第七話
まだザワザワと煩い昇降口で、私は紅葉のことを待っていた。
この学校は部活がないためか、放課後の昇降口の騒めきはほかの学校とは比べ物にはならない。
生徒数が多いことでより一層。
と言っても、グラウンドや体育館、その他諸々の教室等は先に申告しておけば自由に使える事になっているので、放課後は部活のようにして自分のやりたい活動をする人も多い。
紅葉が告白へ走ってから、約15分。
少し遅いような気もするが、見に行って邪魔をするのも嫌なので、もう少し待つことにする。
すると周りが急に静かになり、束の間の沈黙が訪れた。
と、不意に、
「きゃぁぁぁぁーー??」
周りからは沢山の歓声が聞こえ、何事かと反射的に顔を上げた。
「……………川さん!長谷川さん!」
呼ばれた方を向くと、少しだけ息遣いの荒い男子生徒が立っていた。
それはやや見覚えのある顔で。
「えっと、白柏君、だよね?」
「えっ、ありがとう!!俺のこと知っててくれたんだ!!」
「まあ、一応というか……」
どうやら息遣いが荒かったのは走ってきた所為のようで、でもそれもすぐにおさまった。
それよりどうして白柏君がここに……??
「ごめん、いきなり申し訳ないんだけどちょっと付いてきてくれるかな……?俺じゃなんか力になれそうになくて」
えっと、待てよ、待て待て、白柏君が私に話し掛けるなんて紅葉の事しか思い当たらないような……
そう考えている間に、白柏君は昇降口を抜けて行ってしまった。
「ま、待って白柏君!!何があったの?!」
私は急いでローファーに履き替え、白柏君の後を追った。
「ごめん、今本当にどうしようも無くて……」
白柏君の発した言葉の様子から、本当に焦っていることが伺い知れる。
取り敢えず私は、急いで白柏君の事を追うことに決めた。
本当にいきなり過ぎて何が何だか分からなかった私も、体育館裏に近づくにつれてだんだんと状況が読めていった。
体育館裏からは誰かの泣き声。
そこには、やはり、涙をボロボロと零して蹲り、ひくひくと泣いている紅葉がいた。
「さっきからずっとこうで……」
白柏君が申し訳ないような顔で言う。
私は紅葉のもとへと駆け寄り、しゃがんで紅葉の目線になって紅葉の背中をさすった。
「紅葉?大丈夫?」
「だい…じょ…うぶ……」
私はしばらく背中をさすってあげたあと、なるべく優しく問いかけた。
「ねえ紅葉?白柏くん悪いわけじゃないんだよね?」
「うん……ただ…嬉しくってぇ……」
そう言うと、一度落ち着いた涙がまたぽろぽろと落ちてきた。
やっぱりなぁ……。
「うん、うん、分かったからもう泣かない。ね?」
始めっから紅葉が振られる可能性は無いに等しい事は分かっていた。
まあ、告白でOK貰えて泣くなんて、本当に白柏君のこと好きなんだな…なんて。
とすると、私のすべきことは………っと。
「白柏くん、私鞄取ってくるから紅葉のことみててもらえるかな?白柏くんの分も取ってくるからさ。白柏君って何組だっけ?」
「えっ、あ、10組だけど、でも」
「10組ね、わかった。あ、紅葉のことは心配ないから。ただ泣くほど嬉しかったってだけみたい。じゃ、お願いしますね」
駆け出しながらそう言うと、顔を赤く染めて立ち尽くす白柏くんがいた。
泣くほど嬉しいとか…はぁ…
とか言いながらしゃがみ込む白柏くんは、恋する男子そのもので、少し微笑ましかった。
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