第五話

「紅葉、私も手伝うからね」


「うん、分かってる、ありがとう…」


 紅葉の背中にまわした手を引き寄せ、そのまま紅葉をぎゅっと抱きしめた。


 気づけば体育館から戻って30分ほど経っており、生徒はもう殆ど残っていなかった。

 自然と帰る雰囲気になり、荷物を持ってそのまま教室を出た。


 帰るときの紅葉は少しすっきりしたような顔をして、駅のホームへと入って行った。




 それからの一週間は駆け抜けるように早く過ぎていった。


 次の日学校に来れば、一番張り切っていたのは紅葉で、「今時古風とか言われるかもしれないけど、やっぱり私手書き好きだから、明日休みだし便箋一緒買い行こ!?」と会うなり言われた。


 聞けば、ラブレターという訳ではないらしいが、急ぎでない用事だったり、文字の交わし合いなどに "上手くいって付き合えたら" 使いたいらしい。


「朔くん女子の人気の的だし、上手くいく確率なんて無いに等しいと思わなきゃダメなんだけどさあ…?やっぱりこう動くからには張り切らないとと思うの」


 貴女も男子の人気の的ですよ、なんて言わなくても紅葉は充分自覚している筈だが、恋する乙女は悩み多いのだ。それでいい。


 次の休みの日早くに駅前に行って何時間と掛けて選んだ便箋は、全体が淡いピンクで彩られており、角は丸く切り落としてある。更に所々に白い光が入れてあり、ごちゃごちゃし過ぎない、それでいて女の子の雰囲気を漂わせる、可愛いものだった。



 翌日の学校には、机に突っ伏して項垂れている紅葉がいて。


「随分忙しい人ね、紅葉も。」


 私が登校してきたことには気づいていないようだったので、挨拶代わりにその言葉を投げ掛ける。


「だってさぁ、、告白するって決めたのは良いんだけどどうやって呼び出そう……。しかもタイミングとかもあるよねぇ……?まずは友達からのほう良いかな……それとももういきなり告白??引かれるよね……うぅ…どうしよう……」


 あんだけ張り切っていた人がうだうだしててまぁ切り替え早いものだねぇ、と少し感心しながら、隣の空いている席に座った。


「そんなことしてると白柏君、誰かに取られちゃうんじゃない?それでもいいの?」


「うーー、やだ!!それだけはどうしてでも避けたい!!」


「じゃあどうする??」


 紅葉が顔を下げたまま、体をゆらゆら揺らし、うーー、と唸ること一分。


 急に紅葉が机を、バン!と叩き、立ち上がった。


「んう、分かった!!行く!!もう行ってくる!!直接!!今から!!」


「え、ちょ、」


 それはいくら何でも早すぎるんじゃ……

 それにもうHRも始まるのに……


 そこまで急かしたつもりはないんだけど……


「じゃね!!すぐ戻るから!!」


 そう言うなり紅葉はすぐ教室から出て、駆け出していった。


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