第226話 神魔大戦 ~ディアンリアの受難③~

 ヴェルティアは迷わずディアンリアへと突っ込んでいく。ディアンリアの両側にディアーネ、ユリがついた。


 この世の中で最高レベルの美しさと破壊力を兼ね備えた凶悪極まるカルテットである。


 ディアンリアもまたヴェルティア達へと突っ込んでいく。その速力は先ほどとは桁違いに上がっているのは確実であった。


「死ねぇぇぇえ!!」


 ディアンリアの発した掛け声は素直な心情を示したものである。振り下ろされる斬撃をヴェルティアはあり得ない速度で横に避けて躱した。


 躱された斬撃の軌道上はざっくりと切れ目が入り、ディアンリアの斬撃の凄まじさがわかる。


「はぁぁぁ!!」


 ディアーネが斧槍ハルバートを振りかぶるとそのまま凄まじい速度で横薙ぎを放った。


(は? バカかこいつは?)


 ディアンリアがそう思ったのも無理はない。なぜなら斧槍ハルバートの軌道上にはヴェルティアがいるのである。ヴェルティアを薙ぎ倒さない限りディアーネの斧槍ハルバートがディアンリアに達するのは不可能な立ち位置だったのだ。

 

「な……」


 しかし、次にディアンリアの口から発せられた言葉は驚きを示すものであった。ヴェルティアが斧槍ハルバートが当たる瞬間に屈んだのだ。ヴェルティアの立ち位置からはディアーネの斧槍ハルバートが見えないはずなのにヴェルティアはその一撃を躱したのである。


 キィィィン!!


 ディアンリアは斧槍ハルバートの一撃を剣で辛うじて受けた。ヴェルティアが突如躱したことで受け流すことができなかったのだ。


「てぇい!!」


 ドゴォ!!


 しかし、次の瞬間に屈んだヴェルティアは逆立ち蹴りを放っており、ディアンリアの腹部へとまともに入った。


「が……」


 ディアンリアの腹部にあり得ない衝撃が発すると苦痛の声が漏れる。


 ディアンリアの体が浮き上がったところに背後に回り込んだユリがディアンリアの延髄を斬り裂いた。


 バシュウウウウウ!!


 延髄を斬り裂かれたディアンリアはそのまま地面に転がった。


 延髄を斬り裂かれたディアンリアであったが、即座に再生能力が展開されたのであろう。即座に立ち上がった。


 だが、再生能力があり立ち上がってくることを想定していたヴェルティアは立ち上がった瞬間に飛び蹴りを放っており、ディアンリアの顔面にまともに入ると、ディアンリアは吹っ飛んで行き、またもや壁にぶち当たった。


「お嬢、吹き飛ばさないでくれよ。仕切り直しになっちゃうよ」

「ええ、もう少し加減してください」

「うう、思ったよりも力が入ってしまいました。私としたことがこのようなミスをするなんて……」


 ヴェルティアの反応にディアーネ達はニンマリと笑う。


「まぁ、愛しいシルヴィス様のカッコ良いところ見たいからって焦るのはいけないことだと思うよ」

「そうですね。シルヴィス様の応援に行くとか言ってましたけど、助太刀ではなく文字通り、観戦に行きたいんですよね。だからこそ、もう少し上手くやってください」

「う〜わかってますよぉ……」


 ヴェルティアの声のトーンが下がってしまう。ヴェルティアは説教を素直に聞いていると思っているのだが、シルヴィスへの想いが溢れてしまっているだけだということに気づいていない。


(しかし、お嬢が恋愛感情を自覚するどころか口に出すなんてねぇ)

(そうね、まぁ時間の問題だったし、それが今になったというだけじゃないの)

(だなぁ、あとはシルヴィス様だな)

(まぁ、あっちもヴェルティア様が好きなのは丸わかりだから、ヴェルティア様が好きですといえば答えてくれると思いますよ。まぁ、切り札・・・は持ってますし大丈夫でしょう)


 ディアーネとユリはそう囁きあった。元々互いに好意を持っていたのだからちょっとしたきっかけで関係性が変わるなんて驚くべきことではない。ある意味先ほどの三択問題はヴェルティアの分水嶺であったのだろう。


「くらえ!!」


 ディアンリアが立ち上がると同時に巨大な雷撃を放った。おそらく数百億ボルトのとてつもないエネルギーであり、まとも直撃、いや余波でも間違いなく消し飛んでしまうレベルの雷撃である。


