第229話 神魔大戦 ~超越者達③~

神魔大戦 〜超越者達③〜


 シルヴィスとヴォルゼイスは互いに間合いに入るとその持てる技術の全てを解放した。


 その凄まじい戦いの余波は宮城きゅうじょうのみならず、天界全土を崩壊させるのではと思われるほどのものである。


 シルヴィスの放った拳の一撃をヴォルゼイスは捌くがその放たれたエネルギーはそのまま周囲の壁を破壊する。


 ヴォルゼイスの放った雷撃をシルヴィスが躱すとそのまま軌道上にあるものを薙ぎ払う。


 両者の戦いは一進一退を繰り返し、周囲の被害が次々と加算されていく。


 キィィィン!!


 何度目かの技の応酬の最中、シルヴィスの右手に握られていた虎の爪カランシャが根本からポッキリと折れ飛んだ。シルヴィスの虎の爪カランシャはオリハルコン製であるが、シルヴィスとヴォルゼイスの戦いに耐え切ることができなかったのだ。


「あらら、折れてしまったね」

「形あるものはいつか滅びるものさ」

「……同感だ」


 シルヴィスの返答にヴォルゼイスは一拍おいて静かに言う。


 その間にもシルヴィスとヴォルゼイスは凄まじい戦いを中断させるようなことはしない。


 激しく撃ち合い、魔術を行使し、相手に少しでもダメージを与えるために視線、フェイントで誘導し互いにこの戦いを続けているのである。


 シルヴィスとヴォルゼイスの放った右拳同士が同時に互いの顔面に入るとそのまま両者は吹き飛び、壁を突き破った。


「ほらよ!!」


 シルヴィスは両手に魔力を集中すると黒禍狂雷レゼンヴォルクを放った。この術は師キーファの得意としていた術であり、黒い雷を放つというものだ。


(これは……躱せない……防御しきれん……)


 ヴォルゼイスは一瞬にも満たない時間でそう判断すると天火滅衝ザールデンを放った。巨大な炎を球形に形成して放つという魔術だ。


 黒い雷と巨大な炎が両者の間で衝突した。


「ち……やはり、押されるか」


 ヴォルゼイスはシルヴィスの黒禍狂雷レゼンヴォルクの威力が上回っていることを察するとギリッと噛み締めた。


 ドパァァァァン!!


「な……何?」


 ヴォルゼイスが驚愕したのは、両者の間にぶつかっていた二つの魔術を一本の魔矢マジックアローが貫いてきたからだ。


 放たれた魔矢マジックアローはヴォルゼイスを守る神壁ギーレンスにより弾かれた。


 だが、魔矢マジックアローはただの露払いであったことが次のシルヴィスの一手で示された。

 二つの魔術がぶつかる力場を魔矢マジックアローが打ち抜き、そのスペースをシルヴィスが通って現れたのだ。


「正気か!?」


 ヴォルゼイスがシルヴィスのあり得ない行動を見て咄嗟に出た行動がこれである。いくら魔矢マジックアローで力場に穴を開けたとはいえ、二つの魔術がぶつかる力場を通り抜けて現れれば無傷で済むわけはない。


 ガシャァァァ!!


 シルヴィスの右拳が神壁ギーレンスを打ち砕いたところで、そのまま神の力を込めてヴォルゼイスの胸部を殴りつけた。


 ゴギィィィ!!


 シルヴィスの右拳がヴォルゼイスの胸骨を打ち砕いた。


「ぐ……がぁ!!」


 ヴォルゼイスは苦痛に表情を歪めたが、ヴォルゼイスは右肘でシルヴィスの左肋骨を打ち付けた。


 ビギィィィ!!


「く……」


 今度はシルヴィスの口から苦痛を告げる声が発せられた。互いに放った一撃が綺麗に入ったことで両者は互いに吹き飛んだ。


(くそ……まさか反撃があるとはな)


 シルヴィスはヴォルゼイスの予定外の反撃に口元を歪めた。決して油断していたわけではない。二つの魔術の激突する力場をそのまま通り抜けるという手段は、ヴォルゼイスの想定を上回るために必要なことだったのだ。実際にこの奇襲は上手くいきシルヴィスの一撃がヴォルゼイスの胸骨を打ち砕いた。


 シルヴィスの想定ではこの一撃により勝利を確定させるはずであったが、右肘の一撃により勝敗はまだ決することはできなかったのだ。


(だが……これでお互いに先ほどまでように動き回ることはできない……)


 シルヴィスの判断は間違いではない。両者はここまでの戦いでほとんど余力が残ってい無いのだ。


「ふぅ……まさかここまでやってくれるとはね」


 ヴォルゼイスは満足した・・・・ように言葉をかけてきた。


「次で最後になるな」

「そうだね。ここまで楽しい戦いは初めてだ。叶うならもっと続けたいんだけど。君も私も限界が近いみたいだね」

「ああ、次の俺の技は……俺の最も得意とする技だ」

「ほう……」


 シルヴィスの言葉にヴォルゼイスは興味深いという視線を向けてきた。


「俺の師匠は俺にまず二つのことを教えてくれた」

「二つ……それは?」

「一つは魔矢マジックアロー。全ての魔術による攻撃の基礎であるということで教えてくれた。さっき放った魔矢マジックアローがそれだ」

「……もう一つは?」

「中段正拳突き」

「確かに基本だな」

「お師匠様はこの二つを徹底的に磨けと言った。それはこの二つこそが極めるのが最も難しい・・・からだ」

「どう言うことかな?」

「お師匠様が言うには、この二つを初めに教えるのは一番長く・・・・練習するためということだ」

「そうか……つまり君はその二つを磨き続けてきたというわけか。そして、切り札にするまでに高めたというわけか」

「半分当たりだ。俺のこの技はまだ完成していない。だが、今なら決め技として機能する」

「つまり……互いに余力がなく。真正面からいくしかない状況でないと決まらないということか?」


 ヴォルゼイスの言葉にシルヴィスは頷いた。


「そういうことだ。もし……」


 シルヴィスの言葉をヴォルゼイスは片手を上げて制止すると楽しそうな表情でシルヴィスに言う。


「心配するな。その先は言わなくても良いよ。この後に及んで尊な無粋な真似はしないよ」

「ほう、ようやくあんたのことを見直したよ」

「嬉しいね」


 シルヴィスはそう言うと構えをとった。それは純粋な中段正拳突きの構えである。

 

「ならばこちらも応えるしかないな」


 ヴォルゼイスは両手を前に掲げて構えた。


 両者の間の空気が張り詰めていく。次に動く時が決着の時であることを両者ともわかっている以上、下手に動くことができない。


 決着は近い。


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