第230話 神魔大戦 ~超越者達④~

 シルヴィスとヴォルゼイスは互いの隙を窺いながら少しずつ間合いを詰めていく。


 両者は音を発することなく互いの間合いをジリジリと詰めていっているのだ。


(隙は……やめよう。こいつが隙なんか見せるわけない。この最後の攻撃をに当てることだけだ)


 シルヴィスはいつものように隙を探していることに心の中で自嘲した。ヴォルゼイスのような実力者が探して見つけるような隙などあるわけがない。ないものを探しても仕方がない。そしてないなら力技でいくしかないとシルヴィスは切り替えた。


(彼の攻撃は今までの私に向けられたものの中で最も強大、かつ凶悪なものだ。それぞ捌ければ私の勝ち……捌けないのなら……彼の勝ち。非常に単純だな)


 一方でヴォルゼイスもシルヴィスとの最後の攻防についてそう判断していた。そして限りない高揚がヴォルゼイスの心身に満ちている。


(これほどの充足感を与えてくれることを私は誰に感謝すればいいのだろうな)


 ヴォルゼイスは心の中で自嘲する。絶対神という立場であるヴォルゼイスにとって、何者にも縋ることはできない。今まで自分の命を脅かし、命を互いに晒すという戦いを経験していないヴォルゼイスにとって勝利を祈る必要はなかったゆえである。


 両者の間の空気は張り詰めていき、それを示すように音が消えていく。


 ドゴォォォォ!!


 その時、宮城きゅうじょうのどこかが崩れ去る音が響いてくる。


(ヴェルティアの方も勝負がつきそうだな。あいつが負けるなんてありえないし……俺が負けるわけにはいかんな)


 シルヴィスは心の中でヴェルティアの表情を思い浮かべた。脳裏に浮かんだヴェルティアの表情は笑顔である。シルヴィスとすればもし自分が敗れればヴェルティアの笑顔が曇るということを理屈抜きに確信していた。


(こんな時にあいつの顔が思い浮かぶということは……やっぱり、そういうことなんだろうな)


 シルヴィスはこの命のやりとりの真っ最中、しかもヴォルゼイスという勝てると確信を持つことができない相手に関わらず戦いと関係のないことを思い浮かべるなどキーファ亡き後のシルヴィスにはなかったことだ。


(この戦いが終わったら……伝える・・・とするか)


 シルヴィスはそう決断すると不思議と緊張が解けていく。しかし、決して油断ではない。シルヴィスはこの時、かつてないほどの集中力が高まっている。


(あ……勝った・・・


 シルヴィスはこの時自然に勝利を確信した。


 自分がどうすれば良いのか。本当に自然にそう思えたのだ。


 シルヴィスがヴォルゼイスの間合いに入った。


(あ……これは……)


 ヴォルゼイスは放たれたシルヴィスの正拳突きを捌こうと両腕で流す……ことができなかった。


 どんなに強い力でも横から力を加えれば弱い力でも逸らすことはできる。だが、シルヴィスの放った正拳突きはそのような常識など無視したものだ。


 ガシャァァン!!


 シルヴィスの拳が神壁ギーレンスをまるでのように打ち砕くとヴォルゼイスの胸部に直撃する。


「ぐ……」


 ヴォルゼイスの口から苦痛の声が漏れる。


 ドォン!!ギィィン!!


 シルヴィスは胸部にめり込んだ正拳突き、続いて魔矢マジックアローで追撃を行った。前面の神壁ギーレンスを突き破ったが背面の神壁ギーレンスを破ることができなかった。

 これは正拳突きは魔族の力、魔矢マジックアローは神の力であったことを意味している。だが、魔矢マジックアローが神の力であったことで神壁ギーレンスを破ることができず逆にヴォルゼイスの内部に魔矢が残り、ヴォルゼイスの体内で大きなダメージを与えることになったのだ。


 ドサッ!!


 ヴォルゼイスは両膝をつくとそのまま倒れ込んだ。


「すごいな……」


 ヴォルゼイスの口から発せられたのはシルヴィスへの称賛であった。


「今の一撃……どうやったのだ?」

「正直……わからない。ただ入るという確信があった」

「……そうか。ふ……楽しかったよ」

「俺もだ。なぜ勝てたか俺自身にもわからない相手はあんたが初めてだよ。それにあの正拳突き……次もあのレベルの打撃が放てるとは思えんな」

「狙ってやったわけではないということか……だからこそ、私の反応が遅れた……いや、違うなそういう小手先のものではないな。あの一撃はそういうものではない……君の勝ちだ」

「ああ、これで落とし前はついた」


 シルヴィスの言葉にヴォルゼイスの小さな笑みがこぼれた。

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