第221話 神魔大戦 ~暁星②~
膝をついたシオルにキラトは警戒を解いていなかった。それを見たシオルは苦笑を浮かべて口を開く。
「俺の負けだ……」
シオルの言葉を聞いたキラトはこの段階で警戒を解いた。
「それじゃあ、お前の部下達に戦闘停止を宣言してもらおう。さもなければ最後まで戦わなければならない」
「わかった……」
キラトの言葉にシオルは立ち上がった。しかし、神剣ヴァルジオスは再び光の刀身を伸ばすことはない。
「そこまでだ!! 戦いをやめよ!!」
シオルの言葉に部下達が次々と戦いの中止を告げていく。その声が広がるにつき、キラトとシオルの両麾下の軍の戦いは急速に収束していった。
「シ、シオル様!!」
「おのれぇ!!」
シオルの部下達のうち前線から戻ってきた諸将がシオルの状況を見て、キラトへ襲い掛かろうとした。
「待て……そこまでだ」
「し、しかし!!」
「私は敗れた……君達が私を将と認めてくれるのであれば戦いを止めてくれ」
「は、はい」
シオルの言葉にシオルの部下達は悔しそうに返答する。シオルの命令というものあるが、シオルの
「さて……そちらも勝者の余裕を見せてもらっていいかな?」
「ああ、シオル麾下の軍はここより去るのなら追撃しない。もちろん、シオル殿も連れて行って構わない」
「感謝する……」
キラトの言葉にシオル麾下の諸将は一礼する。
「待ってくれ……」
シオルがキラトに言う。
「なんだ?」
「頼まれてくれないか?」
「ん?」
「この……剣を……
シオルはそういうと神剣ヴァルジオスをキラトへと差し出した。
「……任せておけ」
キラトはただ一言返答するとシオルから剣を受け取った。
「ありがとう……」
シオルはそう一言感謝の言葉を述べる。その表情は限りなく穏やかなものであり、部下達はシオルの死を確信した。火が消えようとした時、穏やかな熱を発するようになる。シオルの状態がまさにそれであった。
「シオル様」
「ああ、行こう……あ、そうだ。キラト」
諸将に肩を借りてシオルは立ち上がると背を向けたままキラトへ声をかける。
「俺の最後の相手がお前であることを誇りに思う。楽しかったぞ」
「俺もだ。あんたの最後の相手を務めることができて本当に良かった」
「ああ……」
キラトの言葉にシオルは短く返答するとそのまま部下達に肩を借りたままキラトの前から歩き去っていく。
キラトは渡された神剣ヴァルジオスに魔力を込めるがキラトの魔力では光の刃を形成することはできない。
「やはり……そういうことか……シオル……」
キラトは去っていくシオルの背を見ながら小さくつぶやいた。魔力を込めても刃を形成することができない武器をシルヴィスへ託すという意味をキラトは察していた。
「哀しい男だ。いや……最後の最後で本懐を遂げたと言うべきか……さらばだ」
キラトはシオルの背中に声をかけるとクルリと背を向けた。
背を向けたキラトの目には部下達がこちらに向かってきているのが見えた。
「まだ山の一つを越えたに過ぎない……か」
キラトはシオルという強敵を撃破したとはいってもこのエランスギオムでの戦いの一幕でしかないことを知っていた。
(紙一重の勝負だった……だがまだ意地を張るだけの力が残ってるのは……魔王としての矜持かな)
キラトは自分がシオルに勝てたのは魔王としての矜持があったからだと今更ながら気づく。
「どうやら……俺も魔王としての気概が備わったようだな」
キラトはこちらに駆けてくる部下達に向かって手を掲げて言う。
「気を抜くな!! 未だ天軍に勝利をおさめたわけではない!! 陣形を整えよ!!」
『はっ!!』
キラトの言葉に部下達は気を引き締めると陣形を整え始めた。
* * * * *
シオル達は戦場を大きく迂回しながら天軍の陣地へと引き上げていた。
その途中でシオルはついに力尽きて倒れ込んでしまった。
「シオル様!!」
「お前達には……世話になった」
シオルの目にはもはや部下達の顔が見えていない。
「ミ……ア……」
「え?」
「やっと……会え……た……な」
シオルの言葉に部下達は息を呑んだ。シオルが走馬灯を見ていることを察したからだ。
「ゼ……イスには……会え……な……かった……よ」
続くシオルの言葉を部下達は静かに聞いている。シオルが人間の妻を失い。いなくなった息子を探し続けていることを知っている彼らとすれば胸が締め付けられるようであった。
シオルは後悔を抱えながらその生を終えようとしている。それがいかに無念かを慮り悔しげに俯く。部下達はシオルの無念を抱えて命を終えようとしているのに何もできない無力さに歯噛みしたのだ。
「だが……聞い……てく……れ……ゼイスは……愛す……る者と幸……せに……暮らした……よう……だ」
続くシオルの言葉に部下達は驚く。
「ゼイ……スの子孫……に会ったんだ……」
部下達は互いに顔を見合わせた。シオルの言葉は嘘偽りではなく本心からのものであることを察した。もし、それが確かであればシオルはある意味、目的を達成することができた事を意味するのだ。
「ま……ちが……い……ない……彼に……宿る……か……みの……ち……からはゼイスが……あの時に放った……ものと……おな……じだった……よ」
シオルの言葉を聞きながら部下達は肩を震わせている。それはシオルが自分の目的を達成した喜びに満ちていたことを示している事は部下達にとって救われた気持ちになったからだ。
「俺達の子……は……幸せだった……んだよ……」
シオルはそういうと小さく笑う。
そして……その笑みが
シオルの笑みが消えた時、部下達はシオルが旅立ったことを悟った。
「シ、シオル様!!」
「ああああああああああああ!!」
シオルの死を察した部下達の慟哭が響いた。
天界最強と謳われるシオルガルク。
その最後はずっと探し求めていた息子の行方を嬉しそうに亡き妻に語る穏やかなものであった。
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