第205話 閑話 ~シルヴィスの帰還~
「くそ……またか。う〜ん、俺ってカッコ悪いにも程があるな」
シルヴィスは自分の置かれた状況を把握した結果、自分が別の次元に飛ばされたことがわかった。
現在、シルヴィスはどこの世界でもないその間の境界線である亜空間にいる。
シルヴィスはこの亜空間に飛ばされた時に、大気などがないことを察し、即座に結界を張り、生存スペースを確保したのだ。
生存スペースを確保したシルヴィスは次に脱出に向けて動き出した。
具体的には自分を閉じ込めている術の解析だ。
シルヴィスは術式の起点となる地域を探していると三十分ほどで僅かな魔力を感じ、そちらに向かう。
「あった」
シルヴィスはニヤリと笑うとそのまま術式の解析に入る。シルヴィスは戦闘スタイルが殴る蹴る、暗器などを使うために魔術師と思われないことが多いが、シルヴィス自身は自分のことを魔術師であると思っている。
シルヴィスは魔術を戦闘で使うことはあまりないのだが、それは魔術を放つための間が取れないために、結果的に武術によって敵を斃した方が安全であるという考えに至ったからである。
シルヴィスが一人で戦いに使用する術で
「えっと……ここに魔力が流れているな。これは空間固定……の術式。ここを壊せば……他の箇所も連鎖的に破壊されるが俺も一緒に吹き飛ぶな。結界を最大限に張ることで耐え凌ぐか? いや、それでどんな災害が
シルヴィスは短絡的に破壊することを思いとどまる。吹き飛ぶのが天界であればシルヴィスは迷わず破壊したのだろうが、
「結局は地道にやるしかないな」
シルヴィスはそう独りごちる。
「これは……こうして……」
(俺の弱点か……)
シルヴィスは術の解析を行いながら、先ほどシオルに言われた自分の弱点に対して考えずにはいられない。
「殺意に対する自然な反応……逆に言えば殺意のない相手には自然と力を制限……これはどう考えても俺の弱点だな」
シルヴィスは自嘲気味に笑う。シオルの言った弱点は完全に正論であり、反論することはできないものである。
「今までは一人だったからな……」
シルヴィスの脳裏に仲間達の顔が浮かぶ。この世界に来てから色々な者達と出会い、友誼を結んだシルヴィスの中には以前とは違う価値観が生じている。
「なんとなく……この解析って無駄になりそうなんだよな」
シルヴィスの発した言葉は、脳裏にヴェルティアの姿が思い浮かんだからである。
それは予感というよりも確信に近いものであった。
シルヴィスがそう考えた時、シルヴィスの視界の右端の空間にヒビが入ったのを見つけた。
ピシ……ピシ……。
空間に入ったヒビはどんどん大きくなっていき、貫手が差し込まれると大きく開かれた。
「お〜一発で見つけるなんてやっぱり私って優秀ですねぇ〜」
やはりというかヴェルティアの場違いな声が響いた。ヴェルティアはシルヴィス同様の結界を張り生存スペースを確保すると亜空間へと入ってくるとヴェルティアの開けた空間の孔は閉じていった。
「う〜ん、一つ聞きたいんだがお前どうやって俺の位置を見つけたの?」
「ふふ、知りたいですか? いいでしょう!! 教えて差し上げましょう!!」
ヴェルティアはいつもの調子で両手を腰に当てて自信満々に宣言した。
「お前、俺に前につけていた
「
「それじゃあどうやって俺を見つけてくれたんだ?」
「ああ、新しく
「は?」
「ふふん、私が追ってきたのはシルヴィスとの勝負が目的でしたからねぇ〜何しろシルヴィスは意外とおっちょこちょいですからねぇ〜今回のように異世界に飛ばされる可能性を考えれば当然の処置なんです!!」
「おい」
「なんですか? ああ、私の深慮遠謀っぷりに感心しているんですか!! いいですよ!! さぁ!! 私の深慮遠謀をどんどん誉めてください!! しかもシルヴィスにバレないようにシルヴィス本人ではなく、シルヴィスの靴底に仕込んでおきました!!」
「お前、すごいな……」
「そうでしょう!! そうでしょう!! 私の深慮遠謀をやっと解りましたか!!はっはっはっ!!」
「それで……当然ながらどうやって帰るかも考えてるんだよな?」
「もちろんです!! さぁどうぞ!!」
ヴェルティアは自信たっぷりにシルヴィスに掌を向けた。その手の動きはシルヴィス頼みますと言っているようである。
「いや、俺は起点を設定していないぞ?」
「……へ?」
「当たり前だろ。俺の転移術は次元の壁は越えれないからな。次元を越えるのは別の術だ。その起点を設定してないぞ」
「あ〜そう言われればそうですねぇ……で私たちはどうやって帰るんです?」
