後日譚 第13話 グランパリオ激震③

「た、たたたたた大公さま!!」


 グランパリオ公国大公サーヴィル3世の秘書であるジムスが執務室へと駆け込んできた。


「どうした? ジムス、今日は確かにアインゼス竜皇国の交渉団がくるがそんなことはわかっていたことだろう? そんなに慌てるなんて全くなってないな」


 サーヴィル3世は笑いながらジムスを嗜めた。エルヴィルが日程調整を行い、今日が交渉団が来るという日であることは周知のことであり、慌てるようなことではないのだ。


「いや、慌てますよ!! たった今、アインゼス竜皇国の交渉団が到着しましたんです!!」

「だから、そんなことはわかっていたことだろう? ははぁ、あまりにも豪華な一行で驚いたのか? そんなに心配するな。うちのような小国に大物がくるわけないだろう。でもお前がそんなに驚くということは、そんな上の身分でなくとも豪勢だったということか……さすがはアインゼス竜皇国だな」


 サーヴィル3世はそう言って紅茶に手を伸ばした。


「ち、違います!! 大物です!! それもとびっきりの大物です!!」

「は?」

「交渉団の団長はアインゼス竜皇国宰相ゼイセアス公爵!! 副団長は法務卿ミュリトス侯爵です!!」

「へ?」

「大公さまは『八竜』と呼ばれる八個師団をご存知ですか?」

「馬鹿にするな!! それくらい知ってるわ!! 八竜を知らない奴を探す方が難しいわ!! ん……まさか?」


 サーヴィル3世は猛烈に嫌な予感がしてジムスへ問いかけると、ジムスは顔を引き攣らせながら頷いた。


「え?その……八竜の大隊長・・・とかが来てるのか?」


 サーヴィル3世の言葉はある意味、現実逃避と言えるかもしれない。交渉団の団長に宰相であるゼイセアス、副団長に法務卿ミュリトスが来ているというだけで感情がすでに置き去りになっているため、せめてこれ以上の大物は勘弁願いたいという心境なのだろう。


「とんでもない!! 師団長が来てます!! しかも五人もです!!」

「はぁ!?」


 サーヴィル3世は大公らしからぬ返答をしてしまう。これは師団長が五人来ていることに驚いたというのもあるが、ようやく現実に対して大公の感情が追いついてきたのだ。


「待て待て待て!! まず順を追って確認しよう!! いいかな?」

「は、はい!!」

「まず……交渉団の団長は誰だっけ?」

「アインゼス竜皇国宰相であるゼイセアス公爵にございます」

「うん……やはり聞き間違いじゃなかったんだな……」

「……はい」

「なんでだぁぁぁぁ!! なんでそんな超超超大物が来るんだよ!! うちの国名言ってみろ!!」

「グランパリオ公国」

「そうだよ!!うちの国名はグランパリオだよ!! 人口わずか五万人!! 主要産業は農業!! 位置的にも何の旨味もない僻地だよ!! そんな小国に何でアインゼス竜皇国の宰相が交渉にやってくるんだよ!!」

「落ち着いてください!!」

「落ち着いてられるか!! ゼイセアス公爵といえばアインゼス竜皇国の歴代最高の宰相と呼ばれている大物じゃないか!! 何でそんな人がここに来るんだ!?」

「そんなこと知りませんよ!!」

「ゼイセアス公爵だけでもう我が国は一杯一杯だよ!! それに『法の守護者』である法務卿!! 八竜の師団長が五人ときたものだ!! 何なんだよ!! 周辺国が一つになっても指先一つで消し飛ぶわ!!」


 サーヴィル3世は言い終わると息が乱れていた。アインゼス竜皇国の重鎮中の重鎮が交渉団に入ってきているともなれば取り乱すというものだ。


「まぁ、とって食われはせんでしょう。行きますよ」


 ジムスは落ち着いた声でサーヴィル3世へ言う。これはサーヴィル3世があまりにも取り乱すのを見て冷静になったのだ。


「待て!! 深呼吸くらいはさせろ!!」

「深呼吸したところで事態は改善しませんよ」

「お前、いきなり達観し始めたな」

「大公様も早くこの段階まで来てください」

「……お前、私の代わりにゼイセアス公爵の対応してくれないか?」

「大公様……まっぴらごめんです。胃が持ちません」

「主従関係がおかしいよなぁ……」


 サーヴィル3世はぼやきながら交渉団を出迎えに向かった。

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