第203話 神魔大戦 ~エランスギオム会戦④~
「おのれ、ミューレイの小僧め!!」
「全くだ!! 我々を誰だと思っているのだ!!」
シュレンザー達の怒りのボルテージは一向に収まる気配を見せない。。それだけミューレイの態度はシュレンザー達にとって衝撃であったのだ。ただその場で反論できないところが、シュレンザー達の実力の限界とも言える。
「シュレンザー殿、このままでは腹の虫がおさまらぬ」
「もちろんだ、ハールラル殿」
「ミューレイのような臆病者に構っておられぬ。やつは天軍の名誉を貶める臆病者だ。ここで我らが独自に動き、ミューレイめを軍団長の座から引き摺り下ろしてくれる」
「おう。魔族を蹂躙し、天軍の武威を示せばあの若造も我らのいうことを聞かざるをえまい」
「おお、ミューレイの小僧から第三軍団の軍団長の座を奪い取ってくれる!!」
シュレンザー達は怒りのままにミューレイを罵る。陰口を叩くことは間違いなく高潔な行動とは言えないのだが、それでも仲間内による陰口はより自己の主張を先鋭化させるのだ。
「兵を集めるぞ」
「ああ」
シュレンザー達は自分達が連れてきた兵を集める。腹立たしいことに第三軍団の天使、神達はミューレイ以外の命令を聞くことはない。
天使に命令を下そうとした時に、神が天使を引っ張っていってしまう。軍に所属している天使達は第三軍団に所属する神の命令を最優先する。
現在シュレンザー達も第三軍団所属という状況ではあるが、それでも軍団内の立場から言えばシュレンザー達の立場は絶対ではないのだ。
結局、シュレンザー達は自分達の直属の天使、
数はシュレンザー達神族五柱、天使八十三体、
「いくぞ!!」
「おお!!」
「穢らわしい魔族どもを踏み躙ってくれる!!」
シュレンザー達はもはや冷静な心情にはない。いや、魔族を同等の存在と見做していないため、蟻を踏み潰すような感覚なのである。
シュレンザー達はろくな作戦など立てることなく出撃する。シュレンザー隊の陣容は兵種がごちゃ混ぜになっており、軍として機能していないのは明らかだ。弓兵の隣に歩兵がまた天使の隣に槍兵というように雑然と並んでいるだけだ。
シュレンザー隊は真っ正面から激突する両軍の側面から襲い掛かり、一気に魔軍を蹴散らすつもりだったのだ。
「ミューレイめ!! 我らを甘く見たことを後悔させてやるぞ!!」
シュレンザー達の脳内では魔族を蹂躙する光景が展開されていたのかもしれない。シュレンザー達の嫌らしく上がった口角がそれを物語っている。
しかし、横槍が入ろうとした瞬間に第二軍団の側面がシュレンザー達に対応する。重装歩兵達が側面に槍衾と楯によりシュレンザー隊の突撃を受け止めた。
シュレンザー隊の先鋭はこの重装歩兵達の防御陣を破ることができずに、動きを止められたのだ。
そこに魔術師達が動きを止めたシュレンザー隊へ魔術を次々と放った。魔術師達の放った魔術は
「くそ!!」
「何をしている!! 役立たずどもめ!!」
シュレンザー達の苛立ちの声が発せられる。だがいかに神々であるシュレンザー達が怒ったところで、重装歩兵の防御を突き破ることはできない。
ただの雑多な集まりであるシュレンザー隊では防御陣を破ることなどできるはずもないのだ。
そこに、リューべの命を受けて横槍に備えていた第二軍団所属の第三旅団がシュレンザー隊の横槍を突いた。
第三旅団長であるレーウィックの戦いは限りなくシンプルなものだ。純粋な力による破壊であった。
「かかれぇぇぇえ!!」
『ウォォォォォォォ!!』
レーウィックの号令に団員達は咆哮を持って応じた。
「な……」
シュレンザー達の呆然とした声は次の瞬間に第三旅団の方向にかき消された。
それはまさしく力の奔流であった。レーウィック達の凄まじい勢いはシュレンザー達ではとても抵抗する事はできない。
神であるシュレンザー達の実力ならばたとえ上級魔族であっても勝つことは可能であろう。しかし、シュレンザー達は戦いに対する意識が決定的に異なっているのである。
物見雄山気分、狩猟気分のシュレンザー達と死力を尽くして敵と戦う意志レーウィック達とでは真剣さが全く違うのだ。
その気迫、殺意というものにシュレンザー達は浮足だったのだ。どのような実力者であってもこのような状態でいつもの実力を発揮することなどできるはずはない。
