第237話 恋人から婚約者へ
レティシアの真剣な表情と声にシルヴィスは少しだけ緊張感を高めた。
「お
「はぁ……」
「そうですよね?」
「まぁ、確かにそうだな」
「ですよね!!」
レティシアはシルヴィスの返答に一気に食いついてきた。その様子にシルヴィスはどことなく失敗したかなと思ってしまう。
「恋人同士という不安定な状況であることはお姉さまやお義兄さま、そして我々、竜皇国にとって喜ばしいことでしょうか? いえ、そんなわけありませんよね?」
「は、はい」
レティシアの剣幕にシルヴィスはついつい返事をしてしまう。シルヴィスにとって迂闊すぎると言えるかもしれないが、シルヴィスもヴェルティアと恋人同士になったことに対してやはり心が浮ついていたということであろう。
「お姉さまもそう思われますよね?」
「え? そうですね?」
「はい、お姉さまも賛成いただいたということで大変嬉しく思います。さすがは心を通い合わせた方同士、息もピッタリですね!!」
レティシアは同意を得たということにして話を一気に進めていく。その強引さはある意味ヴェルティアとは違う手強さを感じさせるものであった。
「さて、お二人の心も既に固まっているということなのでここはこの書類にサインをいただけますか?」
レティシアはそう言うと空間に手を突っ込むと一枚の書類と筆記具を取り出した。
「レティシア?その書類は何ですか?」
ヴェルティアの疑問にレティシアは輝くような笑顔を浮かべて返答する。
「もちろん、お二人の婚約成立の宣誓書です」
「へ?」
「え?」
「いやぁ〜まさか、お二人とも私と同じ気持ちであったとは心から嬉しく思っています」
「ちょっと待ってください!! いきなり婚約するんですか?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか」
ヴェルティアの動揺にレティシアはさも当然という表情と声色で返した。
「お義兄さまも先ほど同意されましたよね? 不安定なものはよろしくない。すぐにでも結婚したいけど、まずは婚約することで法的な縛りをつけた方が安心であるとおっしゃいましたよね?」
「いや……そこまでは言ってないぞ」
「まぁ些細なことですので問題ありません」
レティシアの強引な論法にシルヴィスもヴェルティアも完全に押されている。いつもの二人であれば巻き返しを行うところなのだが、もし執拗に否定すれば相手を傷つけることになるかもしれないと思うと強く否定できない。レティシアとすればこの状況を逃すつもりは一切なかったのだ。
「し、しかし、こういう婚約とかは家とかの問題もあるし……何よりヴェルティアは皇女なのだから竜帝陛下のお許しとか必要なんじゃないのか?」
シルヴィスの意見はもっともであった。ヴェルティアはアインゼス竜皇国の皇女であり、高貴な身分であることは間違いないのである。そのヴェルティアが何の許しもなく婚約を結ぶなどあり得ないだろう。
「心配ありません。もうとってあります」
レティシアが書類の一部分を指差してにっこりと笑う。指差した先には竜帝シャリアスの名が既に記入済みであったのだ。
「さて法的にも問題ございませんし、恋人という不安定な状態でなくなります。あ、そうだ。ディアーネ」
「はい!!」
「例の書類を出してください」
「はい!!」
レティシアの命令にディアーネが空間から一枚の書類を取り出すとレティシアへと渡した。
「ここに一つだけ何でも言うことを聞くという書類があるのですけど……どうされます?」
その書類はかつてヴェルティアの嘘泣きにだまされて書かされた書類であった・シルヴィスもヴェルティアもすっかり存在を忘れていたのだが、それは二人だけであり、ディアーネとユリは忘れていない。そのためにレティシアに報告済みなのは当然というものだ。その書類がいまレティシアへと渡っている。
レティシアはにっこり笑ってそういうとシルヴィスとヴェルティアは苦笑した。完全にレティシアに流れを持っていかれており、それを覆す事はもはや叶わない。いや、元々覆すつもりなど二人にはなかったのだ。
「いや、必要ない。その書類はヴェルティアが使うべきだからな。その時のためにとっておいてくれ」
「さすがはお義兄さまです。ご自分から覚悟を決める心意気さすがです!! それではサインをどうぞ」
レティシアはそう言うとサインを求めた。シルヴィスは苦笑しつつ書類に自分の名をサインした。
「ささっ、次はお姉さまです!!」
「う〜ん、なんか急展開すぎますけど……私もシルヴィス以外の人と結婚する気はないですからいいとしましょう」
「さすがはお姉さまです!!」
レティシアが言い終わると同時にヴェルティアがサインを行った。
「これでお二人の婚約が
レティシアが満面の笑みを浮かべて言い放った。
こうしてシルヴィスとヴェルティアの恋人期間はわずか十分ほどで終わりを告げ婚約者の関係となったのであった。
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