心を折る①

 御前会議で出兵が決定し、竜帝夫婦、第二皇女、次期皇配が異世界に親征することが発表されるとアインゼス竜皇国は騒然となった。

 次いで親征の理由が『ヴェルティアの誘拐』であることが発表されるとアインゼス竜皇国の民達から怒りの声があがった。


 ヴェルティアがいかに民に慕われているか示していると言える。普通皇女が浚われれば貞操の危機が心配されるものであるが、そのような声は一切聞かれないのはヴェルティアをよく知るアインゼス竜皇国の民故である。


「ふむ……手駒をどうするかだな」


 シルヴィスはそう独りごちる。アインゼス竜皇国の軍の大部分が投入される今回の親征においてシルヴィスは勝利を疑ってはいない。だが皇軍に命令できる立場にはない以上、一人で動くことになる。だが、それでは取りこぼしが出ることも十分にシルヴィスとすれば考えるのは当然である。


「野盗とか捕まえたところで神族が相手だから無意味だし、シュレンのところから奴隷兵士リュグールを借りてくるか……でも神族が相手では力不足だよな」


 シルヴィスは別に野盗の命を惜しんでいるわけではない。単純に役に立たないため、邪魔にしかならないと考えているに過ぎないのだ。


「あ、そうだ。あいつら・・・・がいたな」


 シルヴィスは一つの考えに思い至ると準備を始めることにした。


「まだ不死身だったらいいんだがな」


 シルヴィスの行っている準備というのは結界を張ることである。転移魔術で荒野に降り立つと一辺30メートルほどの正六面体を作成した。


「ま、こんなもんかな」


 シルヴィスはそう言うと正六面体の内部へと入ると空間に孔が開きそこから数体の陰が落ちてきた。数は七体、呆然として周囲をキョロキョロと見回している。そしてシルヴィスの姿を見定めると憎悪の表情を浮かべた。


「き、貴様!!」

「ここはどこだ?」

「なんだ?」


 七体の男達はかつて斃したディアンリアに不死を与えられ、シルヴィス達に挑んできた七柱である。シルヴィスの黒魔封盡レゼンベリオにより亜空間に閉じ込められていた者達だ。


「久しぶりだな。元気だったか?」


 シルヴィスは和やかに七柱に語りかける。七柱の憎悪の視線に全く怯むことなくにこやかに声をかけれるという段階でシルヴィスの精神力はオリハルコンよりもはるかに硬いといえるだろう。


「貴様ぁぁぁ!!」


 一柱が立ち上がるとシルヴィスへ襲いかかろうとした瞬間にシルヴィスの前蹴りが容赦なく一柱の胸にまともに決まるとそのまま吹き飛び結界に阻まれるとそのまま崩れ落ちる。


「まったく、いきなり襲いかかるなんてマナーがなっていないな」

「ぐ……」


 蹴飛ばされた一柱は立ち上がるが口から血がこぼれ落ちている。


「さて、お前達を黒魔封盡レゼンベリオから解放したのは。お前達に協力・・を申し出るためだ」

「協力だと?」


 シルヴィスの申し出に七柱達が困惑の表情を浮かべた。


「ああ、君達が協力してくれるととても助かる」


 シルヴィスの言葉に七柱はニヤリとした歪んだ表情を浮かべた。


「我らに協力を仰ぐというのならばそれなりの態度を示すべきだ」

「そうだな。あの時にいた女三人を我らに差し出……」


 ドギョォォォォ!!


 シルヴィスは凄まじい速度と膂力で一柱の腹部を蹴り上げるとそのまま胸骨を潰し、顔面まで打ち砕いた。肉片を撒き散らして一柱は柱を舞い上部の結界にぶち当たった。


 グシャァァァ!!


 シルヴィスはそのまま隣の一柱へかかと落としを放ち、そのまま一柱の頭部から腹部まで潰した。


「冗談を真に受けるなよ。お前達に協力要請なんかするわけ無いだろ。俺に従えと言っているんだよ奴隷神共」


 シルヴィスの体に黒と赤の紋様が浮かび上がった。

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