第239話 戸惑う暇さえなかった
「おお!! 婿殿!! よく参られた!!」
元の世界に帰還したシルヴィス達の前にアインゼス竜皇国皇帝であるシャリアスが親しげに声をかけてきた。
そして、この場にいるのはシャリアスだけでなく、どことなくヴェルティア、レティシアに似ている美しい女性がシャリアスの隣に、背後にアインゼス竜皇国の重鎮達がズラリと並んでいる。
「おー!!お父様、お母様、そしてみなさん!! このヴェルティアただいま戻りました!! いや〜みなさんに寂しい思いをさせましたねぇ〜」
ヴェルティアがブンブンと手を振りながら待っていた竜皇国の面々へ向かって駆け出した。
レティシアとディアーネ達もヴェルティアの後に続いた。ヴェルティアとレティシア以外の者達はシャリアス達の前に跪き揃って一礼する。
「みなもご苦労であった。よくヴェルティア、レティシアを止め……いや、守ってくれた」
シャリアスの言葉にさりげなく苦労を忍ばせる言葉が含まれている。
「おい……」
「なんだ?」
「今、違和感を感じたんだが……」
「奇遇だな……俺もだ」
「レティシアのご両親と重鎮の方々の服装って……俺にはその礼装に見えるんだが、竜皇国ではあれが普通なのか?」
「俺は平民だから国の上層部の普段の服装は知らないけど……礼装……しかも最上級のものだと思うぞ」
シュレンとシルヴィスの会話は、皇帝夫婦、重鎮達の身に纏う衣装が明らかに豪華
「婿殿、シュレン殿こちらに来ていただけないかな?」
シャリアスがシルヴィスとシュレンに和かな声で声をかけた。シルヴィスとシュレンは一瞬視線を交わすとシャリアス達の元へと歩を進める。
「ああ、跪く必要はないよ。君達は私の臣下ではないし、何より将来の家族だよ。だから私に跪く理由はないよ」
シャリアスの言葉は優しげだ。だが、それがシャリアスの実力の高さを思わせるものだ。絶対的強者であるシャリアスは虚勢をはる必要がないための余裕とも言える。
「あの初めまして……シルヴィスです」
「シュレンです」
シルヴィスだけでなくシュレンも自然と敬語でシャリアスへと返答している。
「うん、初めまして。シャリアスだよ。そしてこっちが私の妻でありヴェルティアとレティシアの母であるアリティミアだよ」
「よろしくお願いしますね」
アリティミアはニッコリと笑って二人へと語りかける。アリティミアも優しげな声で二人に語りかけた。
「さて、シュレン殿は我が娘であるレティシアの恋人と聞いた」
「は、はい」
シャリアスの声かけにシュレンは緊張を高めた。神とはいえ異世界の者、交際を認めないという判断をされることも十分に考えられる。そうシュレンが考えたのは、シルヴィスのことは婿殿と呼んでいるのにシュレンは名前で呼んでいることからだ。
「さて、シルヴィス殿はヴェルティアの婚約者、言い換えれば将来の家族であることは確定してる。ではシュレン殿はどうだろうか?」
「は?」
「私達と家族になる意思はあるのかな?」
「え?」
シャリアスの問いかけにシュレンは呆気に取られた。レティシアと添い遂げたいという気持ちは当然にあるのだが、展開の早さについていけていないところがあるのだ。一瞬レティシアに目を向けるとレティシアも驚きの表情が浮かんでおり、レティシアの知らないことなのだろう。
「どうなのかね?」
「もちろん、あります!! 私はレティシアと添い遂げたいと思っています」
「そうか!! そうか!! 聞いたな皆のもの、シュレン殿もこれより我が家族となった。それではシルヴィス殿とヴェルティアの婚約式と共にシュレン殿とレティシアの婚約式を執り行うとする」
「へ?」
「シルヴィス殿とヴェルティアの婚約式は今日これからだ」
「へ?」
「え?」
シャリアスの言葉にシルヴィスもシュレンも呆気に取られた。まさか今日、婚約式が執り行われるなど流石に予想外である。
「ちょっと待ってください。これから婚約式なんですか!?」
「そうだよ」
「え?ヴェルティアって皇女ですよね? そんな立場の婚約式が……」
「大丈夫。もう準備は終わってるから」
「終わってるんですか?」
「もちろんだよ」
シャリアスはにっこりと笑った。その様子にシルヴィスはまたも呆気に取られた。
「アリティミアと話し合って決めていたんだよ」
「え?」
もはや何度目かの驚きがシルヴィス達を襲っていた。
「ええ、私たちも家族が増えるのは本当に嬉しいですからね」
アリティミアはニッコリと笑う。
(あ……この人ってやっぱりヴェルティアとレティシアのお母さんだ)
シルヴィスはアリティミアもまたヴェルティア、レティシアのように常識をあっさりと踏み越えるのである。
「お、お父様、お母様、私も今日婚約式なんですか!?」
「もちろんです」
レティシアの言葉にアリティミアはさも当然というように言い放った。シャリアスも楽しそうに笑っている。
「お前の報告に今日戻るとあったからな。準備くらいは当然するさ」
シャリアスはまたも和かに言い放つとレティシアは完全に飲まれてしまう。
「おーー!! なるほど!! さすがはお父様にお母様です!! めでたいことは一緒にやることでさらにめでたさを増そうというわけですね!!」
そこにヴェルティアがうんうんと頷きながら喜びと納得の声を上げた。
「おい……わかってたけどお前の婚約者ってすごいな」
「だろ?」
「頑張れよ……」
「いや、お前もな」
「おう……」
シルヴィスとシュレンは呆気に取られつつもはや流れが完全にあちらに動いたことを悟った。
「さて、話がまとまったところで君たちも用意してもらうよ」
「既にこちらの準備は終えてますからね。あとはあなた達の準備だけです。ディアーネ、ユリ、ヴィリス、シーラ達も出席しなさい」
アインゼス竜皇国の支配者の言葉にディアーネ達も驚きを見せることなく恭しく礼をとった。
(あ……知らなかったのは俺たち四人だけだ)
シルヴィスはディアーネ達の態度から既に根回しが済んでいたことを悟った。
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