第六話
自ら宣言した通り、2分と経たないうちに紅葉は教室に戻って来た。
HRが始まる時間は少し過ぎていたが、幸い担任はまだ教室に来ておらず、遅刻とはならずに済んだ。
ガラ、と音を立てて教室に戻った紅葉は、席に座り静かにしているクラスメイト全員から一瞬注目を集めた。
紅葉が自分の席に戻ろうとしていた所を手招きで呼び寄せ、最大限に声を絞って周りに聞こえないよう話す。
「後で詳しく聞かせてよ?」
視界の隅でこくこくと頷いたのが見え、それを視界の真ん中へ持ってくると案の定――――顔を真っ赤にして視線は下へ落ちていた。
恋する乙女は可愛い。
思わずふ、と笑いながら、もう戻っていいよ、と優しく背中を叩いた。
「で、どうだった?あんな短時間で何してきたのよ紅葉…」
HRは終わり、あと6、7分で一時限目が始まる。
白柏君がどのクラスかは知らないが、私達は真ん中のクラスなので、一番遠くて急げば往復1分半といった所だろう。
「朔くんのクラスに行ってきました……」
「それは分かってるから、詳細を…ね??」
「えと、朔くんのクラス行って、扉バン!って開けて………えと、それで、っと………」
「いいよ笑わないから。言いな?」
「えっと……『朔くん!放課後お話しがあるので体育館裏来て貰えますか!!』って突撃を……そしてすぐ逃げてきて……そのまま……」
「白柏君の返事は?」
「聞いてません……」
それは……言い逃げしてきたんか………
「でも取り敢えず放課後告白するって決めたんでしょ?」
「うん、そうだけど…………………………あーーー……絶対私引かれたよね!!?もうただのイカれた変人だよ……ちゃんと来てくれるといいな……」
「ほら、ウジウジしたってもうしたことは変えられないんだから。あとは放課後頑張るのみでしょ?」
「そうなんだけど、そうだけど…………、んぅー、うん、うん、そうだよね!やっぱりちゃんと頑張んなきゃだよね!」
紅葉は張り切り、頭を切り替えたようで、私に笑顔を残して席へと戻っていった。
「どうしよう汐音……!!やっぱり緊張するよぅ………あああ勢いであんなこと言うんじゃなかった……」
今やっと放課後になり、今は昇降口へ向かっている。
私は昇降口で紅葉を待つ約束だ。
「自分で言ってきたくせに何そんなこと…」
「だって!!汐音が急かすから!!汐音のせい汐音のせい汐音のせい!!」
あーあーあー、時々出て来るこの紅葉の悪い癖。
「私『今すぐ行け』なんて言ってないよ……?」
「んううう、分かってるよう、でも、、、、緊張する……」
「まあ、もう言ったことはしょうがないんだから、行きな?白柏君待ってるよ?」
そう聞かせると、紅葉は少しだけ戸惑ったような顔をして俯いた。
「じゃあ分かった、ひとつ約束して?」
紅葉がこういう時突拍子もないことは言わないことは判っているので、そのまま紅葉の方を向いて黙って居る。
「私がもし振られて玉砕して泣いて顔ぐしゃぐしゃにして帰って来ても絶対笑わないで!!」
至って真面目に私に向かって言う。
そんな言葉に、自然と笑ってしまった。。
「ふふっ、何そんな当たり前のこと言ってんの?? 貴女私のこと誰だと思って?」
「私の親友……」
「そうでしょう??まさか紅葉もそこまで馬鹿だったとはねぇ……?」
「私馬鹿じゃないし!!汐音だって人の事言えないくせに!」
「さあどうかね?馬鹿の判断基準なんてどこにあるのか……」
「じゃあ私の事馬鹿呼ばわりした汐音はどうなの?それはこっちのセリフだっての!!」
「あー、ごめんごめん、ウソ。紅葉は馬鹿でも阿呆でもないよ。可愛い可愛い恋に生きる乙女。」
瞬間、紅葉がボッ、と頬を赤く染めた。
これで少しは緊張が解れたかな、なんて私なりの精一杯の応援だ。
紅葉の頭に手を置いて、軽くポンポンと叩いた。
「頑張ってね。待ってるから。いってらっしゃい。」
「う、うん。行ってくる。頑張ってくる!」
私は頭から手をゆるゆると解いて、前だけを向いて駆けていく紅葉を下駄箱に寄り掛かりながら見ていた。
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