「お前が開けた孔から帰るのが一番手っ取り早かったんだが……どこかのお調子者が自慢している間に閉じちまったな」
「はぅ!! だ、大丈夫です!! この私が道を切り拓きましょう!!」
「うん、ちょっと待とうな」
「どうして止めるんです?」
「お前が来てくれたからやるべきことが減ったのはありがたい。だが、待ってくれ」
「おおっ!!ついにシルヴィスが私の有能さを認めましたね!! 任せてください!!」
ヴェルティアはそういうと両手に魔力を集め出した。よく見るとヴェルティアの両手に術式が浮かび上がった。
「どりゃぁぁぁぁぁ!!」
ヴェルティアが叫ぶと空間に思い切り両手を突き刺した。
「おい、待て!!」
シルヴィスの制止よりも早くヴェルティアが両手を突き刺した箇所はヒビが入り、それを無理矢理こじ開けるのが見えた。
開けた瞬間に凄まじい冷気が飛び込んでくる。
シルヴィスは顔を顰めつつヴェルティアの開けた孔から覗き込む。しばらくしてから顔を戻すとヴェルティアの開けた孔は元に戻った。
「うん、違う世界に繋がったな」
「どうしてわかるんです?」
「俺の設定した転移魔術の起点の気配を一切感じなかったからな」
「それってシルヴィスの探知能力が足りないということはないんですか?」
「ないな」
シルヴィスの断言にヴェルティアは即座に納得の表情を浮かべた。これはヴェルティアがいかにシルヴィスの能力を高評価しているかということであろう。
「とりあえず……
「わかりました!!」
「おお、ヴェルティアが成長してるな。えらいぞ」
「ふふっ!! このヴェルティアは常に成長し続けているんですよ!! シルヴィスもそのつもりでついてきてくださいね!!」
「はいはい」
ヴェルティアの返答にシルヴィスは少し首を傾げつつ術式の解析に入る。解析を始めて五分ほど経った時にシルヴィスがヴェルティアに言葉をかける。
「あ……あのさ」
「どうしたんです?」
「さっきシオルに言われた俺の弱点さ」
「シルヴィスの弱点ですか? あの殺意によって力を制限するってやつですか?」
「ああ、お師匠様が亡くなってから俺は基本一人で戦ってきたし、他の人と組むということもしてない」
「なるほど。シルヴィスの実力を考えれば他人と組むというより保護するというのが近いですよね」
「まぁ、現実問題そうだな。でな……俺はシオルの言った通り、相手の殺意によって力を制限していたわけだ」
「そうですね。でもそれって別に悪いことじゃないですよ」
「それはシオルにも言われたよ。だが、そこをつけ込まれたという現実もあるんだよな。でもお前がここまで来てくれて俺はもう一人で何もかも備える必要はないんだと思ったのさ」
「なるほど……」
「お前わかってないだろ?」
「し、失礼な!! 分かりますよ!!」
「ほう、それじゃあ。どういうことだ?」
「私がシルヴィスを助ければそれで解決すると言いたいわけでしょう!!」
「う〜ん、ちょいと違うな」
「おりょ? 違いましたか?」
「正確に言えばお前がここに来てくれたことで気づいたのさ。俺の力が及ばないことはお前の力に助けて貰えばいいし、お前が及ばないことは俺が力を貸せば良いということなんだよな」
「助け合いの精神が必要と言いたいのですね?」
ヴェルティアの端的な表現にシルヴィスは小さく笑った。
「ふふっ!! シルヴィスのことは私がきちんと助けますから、シルヴィスも私を助けてくださいね!!」
「ああ、これからも頼りにさせてもらうぞ」
「はい!! 任せてください!!」
ヴェルティアは力強く答えるとシルヴィスも頷いた。
シルヴィスの言葉をヴェルティアは今までと違うものと捉えている。その違いを言語化するのは限りなく困難であったが、それでも何かが変わったという確信だけはヴェルティアにあったのだ。
「さて……
「任せてください!!」
シルヴィスの言葉にヴェルティアは即答する。シルヴィスが指し示した箇所に先ほど同様に両手に術式を施し、そのまま空間に刺しこんだ。
ピシ……ピシ……
空間にヒビが入り、そのまま力任せに空間を開く。ヴェルティアはそこから次元の孔を超えていく。
「あれ? お取り込み中みたいですね!! いいでしょう!! このヴェルティアとシルヴィスが戻ってきた以上反撃といこうではありませんか!!」
妙に力強いヴェルティアの声が次元の壁の向こうから聞こえてきた。
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