ディアーネの結婚話②
「ヒイロ=リーラワルト男爵……」
ルアドに名を告げられたディアーネはしばし考え込む。リーラワルト男爵家は先代当主と奥方が七年前に亡くなっており、12歳の長男が跡を継いだということは知っていたが、ディアーネとすればそこまでの想いを寄せられるほどの覚えがないというのが正直な感想であった。
「ヒイロ君は先代の跡を継いで男爵位と巡検使の職を継いだわけだ。陛下が私に預け一人前にするようにという命を受けたのだがな……」
「どうかしましたか?」
「彼は基本的にすごく真面目で好青年なんだが、さっきお前が言ったように少々重いところがあってな」
「まぁ十年もお父様に勝負を挑み続けたという話だけで相当な方だと思いますよ」
「そうなんだよ。彼が初めて私にディアーネと婚約させてほしいと言ってきたのは九歳の頃だよ?」
「まさかお父様はその時に男爵様を殴り飛ばしたのですか?」
「お前は私をなんだと思ってるんだ……」
ディアーネの言葉にルアドは傷ついたようであった。流石に九歳の子供を殴り飛ばすなどという非人道的な行為をすると娘に思われているなどというのは流石に看過できないというものだ。
「その時は改めて勝負しようと言ったんだが、いえ!!今からです!!と言って殴りかかってきたんだよ」
「あらら」
「まぁ、流石に殴り飛ばすわけにはいかないので怪我をしないように投げ飛ばしたんだ」
「……大人気ない」
「はぅ!! だがな、彼の動きは年齢の割には見るべきものがあったのは事実だぞ」
「それでもです」
ディアーネの呆れた声にルアドはぐうの音も出ないという表情を浮かべていた。いくら動きが良いとは言っても流石に九歳の少年を投げ飛ばすなど大人気ないと言われても仕方のないことである。
「そして10年間も挑まれた勝負を大の大人が蹴散らしまくっていたというわけですか……」
「いや……流石に手を抜くようなことをすればそっちの方が失礼だろう? それに十二で男爵位を継いでもう彼もいっぱしの投手として家臣を率いる立場になったんだから甘やかすような事は……ねぇ?」
「はぁ……まぁいいですよ。それでついにお父様がリールワルト男爵に敗れたというわけですね」
「まぁそういうことだ」
「それはいいんですけど……私も一応は伯爵令嬢というやつでして、婚約期間もなくいきなり結婚というのはあまり外分的にも良くないのでは?」
ディアーネの意見は正論というものである。貴族同士の婚姻において一定期間の婚約期間を設けるのがアインゼス竜皇国の常識である。婚約期間がほぼないというような事はどちらかに大きな瑕疵があると見なされても仕方のない事なのだ。
「まぁ、普通はそうなんだけどな。ほら……その今までのしきたりが今回覆ったろ?」
ルアドの言葉にディアーネは納得の表情を浮かべた。ルアドのいうしきたりを覆したのはディアーネの主人夫婦であるシルヴィスとヴェルティアであった。
この二人一応婚約したのだが、婚約式が終わった直後にそのまま結婚式をおこなったために正式な婚約期間など10分もないのである。
このような状況であれば、もし婚約期間の短さを揶揄してしまえばそれは将来のアインゼス竜皇国の支配者へ喧嘩を売るに等しい行為である。もちろん当の本人たちはそのようなことを全く気にしないのであるが、気にしないからと言って不敬な行動をとるというのは憚られるというものである。
「まぁ、それもそうですね。私もそれに少しばかり関わっていますので……何も言えませんね」
「そうだろう!! そうだろう!! やはり古いしきたりに縛られるばかりではいけにとこの父は日頃から思っていたのだ!! はっはっはっ!!」
「お父様、とりあえず殴っていいですか? なんというかものすごく殴りたくなってきたので」
「なぜ!?」
「気にしないでください。なぜか無性にお父様の顔面に拳をめり込ませたくなっただけですから」
「いや、気にするだろ!! 物騒なことをいうな!!」
ディアーネがウォーミングアップとして肩を回し始めたのを見て、ルアドが慌てて叫ぶ。
「お父様、冗談に決まってるじゃないですか。さすがにお父様を殴ろうなんて本気なわけないじゃないですか」
「そうか」
ルアドがほっと胸を撫で下ろした瞬間にディアーネは空間から
キィィィィン!!
凄まじい速度で放たれた
「お、お前……私を殺す気?」
ルアドの頬に一筋の汗が流れている。
「この程度でお父様が死ぬわけないでしょう。どうやらその様子ではお父様が弱くなったというわけではなさそうですね。リールワルト男爵様はそれでもお父様を上回ったということ……それでは男爵様とお会いさせていただきたいと思います」
ディアーネは
「お前……まさかヒイロ君を殺そうとか思ってないよな?」
「そんなわけないでしょう。お父様はわたしをなんだと思ってるんです?」
「危険人物」
「殴りますよ?」
「いや、私の愛する娘だ」
「よろしい」
ディアーネはそう言って再び嗤った。
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