第214話 神魔大戦 ~それぞれの決戦へ③~

 二個大隊を壊滅させたレティシア達はそのままシュレンを目指して突き進む。


「あの女から殺せ!!」


 神族が命令を下すと天使達が数条の光を放つ。その光はエルナへと狙いを定めたものだ。


 レンヤは放たれた数条の光を防御陣を形成することで防いだ。


「助かったわ」

「エルナ、狙われてるぞ」

「わかってる。でも、攻撃を緩めるつもりはないわ」

「おい」

「仕方ないわ。こっちはたったの百人よ。私が攻撃を緩めたらあっという間に飲み込まれるわ」

「それはそうだが……」

「レンヤ、私を守ってね」

「しゃーねぇな……任せろ」

「ヴィルガルドもよろしくね」

「俺はついでかよ」


 ヴィルガルドのぼやきのこもった返答にレンヤとエルナは苦笑した。レティシア達のような強者ではないことを自覚しているレンヤ達三人であるが、不思議と悲壮感はない。


「いくぞ!!」


 レンヤの声にヴィルガルドも即座に応えると斬魔エキュラス達の形成している円陣から二人が飛び出した。


「お、おい!!」

「まさか!! あの二人死ぬ気か!?」


 斬魔エキュラス達の中から驚きの声が上がる。今自分達が死んでいないのはレティシア達が前方を蹴散らしているのと、エルナの魔術による攻撃、そして円陣を組むことで致命傷を負う可能性を下げていることに他ならない。


 逆に言えばその中の一つでもかければ斬魔エキュラス達はあっさりと天軍に飲み込まれその命を散らしていたことだろう。


 そして、レンヤとヴィルガルドはそのうちの一つである円陣から飛び出したのだ。それだけで斬魔エキュラス達からは自殺志願者としか思えないのだ。


 もちろん、レンヤもヴィルガルドも自殺の意思は皆無だ。


 天使の光術が次々と放たれる。


 レンヤが左手をかざし、防御陣を形成してからそのまま突っ込む。


「人間ごときがぁぁ!!」

「舐めるな!! 虫ケラ共が!!」


 天使達がレンヤとヴィルガルドへと殺到した。天使達の後ろで指揮をとる神がニヤリと笑った次の瞬間、エルナの放った火竜剛破ディクランシスが神を襲う。


 エルナがこの時放った火竜剛破ディクランシスは、炎を竜の頭部に形成し対象物を焼き尽くすというエルナの魔術の中でも最も威力のある魔術だ。


 レンヤとヴィルガルドはエルナの放った火竜が直撃する瞬間に左右に散る。突如二人が散ったことで天使達はエルナの火竜剛破ディクランシスをまともに受けてほぼ一瞬で焼き尽くされた。

 

 エルナの放った火竜破そのまま天使達の後部にいた神を直撃した。


「う、うぉぉぉ!!」


 火竜に呑み込まれた神は火竜を引き裂く。しかし、そのダメージは深刻なものである。天使達を一瞬で焼き尽くした火竜であっても神を焼き尽くすには至らなかったのだ。


「おのれぇ!! 人間ごときが調子に乗るなぁぁ!!」


 神は人間ごときにケガを負わされたことに対し、大いに誇りを傷つけられたのだろう。凄まじい殺気を放ちながらエルナを睨みつけ右手に凄まじいまでの魔力を集めた。


(あ、あれを放つつもりなのね)