 ディアーネが防御陣を張るよりも早くヴェルティアが動く。両手に魔力を集め、圧縮してディアンリアへと放った。

 

 ヴェルティアの魔力とディアンリアの雷撃がまともにぶつかった。


 ヴェルティアの放った魔力はディアンリアの雷撃をあっさりと突き破るとそのままディアンリアの左腕を消し飛ばした。


「ぎゃあああああああああ!!」


 左腕を消し飛ばされたディアンリアは絶叫を放つ。


 ディアンリアの消し飛ばされた左腕は再生したがディアンリアの表情は困惑、混乱、恐怖、焦り、怒りという戦いにおいてマイナスとなる要因が浮かんでいた。


「な、なぜ……今の私はパワーもスピードも魔力もお前を上回っている!! それなのになぜここまで一方的に!! こんなことがあっていいわけがない!!」


 ディアンリアは理不尽さを呪うかのように堰をきったかのように言葉を吐き出していく。


「簡単なことです!! 単純にあなたが私よりも弱いからです!!」


 ヴェルティアはビシッとディアンリアを指差して言い放った。


 ヴェルティアの言葉にディアンリアはあきらかに狼狽えた。


「ふふ、納得できないようですから教えてあげましょう!! 確かにあなたはパワー、スピード、魔力は私よりも上かも知れません。ですが、技術がまったく備わっていないのです!!」

「な、なんですって?」

「はっはっはっ!! 残念でしょうけど事実なんです!! まずは自分の未熟さと真剣に向き合ってそこから努力するのです!! そうすることによって今の自分よりも成長できます!!」

「ふ、ふざけるな!!」


 ヴェルティアの言葉にディアンリアの怒りは爆発した。ただでさえヴェルティアに一方的にやられてプライドがズタズタなのにそこにヴェルティアの説教である。神の高い気位がなくても敵にここまで言われれば怒りが爆発するのも当然である。


「ん? 何だかディアンリアさん怒ってますね? どうしたんでしょうか……精神的に参ってるんでしょうか? 心配ですねぇ〜でも大丈夫です!! 落ち着いて心を強く持ってください!!」

「そうです!! ディアンリア!!あなたならできます!!」

「そうだよ!! お嬢のいう通りだ。コンプレックスも自分を高めるための大事な力になる!!」


 ヴェルティアは本心から疑問を呈しているのだが、ディアーネ達の方は完全におちょくっている。特にディアーネに至ってはディアンリアを様呼びしているくらいである。


「おのれぇぇぇぇ!!」


 ディアンリアは雄叫びをあげて突っ込んできた。怒りのためにもはや駆け引きもなにも行える精神状態ではない。いかに身体能力でヴェルティア達を上回っていたとしてもそれで勝つことなどできるものではない。


 ディアンリアは上段から振り下ろしてきたが、その剣筋は乱れに乱れ単に剣を振り回しているに過ぎないものだ。


「よっと」


 ヴェルティアは振り下ろされた斬撃を拳と掌で打ち合わせてへし折った。折れた剣が回転して地面に落ちるのをディアンリアは呆然と見ていた。


 そしてディアーネとユリが両側から斬撃を放つ。


 ディアーネの斧槍ハルバートがディアンリアの右脇腹をユリの剣は首筋をそれぞれ斬り裂いた。


「が……」


 ディアンリアの目にヴェルティアが凶悪な拳を振りかぶっているのがうつった。


 ドゴォォォォォォ!!


 ヴェルティアの放った凄まじい威力の正拳突きがディアンリアの胸部に入ると胸骨のみならず胸椎までも砕いた。


 そしてヴェルティアの一撃はそれに留まらずディアンリアはまたもや吹き飛んでいき、壁を突き破り宮城きゅうじょうの中に消えていった。


「う〜ん、見事に決まりましたね」

「死にましたかね?」

「いや、再生能力があるから死んでないと思うよ」

「確かに死んでないでしょうからディアンリアさんに止めを刺すとしましょう」

「そうですね」


 ディアーネがそう答えるとヴェルティアはニッコリと頷き一歩踏み出した。


「あ……シルヴィスの方も決着がつきそうですね」


 ヴェルティアはシルヴィスとヴォルゼイスの激しい戦いの気配が一旦収まり緊張感が高まっているのを察したのである。


 決着が近い。ヴェルティア達三人の戦いに関する嗅覚は歴戦の兵のそれである。


「急がないといけませんね!! 二人とも行きますよ!!」

「はい!!」

「了解!!」


 ヴェルティアがディアンリアに向かって駆け出し、ディアーネとユリはそれに続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る