ディアーネの結婚話④
突如乱入してきたヴェルティアに室内の誰も声を出すことができない。そうディアーネでさえもだ。
「私に任せてください!! さぁ、ヒイロ=リールワルト男爵!! ディアーネを手籠にしようなどと不届き千万!! たとえ神が許してもこの私が許しません!!」
ヴェルティアがビシッとヒイロに指差して高らかに宣言した。指さされたヒイロはあまりの展開に唖然としていた。
「あの……ヴェルティア様?」
「おっと!! 私にはわかってますよディアーネ!!」
「えっと……何がですか?」
「このあなたの頼れる主であるヴェルティアの登場に感動していることをです!!」
「あの、状況がよく飲み込めないのですが?」
ディアーネも困惑気味である。ディアーネはきちんと休暇届けを出しており、しかもその理由もきちんと伝えていた。いわば貴族令嬢として当たり前の行事で休むということをきちんと報告していたため、ヴェルティアが登場するというのは完全に想定外であったのだ。
「ふ、安心してください!! あなたの主は決してディアーネに辛い思いなどさせるつもりはないのです!! さぁ、リールワルト男爵!! このヴェルティアと勝負といこうではありませんか!!」
「ええっ!?」
ヴェルティアは再びヒイロを指差すとあまりの展開にひいろは驚きの声をあげる。
「またんか!!」
スパーンという音とともにシルヴィスが飛び込んできた。ちなみにスパーンという音の正体はシルヴィスがヴェルティアの頭を叩いた音である。
「な、何をするんです? 痛いじゃないですか!!」
「お前はなんで話を最後まで聞かずに走り出すんだよ」
「ふ……一を聞いて十を知るという私の聡明さのなせる技なのです」
「何を言っとるか!!」
「い、いひゃいれす」
ヴェルティアが痛がったのはシルヴィスが両頬をつまみ上げているからである。もちろん大した力を入れていないためにどちらかというとじゃれ合いの延長である。
「シルヴィス様、さすがに皇女殿下へそれは……」
ヒイロは恐る恐るシルヴィスに言う。ヒイロの言葉にシルヴィスはヴェルティアの頬から手を離した。
「本当に申し訳ありません!! リールワルト男爵閣下!!」
シルヴィスはそう言ってヴェルティアの頭を掴むと一緒に頭を下げた。
「あわわ、お、お止めください!! シルヴィス様」
ヒイロは分かりやすいほど動揺していた。それもそうだろう。現在シルヴィスは爵位を持っていないが、皇女ヴェルティアの夫であり、最終的にヴェルティアを止めることのできる超重要人物なのだ。そんなシルヴィスに頭を下げられれば男爵であるヒイロにしては恐れ慄くしかないというものだ。
「あのシルヴィス様、今日はどうしてここに? それにヴェルティア様が私を助けるとか? 一体なんのことです?」
ディアーネがシルヴィスに困惑しつつ訪ねた。
「それはですね!! ユリからの情報で、ヒイロ=リールワルト男爵は卑怯にもルアドさんを倒してディアーネに結婚を迫っているという話を聞いたんですよ!! しかも今日、今まさにディアーネを手籠にしようという魂胆だとか!! これは私が救うしかないではないですか!!」
ガバっとヴェルティアが頭を上げると捲し立てた。
「アホ!! お前はユリさんの話を途中まで聞いて走り出しやがって、お前今日の夕食はピーマン出してもらうからな」
シルヴィスの言葉にヴェルティアは自信たっぷりに笑った。
「はっはっはっ!! 甘いですねぇ〜この私がピーマンをいつまでも克服できないと思っているとはシルヴィスもまだまだですね。つい先日お義母様にピーマンを美味しく食べる料理を教わった以上、問題はありません!!」
「じゃあレバーも出してもらおう」
「そんな殺生な!! シルヴィスは悪魔です!! 魔神です!! スッととこどっこいです!!」
「訳のわからん抗議を行うな!!」
シルヴィスはそう言ってヴェルティアの額をぺチリと叩く。
「う〜まだレバーを克服してないのに……あの食感を早く克服せねばなりませんね」
ヴェルティアがぼやいているところにユリが駆け込んできた。
「はぁはぁ……遅かった。すまんディアーネ、こんなことになるなんて。それにもうしわけありません。リールワルト男爵閣下」
ユリは息を切らしながらディアーネとヒイロへと謝罪を行った。
「ユリ、あなた何をヴェルティア様に言ったの?」
ディアーネの問いかけにユリはバツが悪そうな表情を浮かべた。
「いや……単にディアーネの結婚話で盛り上がってさ、リールワルト男爵が十年間も伯爵閣下に挑み続けてやっと勝利して結婚が決まったと話したらお嬢が立ち上がってこれは認めませんと言って走り出したんだ」
ユリの言葉にディアーネとヒイロは唖然とした表情を浮かべた。
「え?だってディアーネの意思が全く感じられなかったことからてっきり無理強いされていると思うのは自然ですよね?」
ヴェルティアもさすがに自分が先走りしたことに気づいてきたのだろうか少しばかりトーンダウンしていた。
「全く……ユリさんは別に悲壮な感じは全然なかっただろうが、もし意に沿わない結婚を強いられそうなら最初からお前に言うに決まってるだろ」
「お嬢……私はリールワルト男爵は根性あるなというトーンで話してたよ」
「そうですか? 私にはユリがものすごく悲壮な言い方をしていたように思えたんですけどねぇ〜」
「お前は少し反省しろ」
ペチンとシルヴィスに額を叩かれたヴェルティアは口を尖らせた。
「まぁ私のような完全無欠な存在であっても時として間違えるのですねぇ〜うむうむ、ヒイロさん本当に申し訳ありませんでした!!」
ヴェルティアはそう言ってぺコリと頭を下げる。自分の誤りを素直に認めるところがヴェルティアが愛される理由の一つとも言える。
「いえ!! とんでもありません!!」
ヒイロはビシッと直立不動になりヴェルティアに返答する。いくら親しみやすいとは言ってもヴェルティアはアインゼス竜皇国の皇女であるのだ。
「おっと!! しかぁぁぁぁし!! ディアーネと添い遂げようとしたのならこの私に認められなければなりません!!」
「え?」
ヴェルティアの宣言に全員が唖然とした。
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