その五 日記 五月二〇日
今日は色々あって楽しかった。
ちょっと危ない目に遭っちゃったけど、東雲君が頑張ってくれて助かった。
仕方ないのだ。博物館からオーパーツを盗むような奴は許してはおけない。でも危なかったのも確かだ。今後はもっと気をつけよう。
東雲君のこと下の名前で呼ぶ事になったけど、馴れないからちょっと照れ臭いなぁ。今まで、こんなに仲よくなった人は男女関係なく初めてだ。
そうだ、これからは日記にも東雲くんの事は「真仁くん」と書くようにしよう。うん、親友なんだからいいのだ。
そう言えば、救急車の後ろでふたりで座っている時に真仁くん真っ赤な顔をしていたけど、どうしてだろう。わたしが褒めたから恥ずかしかったんだろうか。風邪引きそうになっていた? だったら、寒くて青くなるよね。それともあれかな? 濡れ鼠になったわたしに見惚れちゃった? 真仁くんも男の子だものね。気をつけよう。
そりゃまあ、男女の身体の違いがあるように心も違いがあると思う。身体の事は図鑑や、お
うーん。わたしは男女の事って判らない。男の子の気持ちは判らないし、今までに誰かを好きになった事もない、誰かを好きになる気もしない…… というか、誰かを好きになってその人の事ばかり考えているって信じられない。
わたしはお父さんの事を知らない。物心ついた時からお母さんと、お
だからだろうか、男の人の事が判らない。どんな事を考えるのかも想像もつかない。
お母さんは言う。「世の中には面白い事が沢山ある。楽しい事を好きになって、好きな事を人生の中心にできればこんな幸せな事はないから。好きな事は幾つあっても良いからね。そのためにも、誰かに頼らずにひとりで生きていけるようになりなさい。そのためだったらお母さんは何でも助けてあげる」
その通りだった。世の中にはいろんな面白い事があった。博物館や図書館に行けばいくらでも時間は経った。お母さんに相談すれば連れていってくれた。コンサートに演劇、陶芸もやってみた。どれも面白くて……
あ、楽器の演奏はダメだったな。中学の頃、ピアノを一年頑張ってみたけど全然うまくならなくて、諦めちゃった。あれは黒歴史だ。
自宅のおじいちゃんの書庫には沢山の本が詰まっていて、聞けばおじいちゃんは何でも教えてくれた。学校の授業は聞いていなくてもそれなりの成績は取れた。お母さんが物の考え方と勉強の仕方を教えてくれたおかげだ。学校は退屈なところだったけど、学校に行くことだけは否応なしだったな。
面倒だったけど、高校生になってクラスメイトを観察するの最初は面白かった。
でも、みんな成績がどうとか、誰と誰が付き合っているとか、誰の事を好きとかそんな話しばかり、ひと月もしない内に飽きた。
世の中にはやりたい事や知りたい事がたっくさんあるのに、好きとか嫌いとか、誰かのためとか気にしたら、自分の都合だけでは済まなくなる。すごく面倒くさい。いまは、クラスでの出来事には関心がない。どうでもいいや、わたしの邪魔にならなければ、って思ってた。
そんな時に真仁くんと仲よくなった。真仁くんは面倒くさい事は言わない。色々と付き合ってくれる。友達思いの良いひとだ。彼と親友になれて良かった。学校で退屈じゃなくなったしね。
思うんだ。もし、自分が自分でいられなくなったら、自由に生きられなくなったら、わたしはわたしでは無くなる…… そんな気がする。
誰かに縛られるのはいやだ、恋愛とかあまり考えたくない。
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