第231話 急転①
「ぐ……はぁ……はぁ……」
ディアンリアは蹲りながら一つの方角を睨みつけた。その方向とはヴェルティア達のいる方向、別の言い方をすれば自分が吹き飛んできた方向だ。
「……勝てない」
ディアンリアの口から発せられた言葉は傲岸不遜なものではなく弱々しいものであった。
「あんな……化け物が……存在していいわけない」
ディアンリアの脳裏にヴェルティアという陽気な超越者の姿が浮かぶとブルリと身を震わせた。
「やつの強さに限界はあるのか……?」
ディアンリアは何とか立ち上がった。既に再生能力のためにヴェルティアに吹き飛ばされた際のダメージの修復は終わっている。しかし、その動きが重傷者のそれであるのは心が折れかけているからに他ならない。
「おっ!!いましたね!!」
ディアンリアはかけられた元気な声にビクリと身を震わせて恐る恐る振り向いた。そこには当然というべきかヴェルティア達がいた。
「貴様ら……」
ディアンリアはヴェルティア達を睨みつけるがその視線には明らかに恐怖の感情が浮かんでいる。
「あらら、もうやる気がなくなっているみたいですね」
ヴェルティアの拍子抜けしたような声はディアンリアの精神を抉りに抉る。その様子を見ていたディアーネとユリはディアンリアにやや同情的な視線を向けていた。それもまたディアンリアにとって屈辱というものだろう。
「ディアンリアは嫌いですけど……私ちょっと彼女に同情してます」
「奇遇だな。私もだよ。ヴェスランカ王国の方々もこんな表情をしてたんだろうなと思うと……何というか不憫だよ」
ディアーネ達の会話はもちろんディアンリアの心情を慰めるためのものではない。敵からの同情など気位の高いディアンリアからすれば屈辱の極みというものだろう。
「さ〜て、決着をつけましょう」
ヴェルティアの言葉にディアンリアはゴクリと喉を鳴らすと唇を噛み締めてヴェルティアへと切り掛かってきた。ヴェルティアにここまで圧倒的に叩きのめされて心が折れかけているという状況でまだ向かっていけるというのはディアンリアの心の強さと言えるのかもしれない。
「くそっ!!」
ディアンリアは毒づくと同時に折れた剣をヴェルティアへと投げつけた。ヴェルティアは投げつけられた剣を避けるのではなくそのまま突っ込む。
ガン!!
投げられた剣がヴェルティアの顔面にぶつかるがヴェルティアは構わず突っ込んでくる。
「な、何!?」
もはや何度目かになるかの驚きがディアンリアから発せられた。避ける、手で払い除けるという行動をとると思っていたのに、ヴェルティアは魔力を身に纏って受けるというあり得ない行動を取ったのだ。
もちろんヴェルティアはディアンリアの投げた剣が自分を傷つけるレベルの攻撃ではないと即座に判断して選択した行動であった。その行動がディアンリアを動揺させると判断した故に行ったのである。
「てぇい!!」
ヴェルティアの左拳がディアンリアの左脇腹に突き刺さった。
ゴギギィ!!
肋骨の砕ける音が周囲に響いたが、その音が響いた時間は短い。その代わりにヴェルティアの次なる攻撃が放たれた。
バギィ!!
ヴェルティアの右拳がディアンリアの顔面にまともに入るとそのまま怒涛の連撃がディアンリアへと放たれた。
ドゴォ!! ガギィ!! ガゴォ!!
立て続けに放たれたヴェルティアの連撃は止むことなくディアンリアを打ち付けていく。ディアンリアに再生能力がなければ最初の数発でディアンリアの命は失われていたことは間違いないだろう。
(い、いつまで続くの!? と、止まらない……)
ディアンリアは絶え間なく放たれる連撃の前になす術なく防御を固めるしかできない。だが、それは単に敗北を先延ばしにするだけではなく苦痛を受ける時間が長引くことを意味している。
(ヴォ、ヴォルゼイス様……お助けください!!)
ドゴォォォ!!
ヴェルティアの膝蹴りがディアンリアの左脇腹にまともに入る。既に最初の一撃で砕けた肋骨は既に修復している。しかし、その後の連撃により骨折と修復を繰り返しているという状況なのだ。
バギィィぃぃ!!
そこにヴェルティアの右拳がディアンリアの顔面へと放たれるとディアンリアは吹き飛び壁を突き破っていった。
(こ、殺される!!)
ディアンリアはついに死の恐怖に囚われることになった。ヴェルティアの終わりのない連撃はディアンリアの心をへし折ったのだ。
「ひ……ヒィ!! ヴォルゼイス様!! お助けください!!」
ディアンリアは脱兎のごとく逃げ出した。
「え?」
ディアンリアが逃亡したことに驚いたのはヴェルティアである。流石にヴェルティアも再生能力があるディアンリアが逃げ出すことをこの段階では想定していなかったのだ。
「逃げていく方向……シルヴィス達の戦っていところですね。二人とも追いますよ!!」
ヴェルティアがディアンリアを追うために走り出し、ディアーネ達が続いた。
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