第215話 神魔大戦 ~それぞれの決戦へ④~
「……天軍の動きが変わりましたね」
「はい」
レティシアの言葉にヴィリスが頷いた。
「さっきまで闇雲に戦っていたんですけど……軍としての動きが一気に良くなりましたね」
シーラの言葉にレティシアが頷く。シーラの言葉通り天軍は陣形を整え始めたのだ。今までは部隊レベルで陣形を整えていたのだが、全体が一つの意思に基づいて陣形を整えている。
「どうやら……シュレンさんが直接指揮を取り始めたのでしょうね」
「どうします? 今までのようにいきますか?」
「いえ……さっきまでは勢いと相手の混乱に乗じることが出来ましたけどもう力強くというわけにはいかないでしょうね」
「それならどうします?」
「そうね……多分ですけどそんなに長い時間の戦いにはならないでしょうね」
「え?」
「さて……それじゃあ。一休みしましょうか」
レティシアは空間に手を突っ込むと携帯食と皮袋を取り出した。
レティシアの行動を見た者達は腰にくくりつけている皮袋に入っている水を飲み、喉を潤し携帯食を口に入れていた。
「こちらはわずか百程度……相手は一万と言ったところね」
「既に二〜三千は斃しているから残りは大体六〜七千といったところね。圧倒的な兵力差なのは変わらないわね」
シーラとサーシャが敵軍の陣形が整っていくのを黙って眺めているのは、このまま闇雲に突き進めば間違いなく飲み込まれてしまうのは確実であった。
周囲の天軍はどんどん包囲を解き、前面へと移動していく。
「さて……休憩は終わりみたいね。この短時間に陣形を整えるなんて……なんだかんだ言って天軍は優秀ね。これからが本番みたいね。カイ、レイ。わかってるわね?」
シーラが孫二人に問いかけるとカイとレイはヴィリスの前に立つ。シーラとサーシャはヴィリスの両隣に陣取った。
レティシアはヴィリスの背後につく。
レンヤ達三人はレティシア達の集団の前に立ち、その周囲を
カチカチ……
天軍が再び動き始める。
天軍が動き始めるのと同時に矢の豪雨が降り注いだ。
一斉に放たれた矢の豪雨であったが、エルナの形成した防御陣により阻まれて被害が生じることはなかったが、立て続けに放たれる矢によりエルナは防御陣を解くことができなくなってしまった。
「……ん?」
ヴィリスが巨大な魔術が放たれる気配を察しエルナの防御陣の上に重ねる形で形成した。
キィィィィ……
ドン!!
そのまま凄まじい衝撃が降り注いだ。ヴィリスの防御陣により実害はなかったが、次々と放たれる魔術をヴィリスとエルナの防御陣が防ぐが防御陣を解くことができなくなる。
(う〜ん、やはりこう来ますよね。これでヴィリスとエルナは防御陣を張り続けなければなりませんから……魔術の支援ができなくなりましたね)
ビシ!! ビシ!!
(当然だけど……この
レティシアは首をかしげた。レティシアはシュレンの能力を過小評価などしていない。このエランスギオムの戦いはほぼシュレンの計画通りに進んでいたし、シルヴィスを排除することもやってのけたシュレンを甘く見ることなど不可能である。
ガシャァァァン!!
