神魔大戦 ~初戦①~

 ムルバイズ達の調査が終わり、珠に込められていた術式の解析が終わったのは、レティシアとシュレンが戦った日から五日後のことである。


 込められていた術式は大地に流れる魔力の流れを使った爆発の術式であり、いくつかの行軍ルートを吹き飛ばすためのものであった。この術式が箇所は数十箇所見つかり、一つでも爆発すると連鎖反応でまとめて吹き飛ばすものであったのだ。


 魔族達は徹底的に調査を行うと、爆発する術式が見つかりそれらはほとんど解除されるに至ったのである。


 現在も解除するために魔術師達が珠を探している状況であった。


「ふむ……困ったな」

「人手がいくらあっても足りんな」


 キラトのため息と共に吐き出した言葉にシルヴィスもため息まじりに答えた。


「完璧に全てに対処すことはできないことは分かってるが……進軍途中で罠がかけられるというのは困るな」

「そして動けない……だろ?」


 シルヴィスの言葉にキラトは頷いた。


 珠が仕掛けられているのは魔都エリュシュデンから西に向かう街道を狙い撃ちにしている。これは天界は魔都エリュシュデンの西方からやってくることを示している可能性を示唆している。


 そして、シルヴィスの見立てでは約五十万の大軍が展開されるには相当の広さの場所が必要である。その条件に見合う場所は、『エランスギオム平原』であることはわかっている。

 本来であればここに逆に罠を仕掛けるべき、あるいは罠がないかを徹底的に調査すべきであるが、これ自体が罠であり、全く別のところから進軍してくる可能性も否定できないのだ。


 そのため、最小限度の動きしか取れないという状況なのだ。


「エランスギオム平原に何か仕掛けられている罠は現段階で見つけることはできない……無いのか。よほど巧妙に隠しているのか……それすらも確信が持てん」

「ものすごく判断に迷うよな……」

「ああ、となると……結局はここから動けない」

「決断すべき時でないから逆に厄介だな」

「シュレンというのは相当な知恵者だ。しかし、他の神からは意外と評価が低いのが気になるな」

「間違いなく擬態だな……。あいつは必要ならば自分の評価を正当にされないことに対して何とも思ってないだろう」


 シルヴィスの評価にキラトは苦笑を浮かべつつ口を開く。


「お前と同類だな」

「何言ってる。お前もだろ。さりげなく自分は違うといい人ぶるのはやめてくれないかね。キラト君?」

「はて?」


 キラトは惚けた返答を行う。別に事態を甘く見ているわけではなく、こういう会話によりリフレッシュさせることは必要なことなのだ。


 コンコン!!


 そこに扉を叩く音が響いた。


「入れ」


 キラトの返答を受けてジュリナが駆け込んできた。


「キラト様!! アクランに天界の軍が現れました。既に転移してきている数は三万程、続々と転移してきているとのことです」

「アクランということは……エランスギオムで迎え撃つことになるな」

「はい。しかし、あちらの方が軍の展開が早いと思われます」

「わかってるアクランからエランスギオムは三日、そこから展開することを考えれば……最短で四日だな。こっちは出立に一日、展開に一日……こちらが早い」


 キラトはジュリナの報告を聞き、少し考え込むとシルヴィスを見る。シルヴィスはキラトと視線を交わすと即座にうなづいた。


「どれくらい稼げばいい?」

「最低一日、三日が理想だな」

「了解」


 シルヴィスはニヤリと笑うとキラトもそれに応えるように笑う。


「ジュリナ、すぐに皆を集めろ。出陣式を行う」

「わ、わかりました!!」


 キラトの命令をジュリナは即答するとそのまま駆けていった。


「さて、いよいよだな」

「ああ、計画通りにいって欲しいものだな」

「ああ」


 シルヴィスとキラトはそう言って自信ありげな表情を互いに浮かべた。

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