派遣と静かな宣戦布告

「ヴェルティア、無事なのか?」


 シルヴィスの言葉に全員の視線が集まる。


「      」

「勇者だと?それで魔王を斃せと?それでお前はその話を受けたのか?」

「      」

「はぁ?異世界の者にすがらなければ滅亡するようなクズ共を率いて大丈夫なのか?」

「      」

「軍事訓練だと? それじゃあ返ってくるのに時間がかからないか?」

「      」

「お前一人じゃ大変じゃないか? そっちの軍が何人いるかわからないが、軍事訓練をするのに人手が必要だろう?」

「      」

「ディアーネさん、ユリさん、これからヴェルティアの元に行っていいただけますか?」

「もちろんです!!」

「私ももちろんいく!!」


 シルヴィスの言葉にディアーネとユリが即座に頷いて言う。


「ありがとうございます! それではその事をヴェルティアに伝えます」


 シルヴィスはそう言うとディアーネとユリに頭を下げた。


「ヴェルティア、これからディアーネさんとユリさんを送るけど助けになるだろう?」

「      」

「それじゃあ、すぐに二人を送るな」

「      」

「ああ、ちょっと用があってな」

「      」

「こっちの仕事が終わりしだいそっちにいくからちょっと待ってろ」


 シルヴィスはそう言うとディアーネとユリへと視線を向ける。


「お二人とも準備が整わない状況で送ることになり非常に心苦しいのですが、今からヴェルティアの元に送ります」

「承知いたしました」

「任せておいて」


 シルヴィスの依頼にディアーネとユリが即答する。 


 シルヴィスが術を展開するのと同時にアルティミアが神の声ガランを虚空から取り出すとディアーネへと放る。普通であればこのような渡し方は絶対にしないのだが、シルヴィスの転移術でディアーネとユリと一緒に異世界に行くわけにはいかないのでこのような方法を採ったのだ。


「ディアーネ、ユリ、ヴェルティアを頼みます。それからヴェルティアの暴走を止める必要はありません。よろしいですね?」

「承知いたしました」

「お任せください」


 アルティミアの言葉にディアーネとユリは即答すると深く一礼する。アルティミアは自分の娘を誘拐された以上、異世界の住民は敵として位置づけられたのだ。


「アルティミアの言う通りだ。問答無用で襲うような連中……ただで済ませるつもりはない。シルヴィス君が君達とともにいかない理由はわかってるな?」

「もちろんでございます」

「私も理解しております」

「そうか、いいか徹底的にやれ。誰の娘、誰の妻を誘拐したのか骨の髄までたたきこんでやれ」

「「御意」」


 シャリアスの命令にディアーネとユリは静かに頷く。だがその静けさはまさに嵐の前の静けさというべきものである事は明らかである。


「つながりました。それではディアーネさん、ユリさんヴェルティアをよろしくお願いいたします」


 シルヴィスがそう言うとディアーネとユリの前にぽっかりと孔が開いた。


「それでは行って参ります」

「お嬢のことはお任せください」


 ディアーネとユリはそう言うと孔へと足を進め入っていく。二人が孔に入ると孔はふさがり初めから何もなかったかのようになる。


「それでは私は異世界の神界を探すことにします」


 シルヴィスの言葉にシャリアスとアルティミアの二人は頷いた。


「シルヴィス君、分かっているとは思うが一人でやろうとするなよ? 娘を虚仮にされて許せない気持ちがあるのは君だけではないぞ」

「もちろんです。手を貸した神とそれを利用しようとした連中まとめて地獄を見せてやりましょう」

「さて、それでは私は親征の準備だな」

「ええ、私も今回は久々に参加する事にするわ」


 シャリアスとアルティミアの言葉にシルヴィスは大きく頷いた。その一方で執務室にいる文官や騎士達は戦慄していた。親政と言うだけで国家の一大事であるのに、今回は竜妃であるアルティミアも参戦するという事に対して戦慄するのも当然であった。文官や騎士達が戦慄する空気を醸し出しているのは、アルティミアを足手まといであると見なしているわけではない。むしろ逆で両陛下の親政という重すぎる事態に畏怖しているのである。


 彼らに世界最強達の怒りを買った連中に同情は一切ない。ただ、とんでもない事になったということだけは理解していた。


【あとがき】

 シルヴィスとヴェルティアがどんな会話をしたのかはリンク作品である『最強皇女を異世界に召喚したことでとんでもないことになった世界の話』の第3話を読んでいただければと思います。

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