第二話

 ダンダンと真剣にボールをつきながら、前へ前へと進んでいく富谷遥樹。


 ボールを投げたかと思えば、白柏朔にパスをした様だった。


 バスケはあまり詳しくない、というかスポーツ自体詳しくないので、ルールもよく分からずただただ眺めていた。


 するとまた、富谷遥樹はちら、とこちらを一瞬だけ覗き、またゲームに集中する。


 本当に気づかれないほど少ししか覗かないため、周りの女子からもゲームの時と同じくらいの声しか聞こえてこない。


 紅葉は白柏朔に夢中でそんなことにも気づいていないようだった。


 何故こんなにこちらを覗いてくるのかは見当もつかないが、無理矢理に例を挙げようとすれば、女子の声が煩いか、うざったいか、、、、それくらいしか思い浮かばない。



 そう思っていた矢先、富谷遥樹がゴールへとシュートを放ったのが見えた。


 だが、惜しくもリングに吸い込まれることはなく、呆気なくコートの外へと転がっていく。



 リングから落ちたボールは、私の足元で静かに止まった。


 そして私はそのボールを、思わず手に取る。


 周りからの視線が痛い。


 私は何か仕出かしただろうか。


 ボールを返そうと思い立ち、コートの方を見ると、白柏朔が富谷遥樹の肩を叩いているのが見えた。

 リングにボールが入らなかったことを励ましているのだろうか。


 いやでも、それとは雰囲気が違うような気がした。


 富谷遥樹は少し俯き立ち止まってから、わたしの方へと駆け寄ってくる。


「キャアーーーー!!?」


 耳を劈く様な黄色い歓声が女子から溢れる。

 富谷遥樹のファンだろうか。


 私の目の前で立ち止まった富谷遥樹が手を差し出したので、その上にボールをぽん、と乗せる。


「ん、ありがとう」


 微笑まれながら、一言そう言われた。


 一瞬、私の方を向いたかと思えば、すぐ立ち去ってしまう。


 向かい合うとよりはっきり分かるが、やっぱり富谷遥樹はイケメンだ。

 今だったら黄色い歓声をあげる女子たちの気持ちも分からないでもなかった。

 あの笑顔に何者をも引き寄せる力があるのか、そう感じる。


「………ねぇ………ちょっと………!!やばい!ねえどうなの汐音!あんな笑顔向けられたら倒れる!私富谷くんのファンじゃないけど倒れる!心臓抜かれる!!」


 でも、朔くんだったらもっと良かったなぁ…


 紅葉はそんな贅沢を言う。


「うん、なんか、騒ぐ女子の気持ちが分からないでもなくなってきた」


 紅葉が言っていることも冗談ではなかった。

 私でさえあの微笑に引き込まれそうになったのだ。

 ファンの女子はそれだけで済まないだろう。


 実際そうだった。


 周りを見れば、口をぽっかりと開け、目はハートになり、頬は紅く染まっている、という女子が殆どだった。


「汐音がそんなこと言うなんて珍しいねぇ?富谷くんに全然興味無さそうにゲーム観戦してたくせに」


「だからって騒ぐわけじゃないけどね。それと、興味無いのは今でも同じ。ただ、騒ぐ女子の気持ちが少しは分かるかなって」


「それが、興味持ち始めたってことでしょ?」


 知らない。それが興味持つってことなのか。


「でも、いいんじゃない?汐音らしいじゃん?」


「へ?何処を突いてそう…」


「それと、無理に進む必要ないからね。」


 急に落ち着いた口調で言われた後、何もないと前を向かれる。


 イマイチ会話が噛み合ってなかったが、あまりにも愉しそうにゲームを観ているので、それは訊かないことにした。




 ・・・放課後バスケ観戦のことと言えばそんなところである。

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