御前会議の決定により滅亡が決定した

 突如集められたアインゼス竜皇国の重鎮達は戸惑いを隠せないようであった。


 もちろん不満などではない。竜帝シャリアスは重鎮達への理不尽な要望をすることなど一切なく、常に正当な手順により要望を出してきたのである。それは権力者の持つべき権力の行使に対する畏怖を体現しているのである。自分達のトップがそうであるのだから竜皇国の重鎮達もまたそれに倣っているのである。


 その竜帝シャリアスが全ての手順をすっ飛ばして自分達を収集したのだからただ事ではないと戸惑っているのだ。


 シャリアスが会議室に入室すると同時に重鎮達は一斉に起立して恭しく一礼する。


「みな面を上げよ」


 シャリアスの言葉に従うように重鎮達は一斉に顔を上げる。すると自分達の目の前にシャリアスだけでなく、アルティミア、レティシア、そしてシルヴィスの四人がいたからだ。


「着席せよ」


 シャリアスの言葉に国家の重鎮達は一斉に着席する。その一糸乱れぬ行動に一種の美しさすら感じるほどである。

 シャリアスは重鎮達の注意が完全に自分に向き聞く体制が整ったのを感じたところで重鎮達に告げる。


「戦だ」


 シャリアスの簡潔極まる宣言に重鎮達の間に激震が走る。シャリアスは基本軍事による解決に対して慎重である。それは軍部を軽視しているわけではなくむしろ強大すぎる軍事力を行使して弱者を踏みにじる事に対してどうしても嫌悪感を持ってしまうのである。だからこそ礼を尽くし、交渉で事を治める事を重視する。

 その姿勢に対してアインゼス竜皇国は弱腰であると調子に乗った者達は即座にそれが誤りである事に気付く。アインゼス竜皇国は徹底的な相互主義者であり、相手が不誠実な対応をするのならば徹底的に扱いが軽くなる。それに腹を立てた相手国が反アインゼス竜皇国同盟を結成したとしても、それを容易に撃破する。

 これを見て流石にアインゼス竜皇国には誠意ある応対すべきという認識に落ち着くというものである。


 ところが今回はシャリアスがいきなり軍事行動という札を切ってきたのである。どこの誰がシャリアスの逆鱗に触れたのかが気になるところである。


「陛下、相手は?」


 リザーノルフ軍務卿がシャリアスに尋ねる。そこに異論をはさむつもりはない。むしろどこの誰がシャリアスの逆鱗に触れたかを知りたいと思っての問いかけである。


「相手はシュレーゼント王国と黒幕の神だ」


 シャリアスの返答に重鎮達は訝しんだ。シュレーゼント王国という名前に聞き覚えがなかったからである。


「シュレーゼント王国とは異世界・・・にある国だ」


 シャリアスの発した異世界という言葉に重鎮達は目を細める。竜帝一家の一人であるヴェルティアの不在、シュレーゼント王国へのいきなりの開戦の決断に重鎮達は急速に事情を把握し始める。


「まさか……ヴェルティア皇女殿下は異世界に浚われたというのですか?」


 リザーノルフ軍務卿の声がかすかに震えている。いや、重鎮達の間にも怒りの雰囲気が発せられた。


「そうだ」


 シャリアスの肯定の言葉を受けて重鎮達の怒りは一気に高まった。皇女であるヴェルティアを浚うなどアインゼス竜皇国への侮辱以外の何者でも無い。


「して陛下……シュレーゼント王国はどのような目的でヴェルティア皇女殿下を拐かしたのですか?」


 努めて冷静に宰相であるゼイセアス公爵が尋ねる。


「かの世界の魔王を討伐させようという魂胆だ」

「なんと!?縁もゆかりもなき世界を救えと? しかも皇女殿下の意思確認もせずにですか?」

「そうだ……しかも魔王討伐の報酬がシュレーゼント王国の王太子との婚姻だそうだ」

「な、なんと…」


 シャリアスの説明に重鎮達から放たれる怒気が十段階ほど跳ね上がった。


「それは我が国ならば余りある栄誉であろうという宣言ですかな?」


 ミュトリス法務卿の声は爆発しそうな怒りを必死に抑えようとしたものである。


「そうだ」


 シャリアスの返答を受けて重鎮達の怒りはもはや抑えようもないレベルで跳ね上がった。


「おのれ!!シュレーゼント王国の者共!!根絶やしにしてくれるわ!!」

「おう!!皆殺しにしてくれる!!」

「我らを舐めればどうなるか、かの世界に刻んでやろうではないか!!」


 重鎮達の怒りは凄まじいものである。彼らは決して短絡的な思考の持ち主ではない。常に粘り強く誠意を持って交渉することを旨としているが、一線を越えた者達に対して一切の容赦などしないのだ。

 今回のシュレーゼント王国のとった行動は、ヴェルティアというアインゼス竜皇国のある種象徴的な人物の拉致、そしてヴェルティアに自分達では不可能な仕事を押しつけ、しかもその報酬がシュレーゼント王国の王太子との婚姻である。アインゼス竜皇国を舐めやがって!となるのも当然である。


「みなさん、よろしいでしょうか」


 シルヴィスの言葉に全員が静かになる。


「ヴェルティアを浚った連中はシュレーゼント王国とルオス=クイケという神とその一派です。今回はヴェルティアですからあの者達のおもちゃになる事はないでしょう。ですがそれはヴェルティアだったからです。他のものであった場合に縁もゆかりもない連中のために戦わされることになります。もし、これがヴェルティア以外のものであれば玩具にされて尊厳も奪われることになるでしょう。私はそれがどうしても許せない」


 シルヴィスがそう言うと全員が頷いた。シルヴィスの言うとおりヴェルティアだからこそ神や国の玩具にならずにすんだのである。もし自分の家族が浚われてでもすれば、連中の玩具になってしまうのである。


「おそらくですが連中は今までも何度もそうやって異世界の者達に自分達がやりたくないことを押しつけていたのでしょう。そして失敗したところで異世界人が死んだだけであるから心も痛まなかったことでしょう」


 シルヴィスの声に含まれる限り無い嫌悪感を重鎮達は感じていた。シルヴィスの嫌悪感のことは師を亡くした経験から来ているものである。そのことを知っている重鎮達はまたも大きく頷いた。


「少なくとも今後こんなことが出来ないようにしたいと思っています。そのためには私一人では不可能です。みなさんの力をお貸しください」


 シルヴィスの言葉に全員が一礼する。シルヴィス一人でも十分に蹂躙することができるというのに自分達の力を借りたいという言葉に重鎮達は心動かされる。


「微力ながら我ら一同力を尽くさせていただきます」


 ゼイセアス公爵の言葉に一同が頷く。


「今回の戦は余だけでなく妻アルティミア、娘レティシアも参加する」


 シャリアスの言葉に重鎮達は今回の戦におけるシャリアス達の本気度がうかがいしれるというものだ。


「ヴェルティアはシュレーゼント王国の者共を鍛え魔王との戦いにかり出すつもりらしい。ならば出兵は半年後、だが状況次第で前倒しにする。卿等は準備を整えよ」

「はっ!!」


 シャリアスの言葉に一同は立ち上がり一礼する。


 アインゼス竜皇国の逆鱗に触れた者達の未来は暗い。

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