ヴェルティア誘拐②
「お前ら!!ヴェルティアをどこにやった!!」
シルヴィスは凄まじい怒気と殺気を放ちながら男二人に襲いかかる。シルヴィスの怒気と殺気を受けた男二人は恐怖に顔を歪めた。
男の一人の間合いに入ると同時にシルヴィスは左虎爪を右下方から放つ。男はシルヴィスの左虎爪を両腕を交差して受け止めようとした。
だが……
シルヴィスの左虎爪は男の腕のガートを突き破ると肝臓の位置から左鎖骨までえぐり取った。男の両腕のガードはシルヴィスの攻撃の前に濡れた紙よりも脆かった。男がその事に気づくことはなかった。それだけの時間が与えられなかったのだ。えぐり取られた頭部が床に落ちてすぐに男の目から光が消えたのだ。
「&’!!」
男は何やら叫ぶ。言葉はわからない。だが何を叫んだかはわかる。この時の男の叫びがまさにそれで『助けて』である。
シルヴィスは男の命乞いを理解した上で容赦なく男の耐久力を遙かに上回る攻撃を放つ。シルヴィスが放ったのは右中段蹴り、男は反応も出来ずにまともに受ける。シルヴィスの右中段蹴りは、一瞬で男の内臓を潰し背骨をへし折りそのまま両断する。
男が最後に見た光景は自分に迫ってくる床であった。両断された上半身がそのまま床に落ちたのである。シルヴィスは何の躊躇いもなく男の延髄を踏みぬいた。男は痙攣することもなくそのまま絶命する。
「シルヴィス様!!その者達は!?」
「シルヴィス様、お嬢は!?」
ディアーネとユリが厳しい表情を浮かべてシルヴィスに尋ねる。
「わかりません。ヴェルティアがいきなり消えたんです」
「転移ですね」
「はい。そっちで倒れている二人ならヴェルティアをどこにやったか知っていると思います」
シルヴィスの言葉を受けて、ユリはヴェルティアが
「……シルヴィス様」
「どうしたんです?」
ユリの言い出しづらそうな声色にシルヴィスは訝しみながら問いかけた。ユリはシルヴィスの問いかけに居づらそうな声色を変える事無く返答する。
「こいつら……
「へ?」
ユリの返答にシルヴィスは呆けた声が出た。
「そうか……こいつらの実力ならヴェルティアの攻撃に耐えられないか」
シルヴィスはそう言って頭を抱えた。いつものシルヴィスであれば冷静に男達の両手両足を砕いてそこから尋問を行ったのであろうが、ヴェルティアが連れ去られた事に一瞬我を忘れて男達二人を瞬殺してしまったのである。これは逆に言えばシルヴィスの中でのヴェルティアの存在の大きさを示すものであるのだが、それはそれとしてシルヴィスの大きなミスである事は間違いない。
「何たるヘマだ」
珍しくシルヴィスが落ち込む。師を亡くしそれから一人で戦ってきた時期のシルヴィスであれば絶対にしないミスである。だが、ヴェルティアや信頼できる仲間達との日々が怒りの余り感情を爆発させても良いという意識が生まれたのである。
「シルヴィス様、落ち着いてください。この程度の連中が束になったところでお嬢に外を加えることなんかできないよ」
「そうですね……そんな奇跡そうそうおこるわけないですよ」
ユリとディアーネがシルヴィスにそう言って慰める。ただ、そうはいっても二人の目には明確な怒りがあることをシルヴィスは察していた。もちろんシルヴィスに向けてのものではない。ヴェルティアを浚った者達に向けてのものである。
「シルヴィス様、まずは両陛下へ報告いたしましょう」
ディアーネの言葉にシルヴィスは頷いた。
ここで兵士達が集まってきた。ディアーネが兵士達に事情を説明すると、処理を任せて自分達はシャリアスとアルティミアの元へと向かう。
足早に駆ける三人にすれ違う者達が道を開ける。
「陛下!突然申し訳ございません!!」
シルヴィスがシャリアスの執務室の扉を開け放つとシャリアスが少しばかり驚いた表情を浮かべた。シャリアスの執務室には特殊な結界が貼られており、外部の情勢から隔絶されており、シルヴィスの先程の怒気と殺気を感じ取ることが出来なかったのである。 シルヴィスは将来の皇配であり、間違いなく権力者の側の人間である。だからこそシルヴィスは手順や手続をきちんと行っている。だからこそシルヴィスがこのような行動を取ることに対してそれなりの理由があると周囲の者達は考えるのだ。
「ヴェルティアが何をしでかしたんだ?」
シャリアスの第一声はこれであった。義理の息子であるシルヴィスがこのような行動をとるのはヴェルティアが何かとんでもないことをしてしまったと反射的に考えたのはやはり経験というものであろう。
「いえ、違います!! ヴェルティアが浚われたんです!!」
「な、なんだと!?」
「信じられないのは分かりますが事実です!!」
「犯人は?」
「私が加減を間違えて殺してしまいました」
「君が加減を?」
「はい、ついカッとなってしまって」
「そうか」
シルヴィスの言葉にシャリアスは少しばかり嬉しくなった。シルヴィスがカッとなってしまうほどヴェルティアの存在が大きいことを示しているからである。
「しかし……いい度胸だな。私の娘を浚ってただですむと思っているなんてな」
シャリアスの言葉に明らかな怒気が宿る。それだけで空気が震える。
「ええ、私もそう思うわ……。陛下、当然報いをくれてやりますよね」
そこにアルティミアが姿を見せる。シルヴィスがただならぬ雰囲気を放ちながらシャリアスの執務室へ向かったと聞けば何事かと思うのは当然である。
「当然だ。だがまずはヴェルティアを探さねばな」
シャリアスの言葉にシルヴィスもアルティミアも頷いた。
「探してみます!!」
シルヴィスはそう言うと目を閉じる。それとほぼ同時にシルヴィスの足下に魔法陣が顕現した。
「ヴェルティア……返事をしろ」
シルヴィスの言葉に全員が固唾をのんで事の経過を待つ。
「ん?ヴェルティアか?」
シルヴィスの口からヴェルティアへの呼びかけを意味する言葉が発せられ、室内にホッとした空気が流れた。
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