そこに神達がヴィリス達の張った防御陣を砕いた。ヴィリス達の張った防御陣は神であっても破ることは困難であるのは間違いない。しかし、連発された魔術を防いだために防御陣が弱まった瞬間を狙われたのである。
そこにさらに魔術が連続で放たれてきた。
ヴィリス達の張った防御陣は粉々に砕け散った。
「く……やばい!!」
レンヤが慌てて張った防御陣のおかげで直撃はなんとか避けられた。
「続けぇぇぇ!!」
結界を砕いた神達がそのまま切り込んできた。
ただの一振りで
「ヒィ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
ただの一振りで方陣が突き崩されたことに
ヴィルガルドとレンヤが切り込んできた神に斬りかかった。先ほど切り伏せた神は不意をついたからこそあっさりと討ち取ることができたのだが、この神には油断はない。
レンヤとヴィルガルドの実力はエルガルド帝国にいた時など比較にならないほど上がっている。しかし、この神はその二人をして討ち取ることは容易ではないレベルの実力者なのだ。
「やるな!! 人間!!」
神は二人の剣技を賞賛する。その様子に一切蔑む様子はない。
「く……」
「そちらもな!!」
レンヤとヴィルガルドは神へと意識を集中して剣戟を展開している。
「がぁ!!」
「ぐわぁ!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
周囲で
「エルナ!! 下がりなさい!!」
「は、はい!!」
ヴィリスの指示にエルナは素直に従うとヴィリスの隣へ立つ。
カイとレイが襲いかかってくる天使達を切り伏せながらレティシアを守る。
「さて、ここまではある意味
レティシアは周囲を見渡してシュレンのいる可能性の場所を予測し始める。
「……あそこが一番可能性が高いわね」
レティシアは狙いを定めると小剣を一振りすると一気に駆け出した。その駆け出した先にはレンヤとヴィルガルドと激しい戦いを展開している神がいる。
「てぇい!!」
レティシアはそのままの勢いで神へ飛び蹴りを放つとまともに受けた神は吹き飛んでいった。
「よし、みんなのおかげでシュレンさんの位置はわかりました。ついてきてください!!」
レティシアは一声かけると先陣を切って走り出す。そしてヴィリス、シーラ達がそれに続く。
「レティシアさん達に続け!!」
レンヤとヴィルガルドはエルナの両隣を守りレティシア達についていく。
もはや、自分達が生き残るためにはレティシア達についていくしかないのだ。
レティシア鎖を振り回しながら一心不乱に駆ける。
レティシアの暴風に天軍は蹴散らされていくが、明らかに先ほどのような勢いはない。その理由は天軍は陣形を変え真っ正面からぶつかるようなことはせず、斜面、側面から攻撃を加えてきているのである。
(う〜ん、やりづらいですね)
レティシアは斜め、側面からの攻撃により行きたい方向へと行くのに苦労しているのである。
「いた!!」
レティシアの言葉にヴィリス達は顔を輝かせた。シュレンの位置を正確に見抜いたレティシアの戦術眼を称賛するとともにレティシアの突破力ならば十分にシュレンに届くと思ったのだ。
「あらら、これは思った以上に厄介な陣形ですね」
レティシアの口調は余裕が感じられるものであったが、その奥には困ったという感情が含まれているのは確実であった。
実際に斜めや側面から突っ込んでくる相手に対処しようとするとシュレンのいる方向とは違う方向へと進んでしまうことになる。
「レティシア様、このままでは辿りつくのは難しいと思います」
ヴィリスの言葉にレティシアは頷かざるを得ない。
「そうね。……となるとちょっとした策が必要ね」
「はい」
「え〜と……それじゃあ。私についてきてください」
レティシアはそういうと敵の中に飛び込んでいく。ヴィリス達もそれに続いていく。
既にレティシア達一行の総数は四十を切っている。
レティシアは流れに逆らうようなことはせずに敵の流れに乗りつつ泳ぐようにシュレンへ向かって突き進む。
