第222話 神魔大戦 ~竜と神①~

 ヒュンヒュン……


 レティシアは鎖を振り回し始める。鎖の速度はゆったりとしたものであるが、それは擬態にすぎない。

 隙を見せた瞬間に超高速で頭部を粉砕する一撃が放たれることがシュレンにはわかっているために迂闊に動くことはできない。


(う〜む、シュレンさん動きませんね……ならば!!)


 レティシアはシュレンが動かないことにシュレンを突っつくことにする。


 レティシアは鎖をシュレンへ向かって投擲した。


 その瞬間、シュレンはレティシアに向かって跳び込んできた。シュレンは投擲された鎖を最小限度の動きで躱しての動きである。


 キィィィィン!!


 シュレンの胴薙ぎの斬撃をレティシアは小剣で受ける。


(よし!!)


 レティシアは鎖の操作を行う。操作された鎖はシュレンの延髄へと向かう。


 鎖の分銅がシュレンの延髄に当たる瞬間にシュレンはフッと横に鎖を躱した。しかし、それはシュレンの体勢が崩れたことを意味する。


 レティシアはシュレンが体勢を一瞬で立て直すことを確信している。だからこそ、この一瞬の隙を見逃すようなことはしない。


 キィィィ……ン!!


 レティシアの小剣がシュレンの剣を弾き飛ばした。そのまま空いた空間にレティシアが入り込むと小剣の柄頭で鳩尾を狙う。


「フッ!!」


 しかし、その瞬間にシュレンの口から鉛の玉が放たれた。


 キィン!!


 レティシアは小剣で鉛玉を受けることになり、シュレンはその際に生じた一瞬の時間を利用して距離をとった。


「やりますね。まさか口に鉛玉を仕込んでいるなんて……しかも正確に私の目を狙ってきました。よくあの一瞬であんなことができるもんですね」


 レティシアの言葉にはシュレンへの称賛があった。


「戦いになればもしものために口に鉛の玉を仕込んでおくなんて常識だろ?」

「あ〜そういえばそうですね。でも絶対神の御子息だとその思考はふさわしくないとか言われるのではないですか?」

「これが試合とかルールがあるならやらないよ。でも、殺し合いであれば普通に使うだろ」


 シュレンはそう言い放った。


(本当に考え方がお義兄にい様に似てますね。勝つ技量は十分、しかし殺し合いになれば手段は選ばない)


 レティシアはそう思うとなぜか楽しくなってきた。レティシアはシルヴィスに対して恋愛感情はない。しかし、その思考は自分が負ければ大切な者達が被害を受けるのが嫌だという思考が根底にある。それはレティシアにとって尊敬に値するものであった。


「なるほど……それではシオルさんもそんな戦い方なんですか?」

「いや、お師匠様はこんな搦め手は使わないな。こんな方法を使わなくても勝てるからな」

「でもお弟子のあなたは使うんですね」

「ああ、俺のはケンカ殺法というやつでね。お師匠様には苦笑いされながら叱られたものさ」

「私はそういう戦い方するのは好きですよ」

「君の戦い方もトリッキーだからな」 

「あれ? 私の戦い方は正統派だと思いますよ」

「う〜ん、その評価は異論があると思うよ」

「う〜ん、おかしな話です」


 レティシアは意味がわからないと言わんばかりに首を捻っている。


「さて、ここからは本気で行く。小手調べはもう十分だろう?」

「そうですね。そちらのウォーミングアップも終わったみたいですので、真面目にやるとしましょう」


 両者の言葉に周囲の者達は驚きを隠せない。先ほどの二人の戦いについていける自信のあるものなどいない。それが単なる小手調べであるなど恐ろしいというほかない。


 ただヴィリスやシーラ達は涼しい顔をしているのは、レティシアの実力を知っているからであろう。


「さて……やろうか」


 シュレンは言い終わると同時に凄まじいばかりの殺気を周囲に放ち出した。


「おおぉ!! これほどの殺気を放つなんてすごいですね」


 シュレンから放たれる殺気の強さは直接向けられていない神族であっても冷や汗をかき始めたほどであるのに、直接ぶつけられているレティシアはにこやかな表情を崩していない。


(この程度ではやはり揺るがない……さすがだ)


 シュレンはレティシアに全く揺らぎがないことを心の中で称賛すると同時に動いた。


 シュン!!


