第219話 神魔大戦 〜それぞれの決戦へ⑧〜

 ヴェルティア達とディアンリア達の激しい戦いを背にしながらシルヴィスは宮城きゅうじょうの中を突き進む。


 途中で天使達がシルヴィスを静止しようとするがシルヴィスと実力の差がありすぎて一秒も足止めすることは叶わない。

 シルヴィスが通った後に神と天使達が転がっているのは、シルヴィスの実力の高さを示している。


 シルヴィスはヴォルゼイスらしき強烈な気配を感じている。その気配は全く隠そうとしていないことをシルヴィスは感じ取った。


(なるほど……俺を待ってると言うことか)


 シルヴィスはヴォルゼイスが自分を待っていることを確信するとニヤリと笑う。


(あまり待たせるのも何だし、急ぐとするか)


 シルヴィスは速度を上げるとヴォルゼイスが待つであろう場所へ向かっていく。


「ここか……」


 いくつかの角を曲がり、一つの巨大な扉の前にたどり着いた。シルヴィスは虎の爪カランシャに魔力を込めるとそのまま斬撃を連続で放つと扉は切り裂かれるとガラガラと崩れ落ちた。


 そのまま扉をくぐると真っ正面に玉座があり、そこに一柱が玉座に座っている。その表情はさもおかしそうな表情を浮かべている。


 玉座に座っている以上、この男がヴォルゼイスであるのは間違いない。


「随分と変わった入室だね」


 ヴォルゼイスは苦笑を浮かべてシルヴィスに語りかける。その声は穏やかであり、シルヴィスへの蔑視の感情など微塵も含まれていないことをシルヴィスは感じ取っていた。


「扉は切り裂いて入室するんじゃなくて開けて入室するものだよ」

「あ〜そうなんだ。俺のいた世界では扉は切り裂くものなんだ」

「ほう、それはそれは随分と非効率的な世界だな。扉は開ける文化を根付かせるべきだと思うよ」

「そうだな。俺も非効率的と思っていたからその文化を根付かせるために活動するよ」

「そうか。頑張ってほしいな」


 シルヴィスとヴォルゼイスの会話は表面上は非常に穏やかである。しかし、両者とも互いの隙を窺っており、しかも互いに相手が隙を窺っているのをわかっているのだ。


「さて、それじゃあ。一つ聞いていいかな?」

「何かね?」


 シルヴィスの問いかけにヴォルゼイスは何でもないように手でシルヴィスの質問を促した。


「何のために神を間引いて・・・・いるんだ?」

「間引くか……どうしてそう思ったのかね?」


 ヴォルゼイスはシルヴィスの問いかけを否定しない。それこそがヴォルゼイスの考えの根幹であることを示している。


八戦神オクトゼルスとかいう品性下劣なやつを俺たちにけしかけたあたりだな。俺たちを本気で殺そうと思えば、あの段階でシオルやシュレンも同時に送り込むべきだ」

「単に私が君たちの実力を見誤ったのかもしれないよ?」

「いや、それはない」


 シルヴィスの断言にヴォルゼイスは苦笑を浮かべる。シルヴィスはその表情をさりげなく無視して言葉を続けた。


「もし、本当に見誤ったと言うのならそんな言い方はしない。それにルキナさんが言っていた」

「ルキナが?」

「ああ、あんたのやっていることが妙にチグハグだとな。ルキナさんは俺などよりも遥かにあんたのことを理解している。そのルキナさんが違和感を感じていた。それだけで単に俺たちを消すことが目的でないと考えるのは自然なことだろう?」

「なるほどな」


 ヴォルゼイスの返答にシルヴィスはニヤリと笑う。


「君は……不死をどう考える?」

「……不死?」

「ああ、不死だ。不死の生き物は幸せなのかな?」

知らん・・・


 シルヴィスの返答にヴォルゼイスは苦笑を浮かべる。


「そう言うな。私はかつてある文明に永遠の寿命を与えた」

「ほう」

「その文明の者達は滅んだ……自分達の命の使い所を見失った彼らは互いに殺し合ったのだ」

「なるほど……それであんたは命とは限りあるべきものであると考えたのだな」

「察しが良くて助かるよ。それは神もそうではないかと考えたのさ」

「それはそれは随分と歪んだものだな」

「ああ、それは自覚してるよ。私は長い時を生きてきたことで何処かしら歪んでいるんだろうな。別の言い方をすれば壊れている・・・・・のさ」


 ヴォルゼイスは自嘲的な笑みを浮かべ立ち上がった。


「ふ〜ん、絶対神と聞いてたけど俺たちと大して変わらないんだな」


 シルヴィスの言葉はヴォルゼイスを揶揄する意図など一切ない。だが、それでも神々のトップであるヴォルゼイスの怒りを誘う効果も十分に考えている。


「ああ、そうだ。例えこの世の事象の全てを見通しても、操ることができてもそれでも悩み持つし迷う。そして……経験はその後の生き方に影響を及ぼすのだ。そして当然……後悔もある。神も魔族も……人間も同じだよ。そして……私は別に全知全能というわけではない」


 ヴォルゼイスはそう言ってニヤリと笑う。その表情には自分のやっていることの誤りを自覚してなお止めるつもりなどないという確固たる意思があるのは確かだ。


(こういうやつは厄介だな。善悪とかそんなものでは心が揺るがない)


 シルヴィスはヴォルゼイスとの会話から道義的な面で責め立てても無意味であることを察していた。


「するとあんたは神々も滅びるべきだと思っているんだな?」

「さぁ」

「さぁ?」

「さっきも言っただろう。私には全てを見通す力などない。神が滅びるのも魔族が滅びるのも……人間が滅びるのも何もわからないよ」


 ヴォルゼイスの声にシルヴィスは目を細めた。


「そうか……あんたは生に飽きたんだな」

「かもしれんな」

「良かったな」

「良かった?」


 シルヴィスの言葉にヴォルゼイスは鸚鵡おうむ返しを行った。それはシルヴィスの言葉がヴォルゼイスの想定を上回っている証拠でもあった。


「あんたの飽きたという命に価値を与えてやろう」


 シルヴィスの言葉にその意図を察したヴォルゼイスはニヤリと笑う。


 シルヴィスは自分と戦おうと言っているのだ。


「俺は勝負を邪魔された。その落とし前をつけてやろうと思っている」

「ふ……君は本当に余計なものを背負わないのだな」

「戦いの理由なんて詰まるところ相手が気に入らんということだけで十分だ」

「そうだな……君、いやお前のいう通りだ。はお前との戦いを本当に待っていたぞ」

「そうだ……それで十分だよ。楽しいから……気に食わないから……それでいいだろう?」

「ああ、そうだ……始めよう」


 ヴォルゼイスはニヤリと笑って剣を抜き放った。

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