第216話 神魔大戦 ~それぞれの決戦へ⑤~

「お〜ここが天界ですね」


 ヴェルティアがキョロキョロと周囲を見渡して言った。転移門を越えて天界にたどり着いたシルヴィス達の眼前には荘厳な白を基調とした宮城きゅうじょうが広がっている。 その宮城の巨大な門の前にシルヴィス達は転移してきたのである。


「確かに直に来るのは初めてだな」

「そうですね。この前来た時って分身体ですからね」

「そういうこと」

「それじゃあ。早速ですけどやっちゃってください」

「ああ、そうする」


 シルヴィスは魔力を両掌を門に向けると数百の魔法陣が現れた。その数百の魔法陣から黒い大剣が現れるとそのまま宮城の門へと一斉に放たれた。


 ガガガガガガッ!!


 放たれた黒い剣は門を次々と貫いていく。


 ゴゴォォォ……黒い剣に貫かれ門はあっさりと崩れ落ちた。


「よし、いくぞ」

「はい!!」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアは気合を入れる。


 シルヴィス達一行は駆け出すようなことはせずに悠々を歩き出した。


「そういえば、シルヴィスって魔術を使うときに詠唱をしませんね」

「ああ、一人になってからは詠唱をする余裕がなくなったからな」

「ああ、そう言われればそうですね。シルヴィスがいかに寂しい人生を送ってきたか……心から同情しま、イタッ!!」


 ヴェルティアが頭をさすりながらシルヴィスに避難がましい視線を向けた。


「痛いですよ。いきなりどうしたんです?」

「蚊がいたんだよ」

「あ、そうなんですか? それなら仕方がないですね」

「……」


 ヴェルティアの返答にシルヴィスはため息をつく。


「ど、どうしたんです? あ……すみませんでした。私としたことが……孤独なシルヴィスの心の傷を抉ってしまいました」

「……大丈夫だ。むしろ、もう少し力を入れるべきだったと自分の失敗を悔やんでいるところだ」

「大丈夫です!! シルヴィス、命がある限りいくらでもやり直すことができるというものなのです!!」

「すごい……相変わらず話が通じない……」

「いや〜そんなに褒められるとテレてしまいますよ」


 ヴェルティアは本気でテレているようで頭をかきながら恥ずかしそうにしている。ヴェルティアの容姿を考えれば多くの者が見惚れるというものだが、シルヴィスはそれに当てはまらない。

 言い換えればヴェルティアの美しさに慣れてしまったとも言える。


「お二人とも……そろそろ迎撃が来ることでしょうから愛を深めるのは後にしていただけます?」

「そうそう、二人の仲が良いのは嬉しいんだけど、流石に最終決戦を前にその緩さはちょっと……ねぇ?」


 ディアーネとユリから苦言が行われるが、その表情はニヤニヤとしたものである。もちろん、ディアーネ達はシルヴィスとヴェルティアが緩いやりとりをしていても不意打ちに備えていることはわかっているのだ。


「おっと!! それもそうですね!! 私としたことがシルヴィスがあまりにも可哀想で、私の大らかな心で少しでも孤独な心を癒そう……はぅ!!」


 ヴェルティアが飛び上がった。シルヴィスが脇腹を突っついたためであり、痛みよりでは効果がないと判断したゆえである。その判断は間違いではなかったのだ。


「ど、どうしたんですか!?

「蚊」

「あ、そうなんですか? それなら仕方ありませんね!!」


 シルヴィスの言葉にあっさりと納得したヴェルティアである。


「お前さ……時々心配になるよ」

「何がですか?」

「……いや、なんでもない」

「え〜教えてくださいよ!! まぁ、私が及ばないところはシルヴィスが助けてくれると言ってくれましたから安心です!! あ、もちろんシルヴィスが危ない時は私が助けますから安心してください!!」

「不安しかないよ」

「大丈夫です!! 私の優秀さならば完璧にサポートすることが可能なのです!! はっはっはっ!!」


 ヴェルティアは上機嫌に両手に腰を当てて高笑いをしている。もちろん、シルヴィスの不安はヴェルティアの巻き起こすであろう甚大な被害を心配しているのであるが、それは伝わっていないようである。


 ビシュン!!


 そこに一条の光が放たれる。何者かの放った光術であった。もちろん、人間の放つ光術など比較にならないレベルのものだ。


「おっと!! 危ないですねぇ」


 その光術をヴェルティアは片手でを払うように弾いた。


「……お前って本当に規格外だな」


 シルヴィスの率直な感想がヴェルティアの耳に入ったのだろう。ヴェルティアはさらに得意な表情を浮かべた。


「はっはっはっ!! 」


 ヴェルティアは更なる上機嫌になり高笑いを始めた。


「ヴェルティア様、あまり弱い者をいじめるのは……さすがにかわいそうです」

「ああ、敵とはいえかわいそうだよ」


 ディアーネとユリが心の底から同情しているていで言葉を発する。もちろん、半分は演技であり光術を放った相手への煽り・・である。


 ヴェルティアだからこそ片手で弾くことができたのだが、放たれた光術は明らかに神のものである以上、この会話を聞かせることで冷静さを失わせようとしたのである。


「随分といい気なってるじゃないか」


 そこに七柱の神が現れた。一柱の顔が歪んでいるのは光術を放った神だからであろう。


「土足でこの天界に……」


 シルヴィス達を嘲笑うかのような表情で宣戦布告を告げようとした瞬間にシルヴィスとヴェルティアが動いた。


 それは初動を完全に消した世の武芸者が手本とすべきものであった。


 一瞬で神々の間合いに飛び込んだシルヴィスとヴェルティアの暴力・・が彼らに放たれた。


 ほぼ一瞬で七柱は殴り、蹴り飛ばされ地面に転がることになった。


「よし!!」


 ヴェルティアは力強く勝利を確信した。ヴェルティアは手応えから立ち上がってくることはないと判断したのだ。


「ま……とどめはさしておくか」


 シルヴィスはヴェルティアよりも用心深い。シルヴィス自身も殴り飛ばした手応えから立ち上がることは不可能であると考えているが念には念を入れておくことにして、虎の爪カランシャを装着した。


 とどめを刺そうとした瞬間に倒れた神が突然斬撃を放ってきた。


 シルヴィスはその斬撃を躱すと同時に凄まじい速度で神の胸部を容赦なく蹴り付けた。


 ゴギィ!!


 胸骨の砕ける音を残して神は再び地面に転がった。


「なんだ。またこのパターンか」


 シルヴィスがぼやいたのは斃したはずの神達が立ち上がったからである。

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