第238話 帰還
神族と魔族の戦いは講和条約が結ばれたことで終わりを告げた。
エランスギオム会戦において、シオルが戦死、シュレンも重傷を負ったことで停戦条約が結ばれ、交渉が行われていた真っ最中にそれが起こった。
ディアンリアから能力を得ていた者達が突如体内から赤い珠が飛び出し吸い込まれていくと天軍は交戦能力を一気に失い、停戦交渉は最短で終了したのである。
天軍と魔軍双方は停戦条約に従い、両陣営は距離を取ると休養に入る。
異変を感じ取ったキラトとシュレンは天界へと移動し、そこでディアンリアとの戦いへと臨んだのだ。これが思わぬ影響をもたらすことになった。両軍のトップが共闘したことで、両軍の将兵の間に奇妙な連帯感が生まれたのだ。
またディアンリアが神や天使達の多くを殺害したことでシュレン麾下の者達は敵が魔軍ではなくディアンリアへ変わったのだ。
同時に魔軍も
そこまで揃えば講和条約を結ぶのに大きな障害はない。
講和条約の内容も本来であれば天軍が相当な不利な条約が課されても仕方なかったのだが、必要以上に過酷な条件を突きつければ終わりない戦いになるという判断があったのも事実である。
弱体化したとはいえ、シュレン麾下の六将は未だ健在であり、楽に勝てるなど思う者は魔軍にはいない。
そのような背景もあり、講和条約による条件は7対3で魔軍が有利ということになったのである。
有史以来の最大規模の天軍と魔軍の激突である神魔大戦は終わったのである。
そしてシルヴィス達は目的であったヴォルゼイスとディアンリアをしばき倒したことでこの世界ですることを終えて帰還することになったのだ。
「さてと……とりあえずこれで
シルヴィスの言葉にキラトをはじめとする魔族の面々が頷いた。
「シルヴィス、世話になったな。お前がこの世界に来たことで多くのものが一気に変わった」
「まぁ世話したという感じもないんだが、俺もみんなのおかげで楽しくやれたよ」
「それはお互い様だ。楽しかったよ」
「ああ、またな」
シルヴィスとキラトはそう互いに言葉をかけると握手をした。
「リネアさん、お子さんが生まれた頃にまた来ますね!!」
「待ってますよ。ふふ、ヴェルティアさんもシルヴィスさんとのお子さんを楽しみにしてますよ」
「は、はい!!」
リネアの返しにヴェルティアは顔を赤くしつつ嬉しそうに返答した。
「それじゃあ、俺たちは戻るな」
「ああ、そうそう。お前とヴェルティアさんの結婚式には駆けつけるから知らせてくれ」
「もちろんだ。お前とリネアさんだけでなくムルバイズさん達も招待するよ」
「楽しみにしてるぞ。結構早く結婚式が行われたりしてな」
「そんなわけないだろ。普通に考えてヴェルティアは皇女だ。お前だって皇族の結婚なんて国家的行事がそんなにポンポン開けるわけないだろ」
「だな」
シルヴィスとキラトはそう言って笑い合った。
「なぁ……」
「どうしたの?」
シルヴィス達二人の会話を聞いていたリューべが隣にいるジュリナに小さく語りかけた。
「お二方の会話だけどさ……」
「うん」
「俺には前振りにしか聞こえないんだけど……気のせいかな?」
「奇遇ね。私もそう思ってるのよ」
「だよな……普通に考えればお二方の言葉が正しいんだけどさ……何となくだけどヴェルティアさんとレティシアさんの実家だろ? 普通を想定していいのかね?」
「……ダメだと思うわ」
リューべとジュリナは互いに何かを感じ取ったかのように頷き合った。
「……そうじゃのう……備えておくのが大切じゃのう」
二人の会話を聞いていたムルバイズも小さく呟いたが、その呟きは誰の耳にも届かないものであった。
「お姉さま、お
「その通りだ。二度と会えないというわけじゃないからな」
レティシアとシュレンがシルヴィス達に語りかける。レティシアとシュレンはどういう流れかいつの間にかお互いを想い合う仲になっており、ちゃっかりと恋人同士となっている。レティシアも元の世界に戻るというので、竜帝に挨拶に向かうということになっているのだ。
「わかったよ。それじゃあ戻るとしよう」
シルヴィスがそういうと魔法陣を描き出した。
「それじゃあな。みんな達者でな」
「みなさん、さようなら!! また会いましょう!!」
シルヴィス、ヴェルティア、シュレンがそういうとディアーネ達はキラト達に一礼する。
「みんな、しばらく留守を頼む」
「はっ!!」
シュレンがディガーム達へと声をかけると六将達は一斉に頭を下げた。
そして術が起動するとシルヴィス達の姿は消えた。
こうして、シルヴィスの誘拐から始まった一連の騒動は終わり。シルヴィス達は元の世界に帰還したのであった。
シルヴィス達が元の世界に戻り誰もいない場所を見てキラトがニヤリと笑った。
「さて、準備するか」
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