからは紅葉、白柏君と一緒に帰ることになるだろうから、ちょっと寂しくなるなぁ。


 でも紅葉、すっごい嬉しいそうだった。


「ふふふ」


 思わずニヤけて笑みが零れる。


 きっと、私も紅葉と同じくらい嬉しい。

 紅葉の幸せは私の幸せだもの。


 さーて、明日は紅葉に今日の下校何があったか聞かなきゃねぇー?


 ふふ、楽しみ楽しみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る