第三話

 昨日のそんな出来事は、学園内でも噂が広まっていたことは知っていた。


「富谷遥樹の笑顔は可愛い」と。


 富谷遥樹ファンの間ではそれはそれは相当な。


 もちろん紅葉伝いではあったが。


「富谷くんの笑顔なんかなかなか見れない、っていうかファンの子達ですら見たことないって言ってるんだからね!?それを汐音が引き出したなんて、もうそりゃ、噂にならない方がおかしいよ!」


 紅葉が言うことにはこういう訳らしい。



 何時もの紅葉とのバスケ観戦。


 そんな今日の日の放課後は、変わりなく最前列が取れたものの、体育館の入り口が全校女子生徒の半分以上で埋まっていた。


 富谷遥樹は昨日と変わらない身のこなしではあったが、眉を寄せて煩そうにバスケしていたのが遠目でもわかった。


 実際に煩いのかどうかは本人に訊かないと知れたこっちゃないが、私はその解釈しか出来ない。

 実際私も煩すぎると感じる。


 そんな事なら来なければいい話なのだが、親友の頼みだ。

 仕方がない。


 バスケ観戦の後は1年、2年、3年と学年問わず下駄箱が女子でごった返しているので一度教室に戻り、15分程待ってから下校する、というのが紅葉とのお決まりの約束であった。


 そうして今日も教室で紅葉とお喋りをしながら下駄箱が空くのを待っている。


「汐音さあ!今日の朔くんのプレーみてた?!もうカッコ良いとしか言いようがないよねぇ...」


「ああ、あのダンクシュート?」


「そうそう!あのジャンプ力とシュート決める前の背中の反り!!イイ!!」


 紅葉が目をキラキラさせ、更には手にガッツポーズを決めながら言った。


「紅葉、ちょっとそれ世に言うストーカーにちょっと近い人に成ってきてるんじゃない、よ、ね??」


「え、なんで?私はただ朔くんが好きなだけで付け回したりとかはしてないよ??」


「まあ、それはそうだけど、紅葉、普通の目と違うもん...」


「そりゃあ好きだからねえ?」


「ん……っとさあ、前から気になってたんだけど、紅葉にとって白柏君って恋愛対象としての好き?それともアイドルとか好きになる系のあれ?」


「勿論、前者だよ?」


「うぇっ!!?」


 余りに品の無い声に自分で驚き、口を抑えた。


「完っ全に後者だと思ってた...。」


 白柏朔を見る時の紅葉の目は完全にアイドルに向けるような目だ。


 しかも紅葉なんて自分でモテるのを自覚している。

 断られる理由もないのに自分から告白しないって、紅葉なら有り得ないと思っていた。


 恋愛対象だって思う方が不思議な程。


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