第228話 神魔大戦 ~超越者達②~

(さて……ヴォルゼイスは何かやってるのは確かだ。普通に考えれば防御陣を張ってるんだろうが、攻撃が通るやつと通らないやつがあるのが気になるな)


 シルヴィスは自分の攻撃のうち、入るものと入らないものの違いが何かを考える。


(あっちも不思議だろうな。防御陣で完全に遮断している攻撃と防ぎきれないものがあるんだからな)


 シルヴィスの考察通り、ヴォルゼイスも遮断しているものとしきれないものの違いが何かを考えているのである。


 シルヴィスは虎の爪カランシャに魔力を込めると攻撃に動く。間合いに入ると同時に屈むと水面蹴りを放つ。


 ヴォルゼイスは水面蹴りを跳躍して躱す。その跳躍途中で前蹴りを放った。ヴォルゼイスのつま先がシルヴィスの人中(人の顔面にある急所)へ入る寸前にシルヴィスは左手で蹴りを受けると同時に立ち上がり、その勢いのまま虎の爪カランシャの斬撃をヴォルゼイスの首めがけて放った。


 ガギィィ!!


 しかし、またも虎の爪カランシャの一撃はヴォルゼイスの喉の寸前の空間で止められた。


(これは想定内……)


 シルヴィスは先ほど虎の爪カランシャの一撃が防がれたことから、この一撃も通らないことを想定していたのだ。

 シルヴィスは既に次の一手を打っていた。その一手とは左拳であった。音を置き去りしたかのような凶悪な一撃がヴォルゼイスの胸部へ放たれた。


 ドゴォ!!


 シルヴィスの左拳をヴォルゼイスは両腕を交差して防いだが、シルヴィスの左拳の威力の全てを受け切ることはできずに飛ばされてしまう。三メートルほどの距離を飛んでヴォルゼイスは着地した。


(右の攻撃は効かない……いや問答無用で防がれる。だが左の攻撃は通る……というわけか?)


 シルヴィスが気づいたこの事実に流石に戸惑わざるを得ない。事実の把握はできたが、それがどうしてその結果に至っているのかはわかっていないのだ。


(シルヴィスの……右の攻撃は神壁ギーレンスにより無効化できているが左の攻撃は無効化できていない……シルヴィス、お前は神の子孫というだけではない・・・・・・ということか……)


 一方でヴォルゼイスは神壁ギーレンスという情報を持っていることからシルヴィスの右半身は神の力、左半身は別の力であることを察していた。


(今、シルヴィスは情報の整理中というわけだな……この機を逃す必要はないな)


 ヴォルゼイスは攻撃すべきと判断すると即座に動いた。ヴォルゼイスは左拳を放つとシルヴィスは腕を添えて軌道をずらす。しかし、ヴォルゼイスは添えられた腕を掴み上げた。ヴォルゼイスは間髪入れずに右拳を腹部に放つ。その右拳をシルヴィスは一撃目同様に捌いた。


(よし……)


 シルヴィスは第二撃めを捌いたところで反撃をしようとした瞬間に捕まれた右腕に攻撃の意思を感じ取った。具体的に言えば掴んだ右腕を起点に崩しを行われ、投げ飛ばされそうになったのだ。

 その意思を感じ取った以上、シルヴィスはほぼ無意識にその攻撃へと対処をするために意識をそちらに向けた。それは一瞬にも満たない時間であったが、このレベルの戦いになれば致命的な隙であった。


 ヴォルゼイスはシルヴィスの意識が捕まれた腕に向かった瞬間に踏み込むと肘をシルヴィスの鳩尾みぞおちへと放った。


 ドゴォォォ!!


「が……っ!!」


 シルヴィスの口から苦痛の声が発せられた。シルヴィスは瞬間的に身を捩り、鳩尾に肘が入ることはかろうじて避けることができたが、胸にまともに食らってしまい胸骨が砕けてしまったのだ。


 ヴォルゼイスはそのままシルヴィスの掴んだ腕を起点に重心を崩すとシルヴィスを投げ飛ばした。


「ぐ……」


 シルヴィスはまたも辛うじて受け身を取ることができたが、ダメージがないというわけではない。


 ヴォルゼイスは片足を上げてシルヴィスの頭を踏みに行く。


 シルヴィスはこの一撃をなんとか首を捩って躱し、その勢いのまま回転すると蹴りをヴォルゼイスの左コメカミを襲う。ヴォルゼイスは掴んだ手を離すと同時に後ろに跳んだ。


「どうやら君は神の血だけが顕現したわけではないのだな」

「何?」

「君の右半身の攻撃は神族の力が宿っているが、左半身には神族以外の力が宿っているようだな」

「……」

「私は神壁ギーレンスという防御陣を常時展開していてね。神の力を一才排除するというものだ」

(ブラフ……? この情報は自分の有利さを失わせるものだ……それを俺に告げる利点はなんだ?)


 ヴォルゼイスの言葉にシルヴィスは訝しんだ。ヴォルゼイスの告げる情報は自分の有利さを失わせるものであり、シルヴィスとしてはその意図を考えざるを得ないのだ。


「まぁ、あんたの期待に応えてみせるよ」

「ん?」

「こういうことだ」


 シルヴィスは虎の爪カランシャに魔力を込めて斬りかかった。


 シルヴィスは右手に握った虎の爪カランシャの斬撃はヴォルゼイスの神壁ギーレンスに阻まれて通らないはずであった。


 しかし、ヴォルゼイスは棒立ちではなく後ろに跳んで躱したのだ。


「ほう……さすがだな。与えた情報で即座に対応してくるとは恐れ入ったよ」


 ヴォルゼイスは首筋に走る一筋の傷が神壁ギーレンスを破ったことを物語っていた。もし躱さなければヴォルゼイスの首は斬り飛ばされたことだろう。


「どうやったのかな?」

「本来は黙っておくのだが、あんたの告げてくれた情報のお礼に教えてやるよ」

「それは嬉しいね」

「意識してなかったが、俺の右半身は神の血、左半身は魔族の血が顕現したんだろうな。だが、俺は別にこの力に振り回されているわけじゃない」

「ほう」

「俺に宿る力は祝福ギフトとかのように他人に与えられたものじゃない。もとより俺自身・・の力だ。なら俺は自由に扱える」

「君は自分の力を使いこなしているのだな」

「ああ、そうなれば魔族の力であんたの神壁ギーレンスを破ったところで神の力で攻撃したんだよ」

「……すごいな。君の攻撃は凄まじい速度、神壁ギーレンスを破った瞬間に切り替えるか……言葉にすれば簡単だがそんなことができるとは本当にすごいよ。尊敬の念すら覚えるね」

「ヴォルゼイス……何となくだがあんたの目的がわかってきた」

「そうか……」

「あんたの掌の上で転がっている感じはする。だが……」


 シルヴィスはここで一旦、言葉を切る。


「俺はあんたを斃す」

「そうこなくてはな」


 ヴォルゼイスの放たれる魔力が桁違いに上がり大気が震え玉座の間の壁が悲鳴を上げて崩れ始める。


「すごいな……こちらも応えることにするか」


 シルヴィスはそう言い放つと頬にまで紋様が浮かび上がった。紋様が浮かび上がったシルヴィスの魔力も桁違いに跳ね上がった。


「さぁ、お互いに準備は終わった。やろうか」

「ああ」


 シルヴィスとヴォルゼイスは同時に動いた。

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