第四話

 人が寄って出来上がった通路を紅葉に引っ張られるがまま歩いて行く。

 体育館の廊下の境目…扉のレールのギリギリまで歩み寄る。


 体育館でバスケをしていたのは男子が4人。

 全員見たことがない顔だった。


「ふわぁあああ、かっこいい……!」


 紅葉が目をハートにして言う。


 動きまわる男子の中で、ボールを長いことついているせいか、目を引かれている男子がいた。


 だけど動きは素早いし、ずっとゴールの方を見続けているしで肝心の顔を見ることが出来ない。


「ねぇ、今ドリブルしてるのが富谷遥樹?」


「そう、、、って汐音見たことないの?!富谷くん!!」


「うん、初めて見た」


 名前は知っていたけど、実際見るのは初めてだった。


「そっかぁ、汐音、そういうの疎いしね」


 紅葉が少し苦笑いして言う。


「でもラッキーだったー!」


「何が?」


「本当は私、富谷くんがバスケやるってしか聞いてなかったんだよね。でもそれでもイケメンには変わりないし、やっぱ制服でバスケなんて貴重だし」


 制服バスケ、なんか、紅葉が萌えるのも少しだけ分かった気がする。

 ジャージでバスケをするのとはまた違ったものなのだろう。


「でも私の本命はサクくんなの!!ほら、あの富谷くんの味方してる」


「サク?」


 聞いたことが無い名前だった。


「汐音、サクくんは知らないか…富谷くんが限界だったかな」


 限界と言っても、私の中でイケメンで有名なのは富谷遥樹しか居ないはず……なのだが。


「新月のこと朔っていうじゃん?それと同じ漢字で朔。名字は白柏シラカセ。カッコよくない?!すっごいタイプなんだー!

 それが偶然で会えちゃうなんて…ほんとラッキー…」


 へぇ…

 確かに紅葉の言う通り顔は整っている方だ。



 ――バシュッ…


 誰かがシュートを決めた音だった。


 どうやら、富谷遥樹がシュートを決めたらしい。

 それは、周りの女子の黄色い声で知ることが出来た。


 シュートを決めた後、ゲームを続けるのかと思えば、そうでは無かった様。

 一瞬、こっちを見たと思ったら、10秒程凝視された。


 瞬間、


「キャー!富谷くん!!こっち見て!!」

「素敵!!かっこいいーー!!!」


 周りにいた女子から歓声が上がった。


 富谷遥樹は軽く手を挙げて、コートから抜けたのが分かった。


 休憩、だろうか。


 他の男子達もゾロゾロとコートから抜けて、体育館の壁に背中を預けて座っていた。



「ちぇっ、もうバスケしないのかぁ」


 不満気味に紅葉が零す。


「どうする?もう帰る?」


「うん、今日課題多いしね。汐音も駅まで一緒行かない?」


 駅まで行けば、紅葉とは別方向だ。


「もちろん!じゃあ、帰ろっか」


 他の女子も、もう近くで拝めないと踏んだのか、続々と体育館を離れていく。



 一瞬、誰かがこっちを見たのは、きっと恐らく、気のせい。

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