ディアーネの結婚話③
ディアーネとヒイロの顔合わせの日がやってきた。
ディアーネはいつものメイド服ではなく、伯爵令嬢にふさわしい青を基調としたドレスである。ディアーネはいつものメイド服とは違う着飾った姿であっても全く違和感がないのはやはり伯爵令嬢として水準以上の教養を身につけているからにほかならない。
「お嬢様、リールワルト男爵閣下が参られました」
「そう、お通ししてください」
侍女が恭しくディアーネに告げるとディアーネはにっこりと笑って返答する。その姿はまさしく家臣が理想とする伯爵令嬢である。
ディアーネの指示を受けた侍女は恭しく一礼すると退出していった。
(さて、お父様の話では根性の塊のような方ですから楽しみですね)
ディアーネはそう心の中で呟く。父からの話を聞いて「重い」という感想を告げたこともあるのだが、同時に根性のある人であるというのもまた正直な感想である。
ディアーネは元来『努力する』ことに対して称賛する気質を持っていた。ヴェルティアという規格外の主君について行くというのは相当な実力が必要であり、ディアーネは常に努力してきた。そうしないとあっという間に置いて行かれてしまう。それはディアーネにとって何よりも嫌なことだったのである。
ディアーネにとってヴェルティアに使えることは何よりも喜びであり、共に歩けるというのは誇りである。そのために実力が足りないというのならばディアーネとって努力を厭うなど選択肢にすら入らないというものである。
ヒイロも絶望的な実力差の父に挑み続けて今日のこの場に辿り着いたと考えると自然と親近感が湧くというものである。
コンコン……
ディアーネが思案をしていると扉を叩く音が聞こえた。どうやらヒイロを案内してきたらしい。
ディアーネが視線を控えていた侍女に向けると侍女は一礼して扉へ向かって歩き出し、扉を開けた。
「リールワルト男爵閣下をお連れいたしました」
「ご苦労様、どうぞお通ししてください」
ディアーネの言葉を受けて侍女が横に譲ると一人の青年が姿を見せる。
身長は170㎝半ばから後半といったところのピシッとした印象を持つ青年だ。
(きちんとした真面目そうな方ね)
ディアーネのヒイロの第一印象がこれであった。
「失礼します。ディアーネ=ザイエルグラン伯爵令嬢、ヒイロ=リールワルトでしゅ!!」
ヒイロはカチコチに緊張しているのが丸わかりであり、語尾を噛んでしまった。そのことに一瞬「やってしまった」という表情を浮かべ顔を赤くした。
「初めて御意を得ます。ヒイロ=リールワルト男爵閣下、ディアーネ=ザイエルグランでございます。本日はご足労ありがとうございます」
ディアーネはそういうとニッコリと笑って一礼した。
「は、はい!! いえ、とんでもありません!!」
ヒイロは顔を赤くしたまま慌てて返答する。
(まだ固いですね)
ディアーネはヒイロの様子を見てそう判断する。
「リールワルト男爵閣下、まずはこちらに」
ディアーネはそういって席を促した。
「は、はい!! 失礼しましゅ!!」
ヒイロは緊張が一切解けてないようである。ちなみにまた噛んだ。
ただ、ディアーネはこの緊張がディアーネの家格が自分よりも上であるからとは思っていない。もし家格に必要以上にこだわるようであれば、父ルアドに何度も勝負を挑むようなことはないだろう。するとこの緊張はディアーネ本人にあったことに起因するものであるのは間違いない。
ディアーネは優しく微笑むとヒイロはさらに顔を赤くした。顔を赤くしつつ着席するヒイロに侍女達が紅茶とお茶請けの用意を行った。当然ディアーネの前にも同様の用意がなされた。
「さて、リールワルト男爵閣下」
「は、はい」
「父から聞きしました。十年間も父に挑み続けたと」
「はい。順序が違うことは理解しているのですが、今更……方針転換するわけにもいかず……大変失礼しました」
ヒイロは恐縮しっぱなしである。どうやらディアーネの意思を確認していないことの間違いを早い段階で気づいていたのだが、それでも今更方針転換することができなかったのだろう。
(さてはお父様がもう諦めたのか?とかことあるごとに尋ねたのではないかしら?)
ディアーネは何となくだがそう考えた。ルアドは何だかんだ言って諦めないヒイロのことを気に入っていたのだろう。
「いえ、それほど不快な印象はありませんのでそこまで恐縮なさらないでください」
「はい。そう言っていただき助かります」
「ふふ、それにしても父からいきなり結婚が決まったと言われた時はびっくりしました」
「恐れ入ります……」
「さて、リールワルト男爵閣下は私との結婚をお望みと……どうなされました?」
ディアーネがヒイロの意思確認を行おうとした時にヒイロが手で制したのだ。
「失礼します。ですがそれをディアーネ嬢に言わせるわけにはいきません。まずは私から告げさせていただきますか?」
ヒイロの言葉にディアーネはニッコリと頷き静かに頷いた。確かにディアーネが告げようとした意思確認などヒイロにとって口にさせるのは解消がなさすぎるというものであろう。
「はい。ディアーネ嬢!! 私と……」
バァァァン!!
ヒイロがプロポーズを行おうとした時に扉が勢いよく開け放たれた。
「ちょっと待ってもらいましょう!!」
そこにヴェルティアが駆け込んできて待ったをかけたのであった。
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