第217話 神魔大戦 〜それぞれの決戦へ⑥〜

「あれれ? 死んでませんね?」


 ヴェルティアが蹴散らした神達も立ち上がったことに首を傾げている。


「いや、どうせディアンリアから祝福ギフトをもらったんだと思うぞ。こないだのやつもそんな感じだったろ?」

「あ!!そうでした!! そういえばそんな方もいましたね。しかし、あの方ってあの程度の実力で私達に勝てるなんて思っていたんでしょうね?」

「いや、神だからだろ。神に相手の実力を見抜くなんて高度なことなんかできるわけないだろう。言ってやるなよ」


 シルヴィスの言葉には隠しきれない侮蔑の感情が含まれている。というよりも元々隠すつもりが全くないので当然のこととも言える。


「貴様らは我々を甘く見過ぎだ。ディアンリア様は我々に大いなる力を与えてくれたのだ」


 自信たっぷりに言い放つ神にシルヴィスもヴェルティアも可哀想な者を見る目を向けている。


(普通に考えれば……不死か再生能力なんだろうな。でもそれじゃあ俺たちに勝つことはできないはずだ)


 シルヴィスは心の中で訝しんだ。


「ま……やってみればわかるか」


 シルヴィスは捕食者めいた笑みを浮かべると神に襲いかかった。一瞬で一柱の間合いに入り込むと左拳を腹部に放った。


(何?)


 シルヴィスの左拳をその一柱は捌いた。最初に蹴散らしたものと何ら遜色のない一撃であった。それを捌いたということにシルヴィスは驚いたのだ。


 しかし、シルヴィスは即座に次の一手を打つ。


 打った手とは虎の爪カランシャでの一閃だ。


 シルヴィスの一閃が神の首を斬り飛ばした。斬り飛ばされた首が地面に落ちるが体が倒れることはない。そのまま倒れない体がシルヴィスへ反撃を行う。


 放たれた斬撃をシルヴィスは屈んで躱し、胸部に膝を入れる。


 ゴギィ!!


 胸骨の砕ける音が周囲に響いたところで、もう一柱がシルヴィスへ斬撃を放ってきた。これによりシルヴィスは追撃を止め、距離を取った。


「ほら」


 シルヴィスへの斬撃を放った一柱は仲間の落ちた首を拾って体しかない神に放り投げた。


 首を受け取った神は元の位置に首を置くと首の傷が一瞬で塞がった。


「ふ、助かったぞ」

「いくら死なないからと言って油断しすぎだぞ」

「殺されないと思うといまいち緊張感がな」


 神達は愉快そうに笑う。その様子を見るがシルヴィスはニヤリと笑う。


「てぇい!!」


 ヴェルティアの拳がまともに神の顔面に入る吹き飛んでいく。ヴェルティアの殴り飛ばした神はそのまま城壁に叩きつけられた。


「あら? やはり死にませんね」


 ヴェルティアは全く動じている様子はない。


「そうだな。まぁ面倒なんで終わらせるとしよう」

「あれ? なんか方法あるんですか?」

「当たり前だろ」

「いや〜シルヴィスって時々ポカをしますからねぇ〜」

「なんで俺はお前に心配されてるんだろうな?」


 シルヴィスの声には少しばかり心外という気持ちが現れていた。


「まぁいいじゃないですか!! 小さいこと言いっこなしですよ!!」

「ヴェルティア様、おっ・・……いえ、シルヴィス様の方法を見てみましょう」

「そうだよお嬢。だん・・、じゃなくシルヴィス様のやることに私は純粋に興味があるな」


 ヴェルティアにディアーネとユリの二人が言うと、ヴェルティアも少し考え込む。


「二人とも、おっ・・とかだん・・って何のことです?」

「気にしないでください」

「ああ、お嬢は気にするなって」


 ヴェルティアの問いかけにディアーネとユリは妙にニヤニヤしながら返答した。


「さて……準備が必要だからちょっと待ってろ」


 シルヴィスはそう言うと同時に動く。神達の間合いに飛び込む一瞬前にシルヴィスは紋様を顕現させた。


 シルヴィスが紋様を顕現した瞬間にシルヴィスの速度が桁違いに上がった。


 それはシルヴィスの動きを七柱の神々は捉えられないことの同義である。


 シルヴィスは間合いに入ると神達の鳩尾へと正拳を叩き込む。


 ゴギィ!!


 まともに拳を受けた神はその場に崩れ落ちる。


(やはりな……鳩尾を打たれれば一瞬動きが止まる)


 シルヴィスはニヤリと笑うと崩れ落ちた神の延髄を踏み潰した。


 ギョギィ!!


 シルヴィスの一撃に延髄を踏み抜かれた神の首があり得ない方向へと曲がった。


「ふん!!」

「無駄だ!!」


 一柱の神を痛めつけたところで、他の六柱がシルヴィスへ襲い掛かる。


(バカが……)


 シルヴィスはニヤリと笑うと襲い掛かる六柱の攻撃を余裕で捌くとその都度、致命的な反撃を神々に叩き込んだ。


 神々は崩れ落ちるが数秒もたたずに立ち上がると再びシルヴィスに襲いかかってくる。シルヴィスは立ち位置を巧みに変える。そして、七柱にぐるりととり囲まれた。


 七柱は一斉にシルヴィスへと突っ込んでくる。死ぬことはないという状況が神を同士討ちを恐れない勢いで突っ込ませたのだ。


 シルヴィスは跳躍して神達の攻撃を躱した。


 そして、シルヴィスは空中で魔法陣を顕現させるとそのまま七柱へと魔術を放つ。


 放たれた魔術は黒い珠であった。


 黒い珠は七柱を一瞬で飲み込んだ。


 それはあまりにも呆気ない光景であり、この場に元々七柱がいたのか信じられないほどである。


 パシン!!


 シルヴィスが両手を叩くと黒い珠も姿を消した。


「さて、行こうか」


 シルヴィスがヴェルティア達三人へと声をかける。


「あの方々は?」

「もう帰ってこれないよ」

「帰ってこれない?と言うことは別の空間に飛ばしたんですか?」

「まぁそんなところだな。俺の作り出した亜空間へ閉じ込めておいた」

「でも戻ってくるんじゃないですか?」

「大丈夫だと思うぞ。俺の黒魔封盡レゼンベリオは亜空間に敵を閉じ込めるだけじゃなく。亜空間内部はあらゆる術を阻害する。よっぽど常識はずれのやつでないと戻ってこれないさ」

「はぇ〜すごいですね。さすがはシルヴィスです!!」


 ヴェルティアはシルヴィスへ素直な賛辞を送った。


「それにしてもあいつらアホだな。不死身のやつに俺が一々付き合うなんてどうして思えるんだろうな?」

「普通はどうやって斃すかを考えると思いますよ」

「まぁ斃してもよかったんだけど面倒になってな」

「仕方ないですねぇ。それにしてもディアンリアって思ったよりも愚かですねぇ」

「まぁ、いいじゃないか。さて……」


 シルヴィスは視線を虚空に向けるとニヤリとした笑みを浮かべた。


「さて、前座は終わったぞ。出てきたらどうだ? それとも……俺たちが怖いか? 」


 シルヴィスの痛烈な言葉が投げかけられた。

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