そして、レーウィック達はその隙を見逃すようなことは決してしない。浮き足だったシュレンザー達に容赦なくその剛性の力を振るった。
「ぎゃあああああ!!」
「ぐわぁぁ!!」
「シュレンザー様、ご指示をがぁ!!」
天使達はシュレンザー達に指示を受ける前に次々にレーウィック達に斃されていく。天使達が何の抵抗もできずに次々と敗れていく光景はシュレンザー達をさらに浮き足だたせることになった。
「あそこに神族がいるぞ!! 討ち取れ!!」
「殺せぇぇぇ!!」
「逃すな!!」
天使達を血祭りに上げた第三旅団の面々はシュレンザー達についに狙いを定めた。
「ひぃ!!」
シュレンザーについてきた神の一人が恐怖の叫びをあげる。もはや、シュレンザー達は戦うという選択肢を放棄している。
「あの神族達だけは必ず討ち取れ!!」
レーウィックの命令に部下達が咆哮を発した。これはもちろん威嚇であり、自分の命に危機が迫っていることを意識させるためである。
「うわぁ!!」
「ひっ!!」
シュレンザーの周囲にいた神族達が慌てて逃げ出した。
第三旅団の面々は容赦なく追い、容赦なく槍で刺し貫いた。
「ぎゃあああああ!!」
「ヒィ!!助けてくれ!!」
背中を指し貫かれた神族が倒れ込み、容赦なく第三旅団の面々がとどめを刺した。
「こ、こんな……こんなことが許されるわけがない!! 貴様らは神である私をころ……がぁ」
シュレンザーが喚いたがそれを無視して魔族達が次々と槍を投擲すると数十本の槍がシュレンザーを刺し貫いた。
「こ、こんな……バカなこと……」
シュレンザーは世の中の不条理を呪ったのかもしれない。神である自分が軽蔑していた魔族に惨めに殺されることが信じられない思いを抱いたままこと切れた。
「掲げよ!!」
「はっ!!」
レーウィックの命令を受けた兵士が討ち取ったシュレンザー達の首を切り落とすと槍の穂先に突き刺して掲げた。
「敵将討ち取ったり!!」
『ウォォォォ!!』
掲げられたシュレンザー達五つの首に第三旅団の面々が歓声を上げた。
しかし、その時、天軍からさらに横槍が入った。
アンガレス率いる兵団がそのまま突っ込んできたのだ。シュレンザー達を討ち取り一息ついたところを狙われたのだ。
「敵襲!! 備えろ!!」
レーウィックの厳しい声が発せられたがもはや間に合わないことはレーウィックは察していた。
アンガレスの
「はぁぁぁ!!」
アンガレスの
「くそ!!」
レーウィックはしてやられた事に唇を噛む。アンガレスがシュレンザー達を見捨て、レーウィック達が勝利により意識を切った瞬間を狙われたことを察した。
(神族ですら捨て駒にするほどの覚悟か……)
「レミュレング」
「はっ!!」
「お前は兵をまとめ後方へと下がれ。
「何を言われます!!下がるのは団長の方です!!」
「違う!! このままでは全滅だ。それを避けるには私が奴らを引きつけるのが一番損害が抑えられる。お前が次の第三旅団長だ!! 軍団長には次の団長はお前だと推薦している!!」
「しかし!!」
「いいから早くしろ!!」
レーウィックの厳しい声にレミュレングは唇を噛み締めると一礼する。
「隊列を整えつつ、下がるぞ!!」
レミュレングの命令に部下達は即座に応じる。レーウィックはその様子を見て小さく笑うと下がっていく流れに逆らいアンガレス達へと向かって進む。
「団長、お供しますよ」
そこに古参の部下達がレーウィックに告げる。その行為にレーウィックは呆れた表情を浮かべた。
「ついてきても死ぬだけだぞ」
「いやいや、いくら団長でもあの神様相手では大した時間は稼げませんって」
「若い者のために体を張ろうと思っているのは団長だけではないですよ」
「ふん……阿呆どもが俺はむさいおっさんの共なんぞいらんぞ。レミュレングを補佐して欲しいものだがな」
「あきらめましょうや。団長は女にモテるような顔じゃないですよ」
「ふん、俺は妻一筋だから構わん」
レーウィック達は軽口を叩きながらも陣形を整えていく。
アンガレスの姿を見たレーウィックは駆け出すとアンガレスへと切り掛かった。
キィィィン!!
レーウィックの大剣の一撃を
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