魔王参戦①

「陛下!!」


 執務室でキラトが執務を執り行っている時、第二軍団長のリューベが駆け込んできた。


「どうした?何か……まさかリネアに何かあったか!!」


 キラトは立ち上がる。礼儀をわきまえているリューベが駆け込んでくるということはそれだけ不測の事態が起こったと考えたのだ。そしてキラトにそれを告げると言うことは身重の妻リネアに関する事であろうというのはそれほど不思議な事ではない。


「いえ、リネア様には何の問題もございません」

「それでは領内で大規模災害か!?」

「いえ、領内は平穏そのものです」

「ん? まさか……ついにジュリナと結婚することになったか!! よし、準備は任せろ!!」

「違います!! それはまだです……」


 最後の問いかけにリューベはやや落ち込んだ声になった。ジュリナの父であるスティルのガードが想像以上に堅いのである。


「そうか……。ではお前がそんなに慌ててる理由はなんだ?」


 キラトが首を傾げながら言う。リューベが慌てる理由が思いつかないのである。


「ジュリナとアインゼス竜皇国に行ってきたんですけど、ヴェルティアさんが異世界に攫われたという話なんです!!」

「なにぃ!!ヴェルティアさんが攫われた!?」


 リューベからもたらされた情報がキラトに与えた衝撃は大きかった。ヴェルティアの実力を知るキラトにしてみれば易々と信じられない情報である。


「信じられないのは私も同様ですが事実です!! 実際にアインゼス竜皇国では竜帝の親征が発表されてます! しかも竜妃アルティミア様、レティシアさんも親征に!! そして、もちろんシルヴィスさんもです!!」

「なるほど……つまり本当にヴェルティアさんは攫われたわけだ……」


 キラトの声に怒りの感情が含まれたことをリューベは察した。その怒りがどこに向かっているかを考え他時、そこにいきつくのは一人の人物であった。


「リューベ、俺はリネアの所に行ってくる」


 キラトの言葉にリューベは静かに頷いた。キラトが席を立つとリューベもそれに続く。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 リネアの元に赴いたキラトとリューベを見たリネアは静かに微笑んだ。


「どうしたの?」


 リネアは大きくなったお腹をさすりながらキラトに言う。


「ああ、実はなヴェルティアさんが異世界に攫われた」

「え!?あのヴェルティアさんが!?」


 リネアのわかりやすいリアクションについついキラトは口元が緩みそうになった。ヴェルティアの実力がどのようにとらえられているかわかるというものである。


「ああ、リューベの話だとアインゼス竜皇国では竜帝親征が行われるらしい。」


 キラトの言葉にリネアは大きく頷いた。


「キラト、あなたは行くべきよ」

「リネア」

「あなたはシルヴィスさん達を助けたいんでしょう?」

「ああ……」

「ならあなたは行くべきよ。キラト、あなたはこの子の父親よね?」

「もちろんだ」

「私はこの子の父親が友達のために動かないなんて恥ずかしいわ」

「……」

「しかも私がそうさせたなんて私達に恥をかかせるつもり?」

「いいや。そんなわけはない」

「そういうことよ。さぁ、行ってきなさい。そして私達に声をかけないシルヴィスさんに一言伝えて水くさいわよってね」


 リネアの言葉にキラトは大きく頷いた。そう、キラトが怒りを向けたのはシルヴィスであり、自分達に声をかけないシルヴィスに水くさいという気持ちがあったのだ。


「ああ、そうだな。シルヴィスの野郎、俺達に声をかけないなんて水くさいよな」


 キラトはそう言うとニヤリと笑った。


「リューベ、ジュリナを呼べ!ムルバイズはリネアの補佐をさせる。今回はお前達が俺の護衛だ」

「はっ!!」


 キラトはジュリナが来たと同時にアインゼス竜皇国へと転移した。


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