敵の濁流に飲み込まれることなくシュレンへと向かっていく。レティシアに続いた一行はレティシアの切り開いた流れに乗り、シュレンへと進んでいく。それは濁流に投げ込まれた木の葉が流れに揉まれながらも沈まずに流れていく様を思わせる。
シュレンが片手を上げるとそれに従い流れが変わる。
(流れに乗りかけたところで流れを変えるのは本当にやめてほしいですね)
レティシアはため息をつきそうな表情を浮かべつつ変わった流れにすぐさま対応して流れに乗ってシュレンへと迫る。
「ヴィリス!! みんな、いくわよ」
レティシアの言葉にヴィリス達は覚悟を決めた表情を浮かべた。
その時、レティシアの眼前に神達が立ち塞がり、ついにレティシアの動きが止まった。
その瞬間にレティシア一行はついに動きが止められ、そこに天軍が一斉に襲い掛かる。全員が円陣を組み襲い掛かる天軍に対処する。しかし、それは敗北を先延ばしにする行為であるのは間違いなかった。
「ヒィ!!」
「うわぁぁぁ!!」
死の気配が津波のように襲いかかり
わずかの抵抗がレティシア達一行から展開されたがそれは長い時間ではなかった。天軍の凄まじい勢いにあっさりとレティシア達一行は飲み込まれていった。
「やった!!」
「シュレン様、お見事です!!」
シュレンの周囲の神達がレティシア達が天軍の流れに飲み込まれたことで歓声を上げた。既に多くの将兵がわずか百名ほどの小隊に討ち取られたことを思えば果たして勝ちと言えるかはわからない。だが、少なくとも生き残ったのは事実であり、それが勝利である。
「……いや、まだだ」
「え?」
群衆の中から投擲された鎖がシュレンの足元に直撃した。
「最後の足掻きか?」
幕僚の言葉に他の幕僚達も不安な表情を隠せない。放たれた鎖はレティシア達がまだ生きていることを示したものであるからだ。
「そうか……辿り着いたか」
「え?」
しかし、シュレンは静かにいうと剣を抜き放った。
シュレンの言葉の意味を察する前に地面に魔法陣が顕現する。その直後にレティシア達が姿を見せた。
「な……」
「そ、そんな……」
幕僚達の動揺は大きい。シュレンの指揮はまさに芸術と呼んでも過言ではない。あれ以上の指揮を行うことなど自分ではできないと思うほどのものであった。
だが、シュレンの前に転移してきた者達がいたのである。
それはレティシア、ヴィリス達五人、レンヤ達三人、
「おのれ!!」
幕僚達が一斉に剣を抜き、レティシア達に斬りかかろうとした。
それをレティシアは片手を掲げて制止する仕草をとった。
「さて、シュレンさん。ここは私と一騎打ちといきませんか?」
「何をバカな!!」
「黙りなさい!! 私はあなたに言っているのではりません。シュレンさんに聞いているんです。それともシュレンさんはあなたから見て何も決断できないほどの無能という評価のですか?」
「な、ぶ、無礼な!!」
「話に割り込んでくるというのは無礼ではないのですか? 私はあなた達の命を守るために私と一騎打ちしませんかと聞いているんですよ」
「い、言わせておけば!!」
ビシィ!!
幕僚が足を踏み出そうとした瞬間に突然幕僚の一歩前の一の地面が突然爆ぜる。
「見えました?」
「……」
レティシアの問いかけに幕僚達は沈黙した。レティシアの手元には鎖が握られており、それが放たれたから目の前の地面が爆ぜたことを察したのである。
「さて、当然ですけど私を討ち取るには少々骨が折れると思います。私は少なくともあなた達の半分は確実に討ち取る自信があります。その前提に立って話を進めましょう。シュレンさん、私と一騎打ちしませんか?」
「受けた」
シュレンの返答に幕僚達が驚きの表情を浮かべた。
「シュレン様!!」
「いや、お前達の事を案じたばかりではない。レティシア嬢とは決着がまだでな……ここはわがままを通させてもらう」
シュレンの力強い言葉に幕僚達は沈黙せざるをえない。
「さすがはシュレンさんですね。それでは戦うとしましょう」
「ああ、皆手出しは無用だ」
「ヴィリス達も手出しはしないでください。これは一騎打ちですからね」
レティシアとシュレンの命令に両陣営は静かに下がる。
レティシアとシュレンは互いに武器を構えた。
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