第220話 神魔大戦 ~暁星①~

 キラトとシオルは激しい剣戟を展開している。


 上段、突きからの首薙ぎと凄まじい速度で繰り出さる斬撃の応酬に周囲の神族、天使達は呆気に取られた。


 この場にいる神族、天使達の実力は相当に高い。にもかかわらず、キラトとシオルの激しい斬撃の応酬を見ることができる者などほとんどいない。


 キィィィィン!!


(やはり……この程度・・・・では崩せないな)


 キラトは激しい斬撃の応酬の最中、そのようなことを考えていた。キラトもシオルも互いに様子見であることを察しており、意識を片時も相手から外すことはない。


 キラトもシオルも数十合の斬撃の応酬を行ったが、互いに示し合わせたかのように一旦距離を取った。


(一分の隙もないな……さすがは親父殿に勝っただけの事はある)


 キラトはシオルと距離をとり、一分の隙も見せないシオルに対し、キラトは心の中で称賛した。


(ルキナが後を託すはずだ。ここまで強いとはな)


 一方でシオルもキラトの実力を称賛している。ルキナが後を託すような男が弱いはずはないというのはわかってはいたが、キラトの強さは想定を遥かに上回っている。


(いくか……)


 キラトはまるで瞬間移動したかのような速度でシオルの間合いに飛び込む。


 シオルはまるで植物のように全く意を発していない。しかし、キラトはそれがいかに危険なことかを認識させられる。


 キラトが間合いに入った瞬間にシオルも動く。


 シオルの斬撃……


 それは芸術と称しても、いや称すべきものである。流麗であり、速度、タイミングの全てが一つとなったものだ。


 その芸術的な斬撃をキラトは自らの持つ魔剣ヴォルシスで受け流すとそのまま斬撃を返した。


 キラトが狙ったのはシオルの首だ。


(当然、これは躱す……しかし、間髪入れずに放つ足への斬撃は……な!!)


 キラトはシオルが首への斬撃を後ろに跳んで躱すことを想定していた。しかし、ここでシオルはキラトの想像を上回った回避方法を取ったのだ。


 その回避方法とは屈んで躱すというものであった。屈んで躱すという想定はキラトは当然ながら持っていたが、想定を上回ったのはシオルはそのまま屈んで躱すと同時にあびせ蹴りを放ったのだ。


 ガギィィ!!


 シオルのあびせ蹴りをキラトは躱すことはできずに左腕で受け止めた。


(く……重い!!)


 シオルのあびせ蹴りの重さは凄まじいのであり、キラトの足元の地面が揺れる。並の相手であればこの一撃で頭部を砕かれていたことだろう。キラトであったからこそ受け止めることができたのだ。


 シオルは立ち上がりざま逆袈裟斬りを放つ。


 キ……


 放たれた逆今朝の斬撃をキラトは受け流した。


(な……これは)


 しかし、今度はシオルがキラトの技量に驚く番であった。シオルの逆袈裟斬りをキラトは受け止めるものだと思っていたのだ。


 しかし、キラトは受け流すことに成功した。しかもシオルの手には全く衝撃を判じることがなかったのだ。これはキラトが完璧な形で自分の斬撃を受け流した事を意味する。


(まさかこの一瞬で立て直すとは……)


 シオルは驚きと共に歓喜の感情が自然と発せられ口角が自然と上がった。


 斬撃を受け流したキラトはそのままシオルの腕を斬りにいくが、シオルは咄嗟に回転しキラトの斬撃を躱した。


「ここにきて笑うとは随分と余裕だな」


 キラトはシオルに言葉を投げかけた。


「それはそちらもそうだろう?」


 シオルの返答にキラトも自分が笑っていることに気づいた。


「ああ、そうだな。楽しいから自然と笑みが浮かぶのは仕方ないな」

「その通りだ。キラト、お前との戦いは楽しい」

「俺もだ」


 両者は笑いながら言葉を交わす。互いを好敵手と認め、自分が練り上げた技術をぶつける相手に出会えることなど、長い寿命を持つ神族や魔族であってもそうそうあることではない。


「さて、続けようか」

「ああ」


 キラトとシオルはそれをきっかけに再び斬撃の応酬を始めた。


 キィィン!!


