第225話 神魔大戦 ~ディアンリアの受難②~

「舐めるなぁぁ!!」


 ディアンリアはよほどヴェルティアの態度が気に入らなかったのだろう。ついに激昂すると手にした剣に魔力を込めるとそのまま上段から降り下ろした。


 放たれた斬撃がヴェルティアへと超高速で迫るがヴェルティアはその飛ばされた斬撃へ正拳突きを放った。


 ゴゴォォ!!


 ヴェルティアの正拳突きの衝撃波とディアンリアの飛ばした斬撃が空中でぶつかると互いに消滅した。


「おお!! やりますねぇ!! 面白くなってきました!!」


 ヴェルティアは満面の笑みを崩すことなくディアンリアへと猛然と襲いかかった。


 ディアンリアの首薙ぎの斬撃が放たれるがヴェルティアはここで常識を無視した迎撃をとった。


 ガン!!


 その迎撃方法は下から拳で剣の横腹を殴るというものであった。


「なっ!!」


 ディアンリアの口から驚きの声が上がった。ディアンリアの斬撃は決して遅くない。いや超高速と称しても良いほどの斬撃であった。しかし、ヴェルティアはその超高速の斬撃を待ち受けていたわけでもなく、突進しながらかち上げたのだ。


「はっはっはっ!! さぁ行きます!!」


 ヴェルティアの拳がディアンリアの腹部へ向かって放たれた。


 ドゴォォ!!


「が……」


 ヴェルティアの容赦ない一撃がディアンリアの腹部に吸い込まれた。


 ディアンリアは何とか倒れ込むことを耐えると上段から斬撃を振り下ろした。


 キィィィィン!!


 しかし、その斬撃はディアーネの斧槍ハルバートによって阻まれた。同時にユリがディアンリアの左側に回り込んで斬り込んできた。


 ユリの斬撃をディアンリアは盾で受けることに成功するが、この瞬間、ディアンリアの両手はディアーネとユリの対処のために塞がってしまった。


 その瞬間を見逃すようなヴェルティアではもちろんない。ヴェルティアはディアンリアの間合いに飛び込むと双掌打を腹部へと叩き込んだ。


 ドゴォォォォ!!


 ヴェルティアの一撃にディアンリアは吹き飛ぶと壁に叩きつけられ地面に崩れ落ちた。


「二人とも助かりましたよ。本当にナイスアシストというやつです!!」

「まぁ、流石に今のディアンリア相手に……いくらお嬢でもと思ったんだけど……」

「ええ、ディアンリアの力が急激に上がりましたので……と思いましたけど……ねぇ?」


 ヴェルティアのお礼に対して、ディアーネとユリの反応は微妙なものであった。ディアンリアの力の高まりは実際に凄まじいものであったのだが、ヴェルティアはそれすら完全に上回っていたのである。


「いや〜さすがは私の友ですねぇ〜ここまで私のために命の危険を顧みずに動いてくれるなんて本当に素晴らしいです!!」


 ヴェルティアは痛く感動しているのだが、二人にしてみれば過分な賛辞というものである。


「おのれ……」


 ディアンリアは剣を杖にして立ち上がっていた。その目には怒りの炎が渦巻いている。


「あれ? どうも再生が遅いですね。どうしたんですか?」


 ヴェルティアの問いかけにディアンリアは屈辱のために顔を大きく歪めた。もちろんディアンリアの再生能力は健在であり、再生しているのであるが、それでもヴェルティアの双掌打はディアンリアの内部を破壊し続けて・・・・・・いるのである。そのために再生能力による回復が遅いのだ。


「お嬢……何やったの?」

「え?ただ単に魔力の塊を体の内部に浸透させただけですよ。ひょっとしたらその魔力が体の中で暴れてるのかもしれませんね」

「お嬢……」

「ヴェルティア様……」


 ヴェルティアのあっけらかんとした返答に二人はため息まじりに一言発しただけだ。

 ヴェルティアはこともなげに言っているのだが、ディアンリアほどの実力者の再生能力を上回る一撃を簡単に放って、しかも継続的に内部破壊をし続けるなど弾くなという方が難しいだろう。


「お……シルヴィスの方も戦いが本格化し始めましたね。これはヴォルゼイスさんは本当に強いですねぇ」


 ヴェルティアの言葉に二人も頷いた。シルヴィスとヴォルゼイスと思われる二つの力がぶつかっているのを全員が感じていたのだ。


「ま……まさか……あの男がここまで強いとは……ヴォルゼイス様と互角ではないか……」


 ディアンリアの声に明らかな動揺が含まれている。


「シルヴィス様……強いのはわかってたけど……ここまでの強さだったんだ」

「ええ、ヴェルティア様と互角に戦っていますので想定はしてましたが、ここまでとは思いませんでした」


 ディアーネとユリの言葉には素直な感嘆があった。ヴェルティアと互角に戦ったという話であり、今までの戦いを見ていたので、強いというのはわかっていたが、想定を遥かに上回る強さを放っているのだ。