 エルナは恐れる様子を見せるどころか逆にニヤリと笑う。


 もちろん、神が放とうとしている魔術はエルナの防御陣では防ぎ切ることはできない。それはわかっている。しかし、エルナは笑ったのである。


 それは死の覚悟を決めたものでは決してなかった。エルナは笑うことで神の意識を一瞬でも長く自分に向けるために笑ったのである。


 そして、引き裂かれた火竜が粉々となって消え去るまでの短い時間の間にレンヤとヴィルガルドが神の間合いに飛び込み斬撃を放った。


 ヴィルガルドの大剣が神の両太ももを切り裂いた。


「な……」


 ヴィルガルドの斬撃により自分の両太ももが切り裂かれたことでガクンと膝が落ちた。


 そして次の瞬間、レンヤの剣閃が神の首を斬り飛ばした。


「二、ニーゼン卿!!」

「ま、まさか……そ、そんな」


 レンヤとヴィルガルドが神を討ったことで周囲の天軍があきらかに狼狽した。


「レンヤ、戻るぞ!!」

「ああ」


 レンヤとヴィルガルドはニーゼンを討つと一目散に下がり、円陣へと戻ってくる。


「はぁ、はぁ!!」


 円陣の中に戻ってきたレンヤ達二人は荒い息をしている。円陣の外での戦闘はレンヤ、ヴィルガルドであっても消耗が激しすぎたのである。


「よかったわ」

「ああ、運が良かった。エルナの魔術のおかげだ」

「助かったぞ。ありがとな」

「いいのよ。二人が無事で良かったわ」


 エルナの言葉に二人は息を整えながら笑顔を浮かべた。


「よし、レティシアさん達とこれ以上離れると全滅する。前進するぞ」


 レンヤの言葉を受けて斬魔エキュラスの作った円陣は先行するレティシアに追いつくために進み出した。


 レティシアは相変わらず鎖を振り回し、襲い掛かる敵兵を蹴散らしてる。少し遅れてヴィリス達が拠点を作って天軍と戦っている。


「ありがたいな」

「ああ、俺たちを待ってくれてる」

「それにしても、すごいわね。天軍を全く寄せ付けてない」

「桁が違うな」

「ええ。おかげで私たちはまだ生きてるわ」


 エルナの言葉に二人は苦笑まじりに頷くとそのままヴィリス達の拠点に到達した。


「ヴィリス!! 行きますよ!!」

「はい!!」

「シーラ達はこの拠点を死守してください!! レンヤ達もです!!」

「はっ!!」


 レティシアは手短に指示を出すとヴィリスを連れて突っ込んでいく。当然ながら奴隷兵士リュグールや天使達ではレティシアとヴィリスを止めることはできない。


「ヴィリス。頼みますよ」

「お任せください!!」


 レティシアの言葉にヴィリスは即座に答える。レティシアは具体的な指示を出してはいない。しかし、ヴィリスはレティシアの求めていることを理解していたのである。


 ヴィリスは自分の意思でその場に止まったことを悟られないように、天使達が分断をおこなったことを阻止するのではなくそのまま分断された。


「どきなさい!!」


 ヴィリスは天使達を錫杖で次々と打ち付けていく。ヴィリスの凄まじい杖術の前に次々と天使達は蹴散らされていく。しかし、後から後からヴィリスへの足止めに天使や奴隷兵士リュグール達が入ってくる。


 もちろん、本気を出せばヴィリスの実力なら余裕で蹴散らしレティシアに合流は可能なのだが、それではレティシアの指示に反することになるために行わなかったのである。


 このヴィリスの騙し・・に天使達は気づかない。いや、正確に言えば気付きたくなかったのかもしれない。それだけ、レティシアとヴィリスの戦闘力が抜きん出ていたのである。


(いつものことだけど……やっぱり抵抗あるのよね)


 ヴィリスは心の中でため息をつく。これからやることはレティシアの命令ではあるのだが、ヴィリスとしては二つの意味・・・・・で心が重くなるのである。


「さて……見つけましたよ……っと」


 レティシアは一柱に狙いを定めると神に向かって一直線に駆け出した。


 レティシアの鎖は高速で動き蹴散らしていき、神へと投擲する。放たれた鎖の先端にある錘が神を襲う。しかし、狙われた神の実力は相当なものであり、横に躱した。


 ドゴォォォォォォォォォォォォ!!


 その瞬間、ヴィリスが放った火天狂滅ウィーゴルが神へと直撃する。その凄まじい一撃は神の周囲を巻き込み全てを消し飛ばした。いや、消し飛ばなかったのは二つあった。


 一つは直撃を受けた神の亡骸・・であった。周囲の者達は亡骸すら残っていない。


 そして、もう一つはレティシアである。神を一発で仕留めたヴィリスの必殺の魔術の爆発圏の中にいて無傷であるのはさすがというべきである。


「よし!! それじゃあ戻るわよ」

「……はい」


 レティシアは元気よくヴィリスに声をかけるがヴィリスの声は心なしか沈んだ者である。


 ヴィリスにしてみれば火天狂滅ウィーゴルは広範囲を吹き飛ばす魔術であり、それを主であるレティシアがいる段階で放つのはやはり戸惑うというものだ。


 そしてもう一つはレティシアが無傷ということである。もちろん、直撃させればレティシアであっても無傷というわけにはいかないのだが、ヴィリスとしてみれば流石に自信を失うというものだ。


(ヴェルティア様にはシルヴィス様という方が見つかったけど……レティシア様はどうなるのかしらね)


 ヴィリスは心の中でため息をつく。


「りょ、旅団長がやられた!!」

「くそ!! なんなんだこいつら!!」


 レティシアとヴィリスの背後で絶望の声が聞こえた。


「さて、それじゃあ。シュレンさんが動くでしょうからここからが本番ですよ」

「はい」


 レティシアの言葉にヴィリスが小さく返答し、シーラ達、レンヤ達の作った拠点へと戻った。

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