 キキキキキキィィィ!!


 両者は互いに練り上げた技術をぶつけ合う。


 数十合剣を交わし、一旦離れ、また数十合剣を交わす。


 キィィィン!!


 両者は互いに間合いをとり一息入れる。


「はぁ……はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 両者の息は大きく乱れている。いかにキラトとシオルのような強者とはいえ、一瞬たりとも気が抜けない必殺の斬撃を繰り出し、躱し続けるのは精神的、肉体的消耗が激しいのだ。


 また、両者とも消耗のために斬撃を躱しきれない状況も増えてきていた。両者とも肩、腹部にいくつかの裂傷が刻まれている。


「本当に強いな。ここまでとは思わなかったよ」


 シオルはキラトへ言葉をかける。


「あんたもな。親父殿が左腕を斬り落としてくれてなければ危なかったぞ」

「ふ、言っておくが俺はルキナに左腕を切り落とされたことで弱くなったわけではないぞ」

「何?」

「今の俺はルキナと戦った時よりも強い」


 シオルの自信に満ちた言葉にキラトは訝しんだ。シオルがハッタリをいうとは思えない。しかし、片腕を失ってさらに強くなるということがあり得るのかという疑問があるのもまた事実である。


「不思議かな?」


 シオルは穏やかな顔でキラトに問う。


「ああ、あんたが生まれつき左腕がないというのならその理屈もわかるが、あんたはそうじゃない。そのあんたがこの短時間で片腕となって片腕を無くす前よりも強くなったなんてあり得ないと思っている」


 キラトの返答にシオルは穏やかな表情を崩すことはない。


「わからないか? 意志の力だよ」

「意志?」

「キラト……私はお前の好敵手となるために……そしてルキナの名誉のため強くなったのだよ」

「何だと?」

「左腕がない……それを理由として弱くなったというのならばお前の好敵手を名乗ることはできない。そのような弱者に敗れたとなればルキナの名誉に傷がつく」

「ありがたいことだ。それではこちらもその期待に応えなければな」

「お前は十分に応えている。今のお前はルキナよりも強い」

「それは嬉しい評価だ。親父殿を超えるのが俺の目標だったからな」

「だがこの評価は俺の主観によるものだ……」

「わかっている。あんたに勝ってそれを確かなものにしよう」

「それでこそ……我が好敵手だ」


 シオルはそう嬉しそうに笑うと手にした光の剣の輝きが増した。


(最後の一太刀というわけか……待ってたぞ・・・・・


 キラトはシオルの覚悟を感じ取ると魔剣ヴォルシスへさらに魔力を込めた。


(ルキナと同じ・・か。有する魔力の全てをこの一太刀に込めぶつけてくるつもりだな)


 シオルはキラトの狙いをそう結論づける。


 キラトとシオルは視線を交差させた。両者の視線の交差は時間にすれば一秒にも満たないものである。だが両者はその短い時間で可能な限りの情報を得て、勝機を感じ取ると同時に動いた。


 キラトの首薙ぎの斬撃をシオルが屈んで躱すと同時にシオルの斬撃が足首に放たれる。

 キラトは放たれた斬撃を後ろに跳び躱し、着地と同時に前に跳び間合いを詰めると大上段から一気に振り下ろした。


(この一撃……受け止めれば俺の勝ちだ!!)


 シオルは剣に魔力を込めキラトの一撃を受け止めようとした。


 二本の剣がぶつかる時、凄まじい衝撃が生じる。シオルはその生じるべき衝撃に耐えるために歯を食いしばる。


 しかし……


 二本の剣がぶつかる寸前でキラトの魔剣ヴォルシスの刀身が消えた・・・

 そして、シオルの神剣ヴァルジオスをすり抜けた瞬間に再び刀身が伸びる。


「な……」


 シオルの口から驚愕の声が発せられた瞬間にキラトの斬撃がシオルの肩から入り左胸まで達した。


 ドパァァァァァ!!


 シオルの傷口から鮮血が舞った。


 ドサッ!!


 シオルが膝をつくと同時に神剣ヴァルジオスの光の刀身が消えた。

 

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