第202話 神魔大戦 ~エランスギオム会戦③~
リューべは疾風のように天軍へと駆けていく。天軍の最前列は突撃してた魔軍に対し槍衾で対応した。
リューべは大剣を振りかぶるとそのまま振り抜く。リューべの凄まじい斬撃に
次々と薙ぎ払われる
「不気味な連中だ」
リューべは蔑みにも似た感情を
それは兵士からすれば不気味で仕方のない存在であるのは間違いない。
士気の上がった第二軍団の兵士達がリューべに遅れて天軍に襲いかかった兵士達が
「うぉぉぉぉ!!」
「死ねぇぇぇえ!!」
魔軍の兵士達の咆哮が戦場に響き渡る。
(勢いはとったな……だが、天軍にとって
リューべはそう判断すると周囲を見渡す。彼自身だけで良いのならばこのまま天使、神を討ち取りに動くのであるが、軍団長という立場である以上、指揮を執る必要がある以上、下がるしかない。
リューべが先陣を切ったのは最も危険な役割を自分が追うことでさらに部下達の士気を上げるという目的があったのだ。それを果たした以上、リューべとすれば指揮に集中するしかない。
「閣下!!」
幕僚がリューべを呼ぶとリューべは一つ頷くと下がることにする。
「とりあえず、初手は上手くいった」
「お見事でございます」
「他の者達はこの勢いのまま攻め立てろ。我々は次の事態に備える」
「はっ!!」
リューべの命令に幕僚達は力強く答えると幕僚達を引き連れて後方へと下がる。
「閣下、我が軍団は優勢です……しかし、懸念があります」
「勢いが止まったと言いたいのだろう?」
「……はい。おそらくは天使か神が対応をしていると思われます」
「いかに士気が高くても天使、神が相手では勢いも止まるということだな」
「はい。しばらくは膠着状態が続くかと思われます」
「そうだな。前列が限界に達する前に中列と入れ替えろ。そのタイミングは前線指揮官に任せる」
リューべはここで右側を見る。隣に位置する第三軍団の戦いを見る。すると自軍団同様に勢いがなくなり膠着状態になっているのが見える。
「やつらは攻勢に出てないな……」
「は?」
「こちらの勢いを止めたのだ。私ならここで反攻に出るのだがな」
「……確かに」
「横槍を入れるか……そのまま神、天使を前面に押し出して真正面から我らを粉砕する」
「……」
「第三旅団を後方に待機させ、左陣への横槍に備えるよう伝令をだせ」
「はっ」
リューべは指示を出すとじっと戦況を見つめていた。
* * * * *
「これが魔軍の誇る第二軍団か……強い」
一方でリューべ引き入る第二軍団と当たったミューレイ将軍麾下の第三軍団である。リューべが先陣を切り、
「ミューレイ将軍!! このまま魔族風情に舐められるのを良しとするのか!?」
そこにミューレイ将軍に食ってかかってきた神々がいた。彼らはシュレンではなくディアンリア派の神々である。元々、ミューレイはディアンリア派の神々に対して非好意的である。その理由はこの神々達は第三軍団に属している者達ではないのだ。
魔族と全面戦争となった時に、新しく第三軍団へと編成された新参者である。にも関わらず神であるという立場を主張して我儘し放題であり、第三軍団の意思決定に何の権限もないのに干渉してくるのである。
しかも、その干渉は全く理知的ではなく、ひたすら自分達の都合の良いように物事が進むという傲慢なものでしかない。
本来であればこのような異分子を自軍に招くことはしたくないのだが、ヴォルゼイスの意向であると告げられればミューレイといえども無下にはできないというものだ。
(今更ながら……このような輩をどうして編入させたのか……)
ミューレイは心の中で苦々しく思っていた。勘違いしたこのディアンリア派の神々はミューレイに顧問にでもなったつもりなのか的外れなことを言ってくるのである。
「シュレンザー殿、敵軍の士気、練度は間違いなく強敵、それに総大将のシュレン様から反攻の指令は発せられていない。今は敵の勢いを殺すことに専念する
ミューレイの返答は明らかにシュレンザーの進言など聞くつもりはないという意思表示である。
それに気づいたシュレンザー達は一気にいきり立った。元々神は自分の意見が通らないことに大きな不満を持つ傾向がある。相手がヴォルゼイスやディアンリアのような上位者に対してはそのような不満を持つことはないが、そうでないものに対しては大きな不満を持つのである。
「貴様は栄光ある天軍が押されるような状況をただ指を咥えて見ていろというのか!!」
シュレンザーの激昂に対し、ミューレイは一瞥で返す。その視線のあまりの冷たさにシュレンザー達は一瞬言葉に詰まる。
「この軍団の軍団長は私だ。何を勘違いしているのだ? それとも……私から指揮権を知らぬ間に剥奪したとでもいうのか?」
「う……」
「今、前線では第二軍団の勢いを殺すために天使や神が戦っている。貴様らはここで何をしているのだ?」
「く……」
「第三軍団の軍団長は私だ。貴様らは私の指揮を邪魔しているだけの役立たず共だ。喚き散らすだけしか能がないというのどことなりとも失せろ!!」
ミューレイはシュレンザー達を怒鳴りつけた。シュレンザー達は目を白黒とさせていたが、咄嗟に反論することができない。
ミューレイがここでシュレンザー達を罵倒することなどないと思っていたのである。だが、ミューレイにしてみれば平時であれば流してやるのだが、会戦の真っ只中に煩わしさを振り撒くシュレンザー達に構っている暇などないのである。
「こ、後悔するなよ」
シュレンザー達はミューレイのあまりの剣幕に押され、小物らしい捨て台詞を吐いて退出していった。
「よろしいのですか?」
幕僚の一柱がミューレイに恐る恐る尋ねる。
「構わん。やつらの次の行動はディアンリアに縋るか、自分達で勝手に動くかだ。どのみち我が第三軍団の預かり知らぬことだ」
「我が軍を勝手に動かすやもしれませぬ」
「第三軍団の中にあれらについていく者がいるのか?」
ミューレイの思い切り軽蔑しきった視線に幕僚は苦笑を浮かべた。
「おりませんな。あの者達についていく者は天使達ですらおりますまい」
「ならば、あの者達の暴発についていくとすればあの者達の連れてきた天使達でしかないだろう?」
「はっ!!」
「そして……アホウの暴発を利用しない手はないだろう?」
ミューレイの言葉に幕僚達は恭しく一礼した。幕僚達はミューレイの作戦を理解したのだ。
(シュレンザーよ……お前はこの戦いの足枷でしかない。しかも醜く喚くだけの足枷だ。ここで外しておかねばな)
ミューレイはニヤリと嗤う。
ミューレイはそれから一時間ほど魔軍との戦闘指揮をとった。
「閣下!! シュレンザー隊が出撃いたしました」
「そうか。アンガレスに伝えろ。出番だとな」
「はっ!!」
ミューレイの指示は即座にアンガレスに伝わる。
アンガレスは筋骨逞しい二メートルほどの偉丈夫で手にした巨大な
指令を受けたアンガレスは部下達を率いて出撃していったとしばらくしてミューレイに報告が入った。
「シュレンザー……敵を甘く見るものは戦場ではすぐに死ぬ。これは狩ではないのだからな」
ミューレイの言葉は限りなく冷たかった。
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