「うんうん、やはりまだあの時は本気じゃなかったんですねぇ〜これは再戦が楽しみになってきました!!」


 ヴェルティアは嬉しそうに言い放った。


「うちのお嬢も今まで本気になったことがなかったみたいだな」

「ええ、何というか……本当に非常識すぎますね」

「だな」


 ヴェルティアの言葉から自分達の主もまた実力に上があったということがわかり、ため息をつきたくなるというものであった。


「く……化け物め」


 ディアンリアの口から発せられた言葉はディアンリアの恐怖と動揺の現れであるのは間違いない。


 ディアンリアは左手を天へとかざした。するとディアンリアの頭上に巨大な魔法陣が顕現した。


「転移陣?」


 ディアーネの訝しがる言葉にヴェルティアも身構えた。


 転移陣から赤い珠が転移してくる。ディアンリアはそれらを次々と取り込んでいった。


 ディアンリアが赤い珠を取り込むたびにディアンリアから放たれる魔力が強大にそして禍々しくなっていく。


 赤い珠が転移陣から現れなくなって次に白い珠が大量に現れた。


「白い……?」


 ディアーネがボソリと呟く。赤い珠と白い珠の違いは何かと考えているのだ。


 大量に現れた白い珠もディアンリアへと吸い込まれていく。それは赤い珠よりも魔力の上昇は低いが少しずつ上がっていくのを三人は感じている。


「あ〜あれは多分祝福ギフトですね」

「え?」

祝福ギフト?」


 ヴェルティアがポンと手を叩きながら言うと二人が驚いて聞き返した。


「ディアンリアさんは祝福ギフトを人間に与えてましたよね。祝福ギフトと言うのは原石みたいなものですからそれを人間に磨かせたのを回収してるんじゃないんですかね」

祝福ギフトを回収ですか? それでは人間達は皆殺しですか?」

「あ〜それはないでしょうね」


 ヴェルティアは一言でディアーネの疑問を否定した。


「レンヤさん達から祝福ギフトを取り出したときに、レンヤさん達は命を失いませんでした。そう考えれば祝福ギフトを回収されても死ぬことはないでしょう」

「根本的に赤い珠と祝福ギフトは違うというわけですね」

「まぁそんな感じだと思いますよ。ディアンリアにとって人間は取るに足らない存在ですからねぇ。骨までしゃぶろうとまではしないと思います」

「あ〜なんか納得しました。神や天使なら皿まで意地汚く舐めてまで食するけど、人間はご馳走じゃないからそこまでしないというわけか」

「まぁ、そんな感じじゃないですかねぇ〜それとディアンリアさんは人間を見下してますけど人間がいなければ実は困るんだと思いますよ」

「というと?」

祝福ギフトを与えて、死ねば回収してディアンリアさんは力をつけた神だと思うんですよ。人間に祝福ギフトを与えてそれを磨かせる。その磨かれた祝福ギフトを回収して自分の力にしたわけですから、人間は必要不可欠なんですよ」

「え〜それって何かタチの悪い貴族みたいだね。領民がいないと自分達が困るのに妙に威張ってるってやつ」

「本当にそうですねぇ〜」


 ヴェルティアの言葉に二人は重々しく頷いた。


「おのれら……どこまで私を侮辱すれば気が済むのだ!!」


 ディアンリアは凄まじいばかりの魔力を放出すると背面の壁が崩れ落ちた。


「お嬢……汚い手だけど三人で戦おう」

「ええ、私もユリの意見に賛同します」

「え? 何を当たり前のことを言ってるんです? 三人で戦うなんて当たり前じゃないですか」


 ヴェルティアはさも当然という体で二人に答える。あまりにも堂々と答えたので逆にディアーネ達が戸惑ったくらいである。


「さて、問題です!!」


 二人の反応を見たヴェルティアが人差し指を立てて二人に言い放った。


「なぜ一人・・で戦っても勝つ自信のある私が三人で戦おうと決断したのか?」

「え?」

「え〜と……」

「三択です!! 一!!時間節約のため!! 二!!ディアーネとユリと一緒に戦いたいから!! 三!!シルヴィスの応援に向かうためので余力を残すため!!」

「え〜と……」

「答えはもちろん……全部!!」


 ヴェルティアの答えに二人は自然と笑みが溢れた。


「というわけでさっさと片付けてしまいますよ!!」

「はいはい」

「シルヴィス様の応援ですか? というよりもシルヴィス様のカッコ良いところを見たいというヴェルティア様のお気持ちを尊重いたしますね」

「あ〜そういうことか」


 ディアーネとユリの反応にヴェルティアは少しテレた様子を見せるが否定しない。


そういうこと・・・・・・です!! 行きますよ!!」

「はい!!」

「お嬢の恋路を邪魔する以上、消えてもらうよ」


 ヴェルティア達はディアンリアへ猛然と襲い掛かった。

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