 シュレンはレティシアの間合いに飛び込むと袈裟斬りを放った。


(速い!! 来る瞬間が読めてて躱すしかないなんて!!)


 レティシアはシュレンの斬撃を躱すことに成功したがゾワリとした感覚が背中を走るのを感じた。レティシアの背中に走った感覚は恐怖だけではない、歓喜も含まれていた。


 これほどの強さを持った相手に出会えた幸運に自然と笑みが浮かんだ。


 シュレンは返す刀で胴薙ぎの斬撃を放つ。レティシアは胴薙ぎの一撃を後ろに跳んで躱すと着地と同時に小剣の斬撃をシュレンの首へと放った。


 シュレンは首への斬撃を躱したところで反撃を行おうと再び間合いに飛び込もうとした瞬間である。


 レティシアの背中から鎖の一撃が飛んできていたのである。右手の小剣の斬撃によって左手を体に隠し、その死角からの鎖の一撃であった。


「くっ!!」


 シュレンは放たれた鎖を剣で弾くとレティシアはその時に生じた隙を衝く。体を沈み込ませての右太腿への斬撃であった。


 ズバッ!!


 レティシアの斬撃が右太腿と切り裂いた。


「シュレン様!!」

「ま、まずい!!」


 シュレンの負傷を見た神達が入り込もうとした瞬間にシュレンは神達へ殺気を飛ばして制止した。シュレンの殺気を受けた神達はそれだけで動くことができなくなってしまう。


(浅かったですね……完璧なタイミングだったんですけど咄嗟にあの程度ですませるなんてやりますね)


 レティシアはシュレンの咄嗟の回避行動により最小限度の負傷で済ませたことを称賛する。


(しかし、これでスピードも鈍るかもしれませんね)


 レティシアがそう考えた瞬間、シュレンは自ら斬り込んできた。その動きは負傷する前と全く遜色がないものだ。


 シュレンの斬撃が首へと放たれ、レティシアが小剣で受けようとした瞬間に急角度で腹部への斬撃へと変わった。


 キィィィン!!


 並の使い手であれば反応すらすることなく胴を両断されていたのは間違いないだろう。しかし、相手はレティシアである。


 レティシアは小剣でシュレンの斬撃を受け止めた。しかし、シュレンはここから小剣を絡め取るとレティシアの手から小剣が落ちた。


 カラン


 地面に落ちたレティシアの小剣をシュレンは即座に踏みつけた。


「く……」


 レティシアは小剣を失ったことを察すると左手の鎖でシュレンの剣に絡めると鎖の先端にある分銅が短剣へと変わった。


「何?」


 シュレンがこの事態に驚いた当然、この短剣でシュレンを攻撃すると思っていたからだ。しかし、レティシアは短剣の部分を地面に突き刺した。


「く……動かないだと!?」

「悪いけど……封印させてもらったわよ」


 レティシアの言葉を聞くと同時にシュレンは剣から手を離すとレティシアの鎖を握る手首を打ち付けた。


「く……」


 レティシアは手を強打されたことで鎖を落としてしまう。


 シュレンは左掌から魔力を放出する。レティシアは放たれた魔力の奔流を両腕を交差して受けるがその凄まじい威力に堪えきれずに吹き飛んでしまう。


「レティシア様!!」

「まさか!!」

「大丈夫。きちんと受けたわ」


 ヴィリス達から驚きの声が発せられた。レティシアが吹き飛ばされるなどというあり得ない事態にヴィリス達も驚きを隠すことができない。


「降参する気はないか?」


 シュレンの言葉にレティシアは首を横に振る。


「降伏勧告には少々早いと思うわ」

「ふ……その両腕で勝てるのかな?」

「そういうあなたこそ右足の限界は近いでしょう? 条件は同じよ」

「なんだバレてたのか」


 両者の言葉のやりとりは互いに限界が近いことを示している。


 レティシアの両腕は先ほどの魔力の放出を受けたことで骨折をしており、いつもの動きはできない。


 またシュレンもレティシアの斬撃により切り裂かれた右足が限界間近となっているのだ。


 二人の戦いは今佳境を迎えていた。

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